本記事では、会社分割とM&Aを組み合わせ、非中核事業を投資ファンドへ売却して売却代金を確保した事例をご紹介します。
「事業の一部を売りたいが、契約・人・システムが絡み合っていて切り出せない」という相談は少なくありません。本件は、いわゆるカーブアウトM&Aとして、分割→株式譲渡の順で実行したケースです。
本記事は当事務所が取り扱った解決事例をもとにしています。特定を避けるため、業種・数値・時系列など一部を抽象化しています。
- 会社分割+M&Aにより、分散していた資産・契約・人員を「売れる形」に整理できました。
- 投資ファンドとの交渉では、カーブアウト特有の論点(承継範囲・表明保証・TSA等)が山場になります。
- 決め手は、カーブアウト財務と契約の棚卸しを早期に整え、価格交渉を主導できたことでした。
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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事案の概要:非中核事業を売却して、選択と集中を進めたい
ご相談いただいたのは、複数事業を営む企業(以下「B社」)です。主力事業は成長領域にあり、経営資源を集中させたい一方で、長年続けてきた非中核事業(以下「対象事業」)がグループ内に残っていました。
対象事業は一定の売上・顧客基盤があるものの、主力事業とはシナジーが薄く、投資・管理コストがかかる状況でした。B社としては、対象事業を適切な買主に引き継ぎ、売却代金を主力事業の投資や財務改善に回したいという意向でした。
ご相談時点の課題:そのままでは「事業を売る」ことが難しい状態
対象事業はB社の一部門として運営されており、次のような事情がありました。
- 顧客契約・仕入契約がB社名義で混在し、対象事業だけを切り出したPL/BSが作りにくい
- 人員が兼務しており、どこまでを移籍させるか整理が必要
- システム・オフィス・ブランドなど、共通インフラの利用が前提
- 契約条項上、譲渡や名義変更に同意が必要なものが含まれる
この状態で事業譲渡を強行すると、同意取得や名義変更に時間を要し、買主の不安も大きくなります。そこで本件は、「売れる器」を作ってからM&Aを行うことが重要でした。
当事務所の提案:会社分割で切り出し、投資ファンドへ株式譲渡する
本件では、次のスキームを提案しました。
- 会社分割により、対象事業を新設会社(NewCo)へ承継させる(資産・契約・従業員の範囲を整理)
- NewCoの株式を、買主である投資ファンドへ譲渡する(株式譲渡契約を締結しクロージング)
会社分割を先に行うことで、対象事業をNewCoにパッケージ化し、買主側は「NewCoの株式を買う」形で取得できます。カーブアウト案件では、承継範囲の設計と、分割後も残る共通インフラ(システム等)の取り扱いが実務上の肝になります。
進め方:相談から売却完了まで
本件は、初回相談からクロージングまでお概ね以下の流れで進みました。
- スキーム設計:対象事業の棚卸し(契約・人員・資産・知財・許認可・収支)/スキーム設計
- 会社分割の準備:会社分割手続の準備(承継範囲、公告・催告、社内意思決定)
- 買主との条件交渉:投資ファンドのDD対応/条件交渉(価格・表明保証・TSA等)
- クロージング:分割実行→株式譲渡クロージング
相手方(投資ファンド)の反応:DDで懸念が噴出、条件が厳しくなった
投資ファンドは、DD(デューデリジェンス)を通じて「想定外のコストや偶発債務がないか」を特に慎重に確認します。本件でも、途中で次のような指摘が出ました。
- 対象事業の収益性を裏付ける資料が不足しており、買収後の再現性が見えにくい
- 一部の顧客契約に、承継・譲渡に関する同意条項があり、クロージングリスクがある
- 共通システムをどう切り分けるか、移行期間の運用(TSA)が必要
この局面で、投資ファンドは「価格の引き下げ」や「表明保証・補償の強化」を求めてきます。実際、当初提示された条件から、売主側に不利な修正案が出る場面がありました。
交渉の山場:承継範囲とリスク分担を「見える化」して落とし所を作る
当事務所では、論点を次の3点に整理し、資料と契約条項の両面で調整しました。
- 承継範囲の明確化:NewCoに入る契約・資産・人員を確定し、例外はリスト化
- 共通インフラの取り扱い:TSA(移行期間サービス)で、期限・費用・責任分界を合意
- 表明保証・補償の合理化:事実に即した表明保証に絞り、上限・期間・免責(de minimis等)を設定
「売主が全部責任を負う」でも「買主が全部飲み込む」でも取引は成立しません。カーブアウトでは、現実に管理できるリスクを売主が負い、構造上避けられないリスクは買主が織り込む、という線引きが重要です。
決め手:価格交渉をひっくり返した“準備の差”
最終局面で効いたのは、次の準備でした。
- カーブアウト財務(対象事業の収支を説明できる資料)を早期に整備し、収益性の根拠を提示できた
- 同意が必要な契約を特定し、優先順位を付けて同意取得の見通しを立てた
- TSAの叩き台を売主側で用意し、交渉を主導できた
投資ファンド側の条件が厳しくなった局面でも、根拠資料が揃っていると、価格だけでなく条項面でも「守るべきライン」を守りやすくなります。
会社分割+M&Aは、税務・会計・許認可・労務が絡みます。スキーム自体は一般的でも、承継範囲の設計とDD対応でつまずくと、条件が大きく悪化し得ます。
解決結果:売却代金を確保し、主力事業に経営資源を集中
最終的に、B社は対象事業をNewCoに切り出した上で、投資ファンドとの株式譲渡を実行し、売却代金を確保できました。売却後は、共通インフラの移行もTSAに沿って進み、大きな混乱なく運用が安定しました。
売却代金は、財務改善と主力事業への投資に充てられ、B社の「選択と集中」を後押しする結果となりました。
同様のケースで企業が注意すべき点(実務の要点)
会社分割とM&Aを組み合わせる場面では、次の点が特に重要です。
- 対象事業の契約・人・資産を「売却単位」で整理する(後回しにしない)
- DDで問題になりやすい論点(偶発債務、同意条項、知財、労務)を先回りして潰す
- 共通インフラは、TSA等で期限・費用・責任を明確化する
- 表明保証は「広く書く」のではなく、事実に即して管理できる形にする
財務再建を目的に会社分割を使う場面は、借入金と優良事業を分離した事例も参考になります。
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