本記事では、先代の相続をきっかけに兄弟を中心とする株主グループ間で経営方針が割れ、意思決定が止まりかけた会社について、会社分割で飲食事業と不動産事業を切り分け、株主対立を解消した解決事例をご紹介します。
本記事は当事務所が取り扱った解決事例をもとにしています。特定を避けるため、業種・数値・時系列など一部を抽象化しています。
- 祖業(飲食)と投資(不動産)が同居していると、資金の使い方を巡って株主の利害がぶつかりやすいです。
- 会社分割だけでは不十分なことがあり、分割後の株主構成(支配権)まで設計できると合意形成が進みます。
- 親族・複数株主が絡む局面は、手続だけでなく説明資料と段取りが結果を左右します。
1. ご相談の背景:相続で株式が分散し、兄弟間で方針が割れた
ご相談いただいたのは、飲食事業を祖業として成長し、その余剰資金で不動産投資(賃貸)も行う会社(以下「A社」)です。先代の逝去後、株式が兄弟・親族に分散し、株主グループが複数に分かれました。
当初は「家業を守る」という思いが共通していたものの、飲食事業の拡大に投資したいグループと、不動産を厚くして安定収入を重視したいグループで、経営方針が徐々に対立。取締役会・株主総会で結論が出ず、現場の重要な意思決定(出店、設備投資、人材採用、物件取得等)が先延ばしになっていました。
2. 問題の核心:2事業が同居すると「勝ち筋」が違い、争点が増える
A社のように、飲食と不動産を同一法人で回していると、経営判断が一本化される一方で、株主の利害が一致しないときに争点が増えがちです。
本件でも、主に次のような論点が繰り返し対立しました。
- 飲食の余剰キャッシュを、出店・人件費に回すのか、不動産の取得・修繕に回すのか
- 不動産の売却や担保活用など、資産戦略を取るかどうか
- 配当を増やすのか、内部留保を厚くするのか(税務面も含む)
議論が噛み合わない状態が続くと、会社全体としては「何も決められない」状態になり、結果として飲食事業の競争力も、不動産事業の収益性も落ちてしまうリスクが高まります。
3. 当初の目標:対立を“勝ち負け”にせず、経営責任を分ける
ご相談時点で、双方の株主グループとも「相手を排除したい」というより、自分たちの考える運営方針で事業を回したいというニーズが強い状況でした。
そこで当事務所では、争点を「誰が正しいか」ではなく、次のゴールに置き換えて整理しました。
- 飲食事業は飲食にコミットできる体制で、スピード感ある意思決定を可能にする
- 不動産事業は資産管理・賃貸運営に適した体制で、長期目線の運用を可能にする
- どちらの事業も、株主間の摩擦で止めない(従業員・取引先への影響を抑える)
4. 検討した選択肢:株式買取・事業譲渡では解けない“混在”の問題
株主間対立の場面では、「どちらかが株式を買い取る」「事業を売ってしまう」といった選択肢が先に挙がりやすいです。しかし、本件では次の理由でハードルが高い状況でした。
- 株式買取:買い手(当事者・会社)の資金負担が大きく、評価(価格)でも対立しやすい
- 事業譲渡:契約の移転・許認可・従業員の同意など実務負担が重く、時間がかかりやすい
- 現状維持+合意書:書面でルールを作っても、根本の利害(資金配分)が一致しないと再燃しやすい
そして何より、分割後も株主が混在したままだと、経営判断はまた止まります。「事業の切り分け」と同時に「支配権の切り分け」が必要でした。
5. 当事務所の提案:会社分割で飲食と不動産を“別会社”にし、責任と意思決定を明確化
そこで当事務所は、会社分割により飲食事業と不動産事業を2社に分け、各社がそれぞれの事業だけに集中できる形を提案しました。
進め方としては、飲食事業を承継する会社、不動産事業を承継する会社をそれぞれ用意し、契約・従業員・資産・負債を棚卸ししたうえで、事業ごとの承継範囲を具体化していきました。
会社分割は、税務(適格要件の検討)、会計処理、許認可、労務(従業員の承継)、金融機関との調整が同時進行になります。特に不動産が絡むと担保・ローン条件が影響し、株式の整理も含めると設計難度が上がります。早い段階で弁護士・税理士等と役割分担を決めて進めることが重要です。
6. 最大の山場:分割後の株主構成をどうするか(支配権の整理)
会社分割が実行できても、分割前の株主がそのまま両社の株主として残ると、結局は「飲食会社でも不動産会社でも、株主が口を出す」構造が残ります。つまり、事業を分けただけでは、株主対立が形を変えて続くおそれがあります。
本件でも当初は、形式的には分割できても、株式が双方に残る(株主が混在する)と経営が再び不安定になる懸念がありました。
一方で、単純に株式を売買して整理しようとすると、資金手当て・価格評価に加え、譲渡益課税の問題が出て合意形成が止まることがあります。
そこで当事務所では、税務面の検討も踏まえつつ、分割後に各株主グループが「自分たちが経営する会社」の支配権を確保できるよう、株式の持ち方を整理する方向で合意形成を支援しました。本件では、関係者の事情に合わせて信託を活用した株式の整理(相互の信託譲渡を含むスキーム)を検討し、課税のタイミングにも配慮しながら、支配権をクリアにする設計を行いました。
この部分は、会社法・税務・当事者の資金事情が密接に絡むため、早い段階で論点を洗い出し、関係者全員が「何が起きるのか」を理解できる説明資料を整えることがポイントになります。
7. 実務対応:資料づくりと説明順序が、対立の“着地点”を作る
親族・複数株主が絡む事案では、法的には可能な選択肢があっても、説明が追いつかずに不信感が増えることが少なくありません。本件では、次の点を特に重視しました。
- 飲食・不動産それぞれで、収支・契約・人員・資産負債を切り分けた一覧を作る
- 分割後の各社が、どんな意思決定を誰がするのか(役員構成・決裁)を言語化する
- 株式の整理について、税務リスクや手続を含めて早期に共有する
また、外部(金融機関・主要取引先・テナント等)への説明が必要な場合は、説明の順序を誤ると混乱が拡大します。そこで、社内合意→主要ステークホルダー→全体周知、という段取りで進め、事業継続に支障が出ないよう調整しました。
7-1. 早めに相談した方がよいサイン
同種の案件では、次の状況がそろうほど、早期に方針を固めた方が結果的にコスト(時間・関係性・資金)を抑えられます。
- 重要投資(出店・物件取得・大規模修繕)が、株主間対立で止まっている
- 議決権が分散し、過半数を握る株主がいない
- 不動産ローン・担保・保証が絡み、分割後の設計が複雑になりそう
- 将来の事業承継(次世代への承継)も見据えて支配権を整理したい
8. 解決結果:飲食は飲食、不動産は不動産——各社が自走できる体制へ
最終的に、飲食事業は飲食事業を担う会社で、 不動産事業は不動産事業を担う会社で、それぞれの株主グループが中心となって経営を行う体制が整いました。
意思決定の停滞が解消され、飲食側は出店戦略・人材投資を迅速に進められるようになり、不動産側は賃貸運営・資産管理の方針を中長期で設計できるようになりました。
9. まとめ
本件のポイントをまとめます。
- 祖業(飲食)と投資(不動産)が同居する会社では、相続後に株主の利害が割れやすい
- 会社分割は有効な手段だが、分割後も株主が混在すると対立が再燃しやすい
- 解決には、事業の切り分けに加えて支配権(株式)の整理まで設計することが重要
- 税務・金融機関・許認可・労務が絡むため、早期の段取りと資料整備が成功の鍵になる