不動産賃貸事業を集約する組織再編で管理効率化・節税を実現した解決事例

本記事では、グループ内に分散していた不動産賃貸事業を、組織再編によって1社へ集約し、管理効率化と“余計な税務リスク・事務負担”の低減を実現した解決事例をご紹介します。不動産賃貸事業の承継(次世代への引継ぎ・管理体制の再構築)を検討する会社側にとって、実務上つまずきやすいポイントも併せて整理します。

MEMO

本記事は当事務所が取り扱った解決事例をもとにしています。特定を避けるため、業種・数値・時系列など一部を抽象化しています。

  • 不動産賃貸事業が複数社に分散していると、契約・敷金・修繕・借入がバラバラになり、承継のたびに手戻りが起きます。
  • 本件では、新会社を設立→吸収分割で賃貸事業を集約する設計により、管理の一本化とガバナンス改善を図りました。
  • 税務は“節税を攻める”より、否認・課税のリスクを避ける安全運用を優先し、必要な整理を徹底しました。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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ご相談の背景:不動産賃貸事業が分散し、管理コストと意思決定が重くなっていた

ご相談いただいたのは、賃貸マンションと商業ビルを複数保有する中堅企業グループ(以下「Aグループ」)です。過去の物件取得や金融機関ごとの融資条件に合わせて、物件ごと・地域ごとに会社を分けてきた結果、賃貸事業が複数の法人に分散していました。

当初は「リスク分散」として機能していたものの、年月が経つにつれて、次のような“見えないコスト”が積み上がっていきました。

  • 会社ごとに経理・契約管理が必要で、月次の締めや修繕発注が遅れる
  • 代表者の決裁が各社にまたがり、意思決定が遅い(担当者が動けない)
  • テナント対応・管理会社とのやり取りが分散し、情報が属人化
  • 承継(後継者への引継ぎ)を考えると、管理対象が多すぎて引き継げない

さらに、Aグループとしては「不動産賃貸事業を安定収益の柱として残しつつ、管理体制を整えて将来に承継したい」という意向が強く、単なるコスト削減ではなく、体制そのものを作り替える必要がありました。


争点:どこまでを“賃貸事業”として承継し、何を残すか

不動産賃貸事業の集約では、「建物だけ移す」「管理だけ移す」「借入も担保も含めて移す」など、設計の幅が大きく、ここを曖昧にすると後で必ず揉めます。本件で最初に整理したのは、承継の対象範囲でした。

承継対象の棚卸し(“物件以外”がボトルネックになりやすい)

賃貸事業は、不動産(土地・建物)だけでは回りません。実務上は、次のような周辺要素が承継のボトルネックになります。

  • 賃貸借契約(更新条項、用途制限、原状回復、保証会社の利用状況)
  • 敷金・保証金の管理(台帳、返還条件、相殺の有無)
  • 管理委託契約・修繕契約(発注権限、請負契約の名義)
  • 火災保険・施設賠償責任保険等(被保険者、免責、事故対応)
  • 融資契約・担保(担保権者、財務制限条項、期限の利益、連帯保証)
  • 担当人員の配置(雇用契約、就業規則、引継ぎの可否)

本件では、特に敷金台帳融資契約(担保・誓約事項)の整理が重要でした。ここが曖昧なまま進めると、集約後に「誰が返すのか」「契約違反ではないか」という問題が顕在化し、承継スキームそのものが止まります。


当事務所の対応①:資料の整備と“説明できる設計”づくり

本件は、制度としては組織再編で整理できる案件でしたが、成功の鍵は“書類作業”でした。相手方(金融機関・管理会社・テナント)に対し、何がどう変わり、責任の所在がどこに行くのかを説明できなければ、同意も協力も得られません。

そこで当事務所は依頼者と相談の上で、最初の1〜2か月を使って、次の資料を優先順位を付けて整備しました。

  • 物件別の収支一覧(賃料、空室率、修繕費、管理委託費、税金等)
  • 契約関係の一覧(賃貸借契約・管理委託・修繕・保険・サブリース等)
  • 借入・担保の整理表(金融機関別、担保設定、保証、コベナンツの有無)
  • 集約後の業務フロー案(窓口、決裁、緊急時対応、記録管理)

“節税”を前面に出した設計にすると説明が難しくなり、金融機関の警戒感も上がります。

本件は、あくまで管理効率化とガバナンスを主目的として、税務面は「適切に手当てし、余計な課税や否認を避ける」という位置づけで設計しました。


当事務所の対応②:新会社設立→吸収分割で賃貸事業を1社に集約

Aグループには既存の不動産管理会社がなかったため、まず賃貸事業の受け皿となる新会社(B社)を設立し、その上で、複数社から賃貸事業をB社へ承継させる方針としました。

