顧客情報持ち出しで従業員らを刑事告訴し捜査をスピーディに進めた対応事例

従業員による顧客情報の持ち出しは、売上の低下だけでなく、顧客との信頼関係や事業の継続そのものに影響します。とくに、ID・パスワードが絡むと不正アクセスの疑いも生じ、社内調査だけでは対応が追いつかないことがあります。

本記事では、教育系サービスを提供する企業が、退職した従業員らによる顧客情報の持ち出し・漏えいが疑われたため、当事務所が刑事告訴をサポートし、捜査をスピーディに進めた対応事例をご紹介します。解説に寄りすぎず、「どのような事情で」「どんな手を打ち」「どこまで進展したか」を中心にまとめます。

  • 顧客リストに加え、ID/PWや研修教材の持ち出しが疑われ、競合への流出リスクが高かった
  • 国外逃亡の恐れがあり、民事だけでなく刑事告訴による早期の捜査着手が重要だった
  • 営業秘密の観点と不正アクセスの観点を同時に整理し、告訴状と証拠を短期間で取りまとめた
  • 警察が捜査に着手し、逮捕に向けて動き出す状況まで進んだ

坂尾陽弁護士

「顧客情報が持ち出されたかもしれない」と気付いた時点で、初動(証拠保全とアクセス遮断)が勝負になります。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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相談前に起きていたこと

ご依頼企業は、研修・講座などの教育系サービスを提供しており、見込み客・受講者の情報をもとに継続的なフォローやアップセルを行っていました。顧客対応の多くはオンラインで完結するため、社内では顧客管理システムや会員サイトのアカウント情報、研修教材(テキスト・動画等)を扱っていました。

ところが、従業員が退職した後になって、顧客が競合他社へ流れている疑いが生じました。営業現場では「以前の担当者しか知らないはずの情報を、競合側が把握している」「会員専用の案内が第三者に流れているようだ」といった兆候も出始め、社内で確認せざるを得なくなりました。

社内で調査したところ、顧客リストに加え、ログインに用いるID・パスワード、研修教材(コンテンツ)のデータが社外に流出した可能性が浮上しました。口頭での引継ぎやメール中心のやり取りも多く、どこから情報が抜けたのかが分かりにくい一方、放置すれば顧客流出が広がりかねない状況でした。

さらに、漏えいに関与した疑いのある人物の中に外国籍の者がおり、国外へ出られてしまうと追及が困難になるおそれがありました。企業としては、損害の回復だけでなく、再流出の防止と、顧客への説明責任も意識しなければならない局面でした。

当事務所が行った対応

当事務所は、まず「何が」「いつ」「誰が」「どの経路で」持ち出した疑いがあるのかを、ヒアリングと資料確認で整理しました。そのうえで、本件はスピードと強制力が重要であり、社内調査を深追いして相手に警戒心を与えるよりも、刑事告訴によって警察に捜査してもらう方針が合理的であると判断しました。

あわせて、民事(差止め・損害賠償)も視野に入れつつ、まずは捜査機関に動いてもらうための「入口」を整えること、つまり告訴状の完成度初動の証拠を短期間で揃えることに注力しました。

初動の証拠保全とアクセス遮断

本件では、ID・パスワードの持ち出しが疑われたため、アカウントの停止・権限の見直し・パスワード変更など、被害拡大を防ぐ措置が不可欠でした。加えて、クラウドストレージや共有フォルダ、メール転送設定なども含め、社内の「抜け道」が残っていないかを点検しました。

同時に、ログや入退室記録、端末の使用状況、メール・クラウドの利用履歴など、「後からでも検証できる形」で証拠を確保する必要があります。ここで不用意にデータを削除したり端末を初期化したりすると、かえって立証が難しくなることがあるため、当事務所は会社側で取得可能な資料の範囲と、取得する際の注意点(改変疑いを招かない整理方法等)を助言しました。

結果として、社内で散在していた資料を「時系列」「関係者」「情報の種類」ごとに整理し、捜査機関に説明しやすい形にパッケージ化できました。

証拠保全の段階で、関係者に「告訴する」「警察に行く」と先に伝えると、証拠隠滅や国外逃亡のリスクが高まることがあります。初動は慎重さが重要です。

「営業秘密」と「不正アクセス」の両面から構成を組み立てる

顧客リストや研修教材は、管理方法や内容によっては営業秘密として保護され得ます。また、ID・パスワードが関わる場合、第三者がそれを用いて会員サイト等へアクセスした事実があれば、不正アクセスの問題も生じます。

