近年、中小企業の事業承継やスタートアップへの投資が盛んになる一方で、M&Aという仕組みそのものを悪用した「M&A詐欺」と呼ばれるトラブルも目立つようになってきました。
- 「条件はとても良さそうだが、本当に大丈夫なのか」
- 「M&A会社に勧められるまま契約してしまったが、後から考えるとおかしい気がする」
- 「売却後に代金が支払われない、会社の資金だけ抜かれている気がする」
こうした不安を感じて「M&A 詐欺」と検索している方も多いのではないでしょうか。
この記事では、M&Aを装った詐欺的なトラブルの代表的な類型と、M&A 詐欺 被害に遭ってしまった場合の被害回復の進め方を、紛争の視点から整理していきます。
まずは、この記事で分かることを簡単にまとめます。
- 「M&A詐欺」と呼ばれるトラブルが具体的にどのような類型を指すのか
- 売り手・買い手・仲介会社それぞれの立場で起こりやすいM&A詐欺の手口
- M&A詐欺かもしれないと感じたときの初動対応と、被害回復手段の全体像
- M&A詐欺に巻き込まれないためのチェックポイントと予防の考え方
「これは本当にM&A詐欺なのか?」と悩んでいる段階でも、早いタイミングで情報整理と専門家への相談をしておくことで、後から取り得る選択肢が大きく変わることがあります。
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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「M&A詐欺」とは何か?用語のイメージと法的な位置づけ
まず、「M&A詐欺」という言葉自体について整理しておきます。
M&A詐欺というのは、法律に書かれた専門用語ではなく、一般に
- 「M&Aを装って行われる詐欺的なスキーム」
- 「M&Aの枠組みを利用した悪質なトラブル」
を広く指す呼び方です。
ニュースやインターネット上では、「M&A詐欺」「M&Aを利用した詐欺」といった表現が使われますが、法的には次のように複数の側面から評価されることになります。
- 民法上の詐欺(欺罔行為)による契約の取消し
- 契約上の義務違反としての損害賠償請求
- 刑法上の詐欺罪などの犯罪行為
- 金融商品取引法その他の業法違反 など
つまり、「M&A詐欺」と呼ばれていても、個別の事案ごとに
- 本当に刑事上の詐欺に当たるのか
- 民事上どこまで責任追及ができるのか
- どのような形で被害回復を図れるのか
- といった点は大きく異なります。
「M&A詐欺」というラベルだけにとらわれず、自社のケースがどのような法的枠組みで整理できるのかを冷静に見極めることが大切です。
M&A全体のトラブル構造や、詐欺とは言えないまでも重大な契約トラブルについては、M&Aトラブル・紛争の全体像とよくある失敗パターンで俯瞰しておくとイメージがつかみやすくなります。
M&A詐欺の代表的な手口・トラブル類型
次に、「M&A詐欺」と呼ばれることが多いトラブル類型を見ていきます。ここでは、典型的なパターンを簡略化して説明します。あくまで実務家がM&A詐欺と呼ぶというよりは、一般の方が「M&Aで詐欺にあった」と感じるケースとご理解ください。
- 高額な前金・手付金を取られるケース
「有力な買い手がついた」「すぐにでも成約できる」と持ちかけ、高額な着手金・マッチング料・手付金を先払いさせた後、実態のない相手を理由に交渉が立ち消えになる類型です。通常のM&A仲介では成功報酬型や比較的少額の着手金が多いため、根拠の乏しい高額前金を求められる場合はM&A 仲介 詐欺的な手口の可能性も疑われます。 - M&A成立後に代金が支払われない・大幅減額を迫られるケース
株式や事業を譲渡したにもかかわらず、契約で定めた対価が支払われない、あるいは「想定外のリスクが見つかった」などと一方的に減額を迫られるケースです。分割払い・アーンアウト・退職慰労金など、後払い部分が多いスキームで問題化しやすい類型です。 - 買収後に会社資金を抜き取られる・会社が破綻に追い込まれるケース
