本件は、非上場会社が将来のM&A・資金調達・事業承継を見据え、種類株式で支配権を確立するために、議決権の構成を整理した解決事例です。
対象会社は急成長の過程で株主が増え、最大株主Aが過半数は保有しているものの2/3には届かない状態でした。取締役会の通常決議は進められても、定款変更や組織再編等の局面では特別決議が必要になるため、今後の「次の一手」を打つたびに、少数株主の同意を都度取り付けなければならないリスクがありました。
そこで当事務所は、株主Cの保有株式を無議決権の種類株式へ転換し(代わりに優先配当権を設計)、あわせて株主Dの保有株式を自己株取得によって会社が買い取ることで、会社側の資本政策として無理のない形で議決権を集約する方針を立てました。
坂尾陽弁護士
- 目的は「支配のため」ではなく、M&A・資金調達・事業承継を安全に進められる状態を作ること
- 種類株式(無議決権+優先配当)で、議決権を減らす代わりに経済的メリットを確保
- 自己株取得で退出希望の株主を整理し、将来の意思決定コストを下げる
- 結果として、最大株主Aが2/3超の議決権を確保し、重要局面の意思決定が安定
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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ご相談前の状況
対象会社は、優良な事業を営む非上場会社でした。創業期から成長期にかけて資金調達や人材確保を優先した結果、株主が増え、株主構成が複雑になっていました。
最大株主Aは経営を主導し、株式の過半数を保有していましたが、将来的に予定していた「資本政策上の大きな意思決定」(例:組織再編、種類株式の発行、重要なM&Aの条件変更等)を進めるには、2/3超の議決権が必要になる局面が想定されていました。
しかし、少数株主が複数存在していたため、次のような課題がありました。
- 重要局面で合意形成が止まり得る:少数株主が反対すると、特別決議が必要な場面で意思決定ができない
- 交渉コストが増大する:その都度「賛成の条件」を提示されると、M&Aのスケジュールや資金調達の条件に悪影響が出る
- “退出したい株主”の存在:投資回収やライフイベント等の事情で、株式を現金化したい株主がいても、放置すると将来の火種になる
- 会社法手続の難しさ:種類株式や自己株取得は、設計と手続を誤ると、後で無効主張・紛争化・税務面の問題に発展し得る
当事務所が立てた方針
本件のゴールは、「少数株主を排除すること」ではありません。会社側の資本政策として、将来のM&A・資金調達・事業承継を進めるために、意思決定が止まらない状態を作り、かつ当事者(株主)にとっても合理的な落としどころを作ることでした。
そこで、次の二本立てで進めました。
- 種類株式の設計:株主Cの普通株式を無議決権株式に転換する代わりに、優先配当権等の経済条件を設計し、納得感を確保する
- 自己株取得の実行:株主Dの株式を会社が買い取り、退出ニーズを満たすとともに、将来の株主対応コストを削減する
この組み合わせにより、「議決権の集約」と「少数株主の経済的利益の確保」を同時に実現し、結果として最大株主Aが2/3超の議決権を確保できる設計としました。
実際の対応と交渉の流れ
現状把握と“次の一手”の整理
最初に、株主名簿、定款、株主間の合意の有無、過去の資金調達経緯などを確認し、「近い将来に何を実行したいのか(M&A・資金調達・承継)」を経営側とすり合わせました。
支配権の問題は、単に議決権比率の話ではなく、事業のスケジュールと資金計画に直結します。そこで、本件では「いつまでに」「どの程度の意思決定の自由度が必要か」を言語化し、手段の選択(種類株式/自己株取得)を具体化しました。
種類株式(無議決権+優先配当)の条件設計
株主Cは、経営に強く関与したいタイプではなく、むしろ「株式を持っている以上、安定した経済的メリットがほしい」というニーズが中心でした。一方で会社としては、重要局面での議決権構成を安定させたいという事情がありました。
そこで、議決権を制限する代わりに、優先配当権を付与する種類株式を設計し、「Cにとっては合理的、会社にとっては意思決定が安定」という一致点を作りました。条件を詰める際は、配当条件の決め方や将来の買戻し・償還の選択肢も含めて、中長期で揉めにくい設計を意識しました。