なぜ“吸収分割”を選んだのか

事業を移す方法としては、事業譲渡や合併など複数の選択肢があります。本件では、次の理由から、吸収分割を軸に検討しました。

  • 承継対象が多く、個別移転(契約更改・同意取得)だと漏れと遅延が生じやすい
  • 賃貸事業を“事業”としてまとめて移すことで、責任の所在を一本化しやすい
  • 金融機関への説明においても、資料が揃えばスキームの理解が得やすい
注意

組織再編は「全部まとめて移せば楽」という話ではありません。承継対象の特定と、金融機関・許認可・登記などの個別手当が必要です。ここを飛ばすと、集約後に重大な手戻りが起きます。

手続のポイント:期限の利益・担保・登記を“止めない”

特に慎重に進めたのが、融資契約上の条項(財務制限、事前承諾、担保の取り扱い)です。組織再編自体は会社法の手続で進められても、融資契約に抵触すれば、期限の利益喪失や追加担保要求など、事業継続に直結するリスクが出ます。

当事務所では、金融機関ごとに論点を整理し、「担保・債務はどうなるか」「返済原資はどう確保されるか」を説明できる形にして、事前の協議を重ねました。結果として、当初は慎重だった金融機関も、資料が揃うにつれて“協力的な検討モード”へ変わっていきました。


当事務所の対応③:管理会社・テナントへの説明と実務の切替え

賃貸事業の集約では、社内手続だけ完了しても“現場が動かない”ことがあります。本件でも、管理会社・修繕業者・テナントとの連絡先、請求書の宛先、敷金の管理など、日々の運用が止まるとクレームに直結します。

そこで、スキーム確定後は「切替えの工程表」を作り、関係者ごとに説明と書面の整備を進めました。

  • 管理会社:窓口変更、報告ルート、修繕発注権限、緊急時対応の再定義
  • テナント:賃料振込先・問い合わせ先の変更、個人情報の取り扱いの明確化
  • 社内:稟議フロー、契約保管、修繕履歴の記録ルールの統一

テナント側は「賃貸人が変わるのか」「敷金は大丈夫か」という不安が出やすいところです。本件では、通知文面を“法律用語だらけ”にせず、不安のポイント(賃料・敷金・連絡先)に先回りして答える形にしたことで、無用な混乱を避けることができました。


解決結果:管理効率化と承継の見通しが立ち、税務も安全運用へ

最終的に、Aグループは賃貸事業をB社へ集約し、日々の管理・意思決定の窓口を一本化できました。相談から完了までの期間は、おおむね9か月程度です(資料整備と金融機関協議に時間をかけました)。

集約後は、次のような変化が生まれました。

  • 物件・契約・修繕の情報が一元化し、管理の抜け漏れが減少
  • 決裁と運用ルールが統一され、現場判断が速くなった
  • 後継者へ渡すべき情報が整理され、不動産賃貸事業の承継の見通しが立った
  • 税務は“攻め”ではなく、否認・課税リスクを抑える整理ができた(税理士と連携)

また、同じ「会社分割」を使う案件でも、目的によって設計が変わります。借入金の切り分けが中心となるケースは、会社分割で借入金と優良事業を分離し経営再建した活用事例が参考になります。


本件で“決め手”になったポイント

本件は、派手な交渉よりも、準備(棚卸し・資料・説明)が結果を分けました。特に効果が大きかったのは次の3点です。

  • 敷金台帳を作り直し、「誰が預かり、誰が返すか」を説明できる形にした
  • 融資契約の条項を読み込み、金融機関ごとに“懸念点→回答”を用意して協議した
  • 切替え工程表を作り、管理会社・テナントへの通知を混乱が出ない順番で実行した

不動産賃貸事業の集約・承継で迷ったら(弁護士が早めに入るべき場面)

同じように不動産賃貸事業の承継・集約を検討する場合、次の事情があるときは、初期から弁護士が関与した方が手戻りを減らせます。

  • 物件が複数社に分散し、契約・敷金・借入の全体像が誰も把握できていない
  • 金融機関が複数あり、担保・保証・財務制限条項が入り組んでいる
  • 株主構成や将来の承継(相続・事業承継)も見据えて、スキームを設計したい

株主間の利害対立が絡むと、賃貸事業の切り分けが“紛争解決”そのものになります。例えば、会社分割で飲食事業と不動産事業を分け株主対立を解消した活用事例のように、事業の切り分けが合意形成の突破口になるケースもあります。


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