本件は、単純な「名簿の持ち出し」ではなく、営業秘密(顧客基盤・教材等)と、認証情報(ID/PW)の不正取得・不正利用が絡む可能性がありました。そこで当事務所は、社内の管理実態(アクセス制限、共有範囲、持ち出しルール、退職時の返却・削除の取り決め等)を確認しつつ、どの情報がどの法令上の保護対象に当たり得るかを整理しました。

この整理により、告訴状の中で「何が侵害されたのか(会社が守ってきた価値)」「侵害の態様(不正取得・使用の疑い)」「会社が受けた不利益(顧客流出・信頼低下のリスク)」を一貫したストーリーで説明できるようになります。

告訴状の作成と提出

本件では、営業秘密を不正な利益のために漏えいしたとして不正競争防止法違反、さらに他人のパスワード等の不正取得・不正利用の疑いとして不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反を軸に、告訴状を作成しました。

告訴で重要なのは、単に「持ち出された」と主張するだけではなく、いつ・誰が・どの経路で・どの情報にアクセスし、どのような不利益が生じたのかを、客観資料と結び付けて説明することです。当事務所は、事実関係の時系列を作り、証拠の紐づけを行ったうえで提出しました。

また、国外逃亡の恐れがある点についても、会社側が把握している事情を整理し、捜査の緊急性を説明できる形に整えました。これにより、捜査機関側も「早期に動くべき理由」を把握しやすくなります。

結果

告訴状提出後、警察が捜査に着手し、関係者の身柄確保(逮捕)に向けて動き出す状況となりました。ご依頼企業としても、初動でアカウント管理を立て直し、追加の情報流出リスクを抑えながら、捜査の進展に合わせて必要な対応を取れる状態になりました。

顧客情報漏えいの事案では、「泣き寝入り」になりがちだと感じていた企業も少なくありません。しかし本件では、適切な初動と手続選択により、捜査のテーブルに載せるところまで進められた点に大きな意義がありました。

本件で重要だったポイント

  • 初動で被害拡大を止める:パスワード変更・権限停止など「今起きている侵害」を止める
  • 証拠を残す順番を誤らない:ログ等を確保し、後から説明できる形に整理する
  • 民事と刑事の使い分け:国外逃亡の恐れなど緊急性が高い場合は刑事手続が有効になり得る
  • 営業秘密×不正アクセスの複合視点:情報の性質に応じて法的構成を組み立て、告訴の説得力を上げる
  • 「見せ方」を整える:時系列と証拠の紐づけで、捜査機関が理解しやすい資料にする
顧客情報の持ち出しは「社内の不祥事」ではなく、事業の根幹(顧客基盤)を揺るがすインシデントです。早い段階で専門家を入れるほど、選べる手段が増えます。

顧客情報持ち出しが疑われるときの企業の対応

同種のトラブルでは、対応の遅れが被害拡大につながりやすい一方、焦って動くと証拠を失うこともあります。一般的には、次の観点で整理してから動くことが有効です。

  • どの情報が持ち出された可能性があるか(顧客リスト、ID/PW、教材、提案資料など)
  • 侵害の経路は何か(社内端末、クラウド、メール、アカウント不正利用など)
  • まず止めるべきリスクは何か(不正ログイン、追加持ち出し、顧客への二次被害など)
  • 民事(差止め・損害賠償)と刑事(告訴)のどちらが適切か、優先順位はどうか

本件でも、告訴が目的化したわけではなく、「被害拡大を止め、将来の回復手段を確保する」ために最適な選択肢として刑事手続を選びました。当事務所では、事案の緊急性や証拠状況を踏まえ、方針整理からサポートしています。

さらに、再発防止の観点では、退職時のアカウント棚卸し、アクセス権限の最小化、社内規程の整備、秘密保持条項の運用など、日常の管理が効いてきます。紛争対応と並行して「次に同じことを起こさない」枠組みを作ることも重要です。

まとめ

  • 顧客情報の持ち出しでは、営業秘密と不正アクセスの両面が問題になり得る
  • 国外逃亡の恐れがあるなど緊急性が高い場合、刑事告訴が有力な選択肢になる
  • 告訴の成否は、初動の証拠保全と時系列整理で大きく変わる
  • 本件では告訴後に捜査が進み、逮捕に向けて動き出す状況まで進展した

坂尾陽弁護士

「情報が持ち出されたかもしれない」と感じた段階で、早めにご相談いただくことで、止血と証拠固めを同時に進められます。

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