買収した側の新経営者が、会社の現預金や資産をグループ内に移転したり、過大な役員報酬・コンサル料名目で資金を流出させたりするケースです。結果として会社が破綻し、従業員・取引先・元オーナーの個人保証などに重大な影響が出ることがあります。 - 情報だけ抜き取って契約を破棄するケース
買収する意思が乏しいにもかかわらず、M&A交渉を装って詳細な財務情報・顧客情報・ノウハウなどを入手し、その後契約を破棄する類型です。明確な詐欺と評価できるかは事案次第ですが、不公正な目的で情報を取得している場合には、法的責任が問題となる余地があります。 - 仲介会社・アドバイザーの説明不足・利益相反を伴うケース
仲介会社が自らの報酬を優先し、重要なリスクや条件を十分説明しないまま売り手・買い手を契約させるケースです。すべてが「詐欺」とまではいえないとしても、場合によってはM&A 仲介 詐欺と評価されるほど悪質な事案もあり得ます。
これらの類型は、売り手・買い手・仲介会社のいずれの立場でも起こり得るものです。
仲介会社との情報格差・利益相反に起因するトラブル類型については、仲介会社との情報偏在・利益相反で起こるM&A仲介トラブルでより詳しく整理する想定です。
典型的なサインとして、「やたらと話がうますぎる」「契約を急がせる」「内容を十分に確認させない」「前金を高額にしたがる」といった行動が繰り返し見られる場合は、慎重な対応が必要です。
「M&A詐欺かもしれない」と感じたときの初動対応
では、実際にM&Aの勧誘や取引の中で「これはM&A詐欺かもしれない」と感じたとき、あるいは既にM&A 詐欺 被害に遭った可能性があると気づいたとき、何から着手すべきでしょうか。
一般論として、次のようなポイントを押さえておくことが重要です。
第一に、「安易に追加の支払いや新たな書面へのサインをしない」ことです。
違和感を覚えた段階で、相手から新たな手付金や費用の支払いを求められても、一度立ち止まりましょう。同様に、「とりあえず仮契約だけ」「とりあえず合意書だけ」といった形で新たな書面への署名を急がされた場合も、内容や法的効果を十分に確認する必要があります。
第二に、「証拠・事実経過を整理して保全する」ことです。
具体的には、
- 交わした契約書・覚書・見積書・提案書
- メール・メッセージ・チャットのログ
- 説明資料・プレゼン資料・財務情報
- 支払いを行った場合の振込記録・請求書
といった資料を集め、時系列で事実関係を整理しておくことが、後の被害回復や紛争解決の基礎になります。
第三に、「早い段階で第三者の専門家に相談する」ことです。
相手方や仲介会社と直接やりとりを続けていると、どうしても心理的なバイアスがかかりがちです。企業法務・M&Aトラブルに詳しい弁護士、信頼できる会計士・税理士、公的な事業承継支援窓口など、利害関係のない第三者に事実経過を説明し、客観的な見立てをもらうことが有益です。
「警察に行くべきレベルなのか、それともまずは民事的な交渉・請求から始めるべきか」といった判断も、専門家の意見を踏まえて落ち着いて検討するのが望ましいでしょう。
M&Aトラブル全般の相談タイミングや費用感について整理したい場合は、M&Aトラブルを弁護士に相談すべきタイミングと費用感もあわせて確認すると、行動のイメージがつかみやすくなります。
坂尾陽弁護士
M&A詐欺被害の回復手段と進め方
次に、M&A詐欺の被害が疑われる場合に、一般的にどのような被害回復手段があり得るのか、その全体像を整理します。
ここでは、様々なケース(悪質性が極めて高いものも含む)について、理論上考えられる手段の方向性だけを示します。極端なケースにしか当てはまらない手段もありますので、個別案件の結論は必ず専門家と相談して判断してください。
代表的な法的手段としては、次のようなものが考えられます。