自己株取得の実行条件(資金・手続・価格)を固める
株主Dについては、将来の関与を続ける意向が薄く、どこかのタイミングで株式を現金化したいという事情がありました。そこで自己株取得による整理を検討しました。
自己株取得は、会社側から見ると「株主を整理できる」というメリットがある一方で、手続や財源(分配可能額)等の制約があります。そこで、資金繰りに無理が出ない形での取得方法とスケジュールを組み、株主総会決議・契約書・決済の段取りを落とし込みました。
株主との利害調整と合意形成
実務上、この種の案件で最も時間がかかりやすいのは、「法律論」よりも「感情を含む利害調整」です。少数株主は、将来の扱いへの不安や、情報格差による不信感を抱えやすいからです。
本件では、会社側としての目的(将来のM&A・資金調達・承継のための資本政策)を丁寧に説明しつつ、Cには経済条件の見える化、Dには早期決済の確実性を提示しました。あわせて、株主間での不要な対立を避けるため、合意事項を明確に文書化し、誤解が生じやすい点(配当条件、議決権の範囲、取得後の扱い等)を先回りして潰しました。
会社法上の手続を踏まえた実行
種類株式の導入や自己株取得は、定款変更や株主総会決議など、一定の会社法手続を要します。ここを軽視すると、後から「無効だ」「説明がなかった」と争点化し、せっかく整えた資本政策が逆に不安定になります。
そこで、必要な決議・書面・説明プロセスを整理し、関係者の理解を得ながら、手続の瑕疵が残らない形で実行しました。
解決の結果
上記の設計と実行により、株主Cは無議決権の種類株式となる代わりに優先配当権を得て、株主Dは自己株取得により株式売却代金を受領して会社から退出しました。
その結果、最大株主Aは2/3超の議決権を確保し、将来のM&A・資金調達・事業承継に向けた意思決定が、株主構成の不安定さに左右されにくい状態になりました。
本件は、関係者が複数いたため調整事項も多く、実行までには一定の準備期間を要しましたが、全体としてはおおむね数か月〜半年程度のレンジで着地しています。
本件で重要だったポイント
会社側から見て、支配権や議決権の整理は「力で押す」と必ず反発が出ます。本件で重視したのは、次のポイントです。
- ゴールを明確化する:M&A・資金調達・承継など、将来の経営判断を止めないための資本政策であることを共有
- 相手方のメリットを作る:無議決権化の代わりに優先配当など、経済条件を具体化して納得感を確保
- 自己株取得の“実行可能性”を先に固める:資金・スケジュール・手続を先に詰め、途中で破綻しない設計にする
- 手続の瑕疵を残さない:株主総会・定款・契約書・説明プロセスを整え、後日の無効主張や不信感を抑える
同様の状況で会社が準備しておくとよいこと
種類株式や自己株取得を検討する際、早い段階で次の資料・情報が揃っていると、設計と交渉が進みやすくなります。
- 最新の株主名簿、発行済株式数、議決権数(種類株式がある場合は内訳)
- 定款、株主間契約の有無、譲渡制限の内容
- 今後の経営計画(資金調達、M&A、組織再編、承継の見込み)
- 自己株取得に充てられる財源の見込み(資金繰りに影響が出ない範囲)
- 当事者(株主)ごとの事情(配当重視か、退出希望か、関与継続か)
弁護士からのコメント
種類株式や自己株取得は、制度としては知られていても、実際に「誰の株式をどう動かすか」「条件をどう設計するか」「社内外の合意をどう取るか」が難しく、結果として先送りになりがちです。
しかし、M&Aや資金調達、事業承継は“待ってくれない”局面が多く、直前になって慌てるほど選択肢が狭くなります。本件のように、会社側の目的を明確にしたうえで、利害調整と会社法手続を同時に組み立てることで、株主構成の整理は現実的に実現可能です。
- 種類株式(無議決権+優先配当)と自己株取得を組み合わせ、利害調整と議決権の集約を両立
- 最大株主Aが2/3超の議決権を確保し、M&A・資金調達・事業承継の意思決定が安定
- ポイントは、相手方のメリット設計と、会社法手続の瑕疵を残さない実行
坂尾陽弁護士
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