本件は、親族経営の非上場会社で、経営方針や会社運営をめぐる対立が深刻化し、社内外の関係者にも影響が及びかねない状況でご相談をいただいた事案です。
いわゆる「経営権争い 弁護士」で検索される場面に近く、法律論だけでなく、感情面・資金面・手続面を同時に整理する必要がありました。
少数株主グループから、放漫経営への不満や親族間の金銭の貸し借り(貸付金)の精算要求が重なり、会社としては紛争の長期化を避けつつ、将来の経営の安定を確保する着地点が求められていました。なお、少数株主側から見た場合の問題点の整理は**少数株主 弁護士相談 **サイトでまとめています。
当事務所は会社側の代理人として、争点を整理したうえで交渉方針を設計し、株式の譲渡(売却)と金銭精算をワンセットで合意にまとめました。結果として、相手方が解決金として1400万円を取得し、株主間・親族間の問題を一括で清算する形で終結しました。
坂尾陽弁護士
- 親族経営で起こりがちな経営権争いが、どのように紛争化するか
- 会社側が抱えやすいリスク(資金繰り・意思決定・レピュテーション)
- 交渉で着地させるために、株式譲渡と金銭精算をどう組み立てるか
- 合意後に蒸し返しを防ぐための契約設計のポイント
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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相談前の状況
対象会社は、長年親族経営が続く譲渡制限会社(非上場会社)でした。代替わりを経て株式が一定程度分散し、経営に関与する親族と、経営には関与しない親族株主が並存していました。
経営者交代後、少数株主グループから見ると「会社の数字が見えない」「説明が十分ではない」という不信感が強まり、役員報酬や経費の使い方についても疑問が呈されるようになりました。加えて、親族間で過去に行われた資金の貸し借りが残っており、誰が誰にいくら貸しているのか、返済がどこまで進んでいるのかが曖昧なまま積み残されていました。
こうした状況で、少数株主グループは、経営陣に対する責任追及を示唆しつつ、貸付金の精算とあわせて「株式を手放して関係を整理したい」という要望を出してきました。会社側としても、親族間の対立を社内に持ち込んだ状態が続くことは望ましくなく、早期に整理する必要がありました。
一方で、親族同士が直接やり取りを続けるほど感情が先行し、要求が大きくなったり、過去の出来事が次々と蒸し返されたりしやすい類型です。会社としては、経営の現場を守る観点からも、交渉窓口を一本化し、冷静に合意形成を進める必要がありました。
会社側が抱えていたリスク
本件は、単に「株式を買い取るかどうか」だけの問題ではなく、経営の安定に直結する複数のリスクが同時に存在していました。とくに会社側では、次の点が問題となりました。
- 資金繰りと調達への影響:買い取り資金をどう捻出するかに加え、金融機関や主要取引先に不安を与えない説明が必要でした。
- 意思決定の停滞:株主間対立が続くと、重要な投資判断や組織変更を検討する場面で「将来の火種」が残り、経営判断が遅れます。
- 親族間の貸付金・立替金の混在:会社の債務なのか個人間の債務なのかが混ざると、交渉が感情論になりやすく、合意しても蒸し返されやすい類型でした。
- レピュテーションと社内への波及:親族の対立が従業員に伝わると、離職や採用難につながり得ます。社内の安心感を回復する必要がありました。
したがって、会社側としては「株式の価格交渉」だけに集中するのではなく、争点の切り分けと合意書の設計を含めて、全体を一体で収束させる方針が合理的でした。企業内紛争での論点については、** 会社内部紛争(株主・経営権・役員)の会社側対応 **で網羅的に整理しています。
当事務所の対応
争点と金銭関係の棚卸し
まず、交渉の前提として、争点を「経営に関する不満・責任追及」「貸付金等の精算」「株式の出口(譲渡)」に分解しました。分解せずに交渉を始めると、話題が行き来して論点が拡散し、着地が見えなくなるためです。
そのうえで、会社側で確認可能な範囲の資料(株主構成、過去の議事録、金銭の授受を示すメモ・振込履歴等)を整理し、どこまでが客観的事実として説明できるかを確定しました。親族間の出来事は口約束や覚書レベルで残っていることも多いため、「証拠がある点」と「証拠が薄い点」を丁寧に切り分けました。
また、少数株主グループが問題視している点については、感情面を刺激しない言い回しを意識しつつ、会社として説明できる範囲・できない範囲を明確にし、交渉の土台を整えました。事実の整理が曖昧なままだと、交渉のたびに前提が揺れて合意が遠のくためです。
(参考)株主紛争とは?原因・典型パターン・解決手段を解説
直接交渉を止め、窓口を一本化
紛争が親族間の対立に波及している場合、当事者同士の直接連絡が続くほど、要求が増幅してしまうことがあります。そこで本件では、当事務所が窓口となり、連絡経路を一本化しました。これにより、交渉の論点を整理したうえで、同じ説明を繰り返す負担を減らし、会社側の精神的・時間的コストも抑えました。