- 民事上の損害賠償請求・不当利得返還請求
虚偽説明や重要な事実の隠匿などにより、M&A契約や仲介契約が締結された場合、相手方の債務不履行や不法行為を理由に損害賠償を請求することが検討されます。代金未払い・資金の不正流出などがある場合には、不当利得返還請求も検討できるかもしれません。 - 契約の取消し・解除などによる原状回復
詐欺的な勧誘や重大な錯誤があった場合には、民法上の詐欺・錯誤を理由とした契約の取消しが問題となり得ます。また、契約上の義務違反がある場合には解除を主張し、可能な範囲で原状回復を図る方向性も検討されます。 - 仮差押え・仮処分などによる資産保全
相手方が資金を海外や別会社に移転してしまうおそれがある場合には、判決や和解を得る前に、銀行預金や不動産などの資産に仮差押え・仮処分を行い、回収可能性を確保することが重要になります。 - 刑事告訴・被害届の提出
初めから支払う意思がないのに代金支払いを約束したり、実態のない買い手を装って手付金を受け取ったりするなど、悪質な事案では、刑法上の詐欺罪等として刑事責任を追及することが検討される場合もあります。 - 行政機関・公的機関への相談
業法に基づく許認可が必要な事業者による違法行為や、広く中小企業に被害が及びかねないスキームが疑われる場合には、監督官庁や公的支援機関への相談も選択肢となり得ます。
これらの手段は、どれか一つだけを選ぶのではなく、
- まずは交渉での解決を試みる
- 同時並行で仮差押えなどの資産保全を行う
- 必要に応じて刑事告訴や行政への相談も検討する
- といった形で、組み合わせて使われることが一般的です。
どのタイミングで交渉から訴訟・仲裁・調停に切り替えるか、あるいは最初から裁判や仲裁を視野に入れるべきかといった戦略面の判断は、**M&A紛争を裁判・仲裁・調停のどれで解決すべきか【メリット・デメリット】**で詳しく整理していく想定です。
被害回復の可能性や費用対効果は、相手方の資力・スキームの構造・証拠の有無などによって大きく変わります。「どのルートで進むか」「どこまで回収を目指すか」は、法的な可能性とビジネス上の判断を両にらみしながら決めていくことになります。
まとめ:M&A詐欺に巻き込まれないためのチェックポイント
最後に、本記事のポイントと、M&A詐欺に巻き込まれないための基本的な考え方を整理します。
- 「M&A詐欺」は法律上の専門用語や実務家の間で一般的な用語ではなく、M&Aスキームを利用した詐欺的行為や悪質なトラブル全般を指すラベルであり、民事・刑事など法的評価は事案ごとに異なる。
- 典型的なM&A詐欺の類型として、高額な前金・手付金を取られるスキーム、対価の不払い・一方的減額、買収後の資金抜き取り、情報だけ抜いて契約を破棄する事例、M&A 仲介 詐欺と呼べるような構造的問題などがある。
- 「M&A詐欺かもしれない」と感じたら、安易に追加支払い・新たな契約を結ばず、事実経過と証拠を整理したうえで、企業法務・M&Aトラブルに詳しい専門家や公的窓口に早期相談することが重要。
- 被害回復の手段としては、損害賠償請求・契約の取消し・不当利得返還請求・資産保全・刑事告訴・行政への相談などがあり、交渉・訴訟・仲裁・調停との組み合わせ方を含めて戦略的に検討する必要がある。
- 予防の観点からは、「条件が良すぎる話ほど慎重に」「相手企業・仲介会社の実態を確認する」「重要な契約は事前に専門家チェックを受ける」という基本を徹底することが、M&A 詐欺 被害を避けるうえで有効である。
M&Aは、本来は事業承継や成長戦略の有力な手段です。一部の悪質なプレーヤーによるM&A詐欺的な行為に足をすくわれないよう、基本的なリスクの見方と対処の方向性を押さえたうえで、自社にとって納得のいくM&Aを目指していただければと思います。
坂尾陽弁護士
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