交渉の着地点を先に設計
次に、会社側のゴールを明確化しました。本件のゴールは、相手方の不満を個別に論破することではなく、会社の経営を前に進めることです。そこで、
- 相手方が株主から退出する(株式を譲渡する)こと
- 貸付金・立替金等を含めた金銭関係を一括で清算すること
- 将来の蒸し返しを防ぐ条項(清算条項・秘密保持等)を入れること
という「一括解決パッケージ」を前提に、金額レンジとスケジュールを設計しました。
株式の価格については、会社の規模や収益状況、純資産の水準、少数株式であることの市場性の乏しさ等を踏まえ、双方が受け入れ得る現実的なレンジを提示できるよう準備しました。あわせて、買い取り資金の手当(支払い方法・分割の可否)についても、会社の資金繰りを損なわない形で検討しました。
譲渡制限会社では、形式面でもつまずきやすいため、株式譲渡を誰が引き受けるのか(会社が自己株式として取得するのか、支配株主個人が買い取るのか)も含めて選択肢を整理しました。あわせて、譲渡承認の手続(承認機関・決議の取り方)や、株主名簿の書換え、株券発行会社であれば株券の受渡しといった実行段取りまで、先に具体化しました。
さらに、交渉の途中で相手方の要望が変動した場合でも、都度「何が決まり、何が未決か」を整理して提示し、交渉の後戻りを防ぎました。経営権争いでは、要望が揺れた瞬間に対立が再燃しやすく、合意が直前で崩れることもあるためです。
合意書・株式譲渡契約の作成と実行
交渉が進んだ段階で、合意内容を「株式譲渡契約(譲渡承認を含む)」「和解合意(清算条項)」として文書化しました。経営権争いの類型では、合意後に感情がぶり返して追加請求が出ることがあるため、合意書には、次のような観点を反映しました。
- 本件に関連する請求を相互に放棄し、今後追加請求をしないこと(清算条項)
- 親族間の貸し借りを含め、支払いの性質と範囲を明確化すること
- 社内外への影響を抑えるための秘密保持・情報開示の取り扱い
- 支払日・振込先・株式譲渡の実行日など、実務の段取りを具体化すること
とくに「支払いだけ先にしてしまう」「株式の名義書換えが後回しになる」といった段取りのズレは、合意後の不信感につながりやすい点です。そのため、支払と株式譲渡の実行を同日に行う手順や、必要書類の準備期限を合意書で明確にし、実行面でのリスクを抑えました。
本件では、裁判手続に移行せず、交渉のみで合意・実行まで到達しました。会社側としては、経営に集中できる環境を早期に回復できた点が大きなメリットでした。
解決結果
最終的に、少数株主グループが保有する株式を譲渡する形で関係を整理し、金銭面も一括で精算する合意が成立しました。解決金としては、相手方が1400万円を取得する内容で着地し、親族間で積み残されていた金銭関係についても、合意の範囲を明確にしたうえで清算しました。
会社側としては、株主間の対立が沈静化したことで、重要な経営判断を行いやすくなり、社内への悪影響も抑えられました。また、合意内容を文書化し、清算条項や実行手順を具体化したことで、合意後の蒸し返しリスクも低減できました。
合意後は、株主名簿の書換え等の実務を速やかに行い、会社内の情報管理・稟議フローも見直しました。とくに親族間での貸し借りが生じやすい会社では、金銭の出入りが後から争点化しないよう、手続と記録を整備しておくことが再発防止につながります。
同様の経営権争いで会社側が意識したいポイント
親族経営の会社では、感情とお金が結びつくため、紛争が長期化しやすい傾向があります。会社側としては、次の観点を押さえることで、交渉での早期収束を目指しやすくなります。
- 最初に「争点の切り分け」を行い、論点の拡散を止める
- 貸付金・立替金は、会社債務と個人間債務を分けて整理する
- 株式の出口(譲渡・買取)と金銭精算を一体で設計し、部分合意の積み残しを減らす
- 交渉窓口を一本化し、当事者同士の直接衝突を減らす
- 合意書は清算条項・秘密保持・実行手順まで落とし込み、蒸し返しを防ぐ
- 資金繰りを損なわない支払設計にし、金融機関・取引先への影響を最小化する
まとめ
- 親族経営の経営権争いは、感情と金銭問題が絡み合い長期化しやすい
- 会社側は「責任追及」「貸付金精算」「株式譲渡」を切り分けて交渉を設計することが重要
- 株式譲渡と金銭精算をセットで合意し、清算条項等で蒸し返しを防ぐ
- 本件は交渉のみで、解決金1400万円を含む一括清算で終結した
経営権争いは、社内の意思決定だけでなく、金融機関・取引先・従業員にも波及し得るテーマです。小さな違和感の段階で整理に着手できれば、交渉で収まる余地が大きくなります。状況が複雑になっている場合でも、まずは事実関係と着地点の設計から始めることをおすすめします。
坂尾陽弁護士
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