本記事では、会社分割を用いて借入金の重い会社から優良事業を切り分け、事業継続と財務の立て直しを同時に実現した事例をご紹介します。
本記事は当事務所が取り扱った解決事例をもとにしています。特定を避けるため、業種・数値・時系列など一部を抽象化しています。
- 借入金が重い局面でも、優良事業の価値を守りながら再建の選択肢を作れます。
- 会社分割は「事業を守る」ための手段ですが、債務の残し方を誤ると金融機関・取引先の理解が得られません。
- 本件では、資料の整備(収支・契約・担保)が交渉の決め手になりました。
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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ご相談の背景:借入金が先行し、優良事業まで止まりかけていた
ご相談いただいたのは、複数事業を営む中堅企業(以下「A社」)です。主力事業は安定して利益を出していた一方、過去の設備投資と新規事業の不振により、金融機関からの借入金が膨らみ、資金繰りが逼迫していました。
特に問題だったのは、返済負担の増加により、利益を生んでいる主力事業に必要な仕入・人材投資まで抑制され、「稼げる事業があるのに回らない」状態になっていた点です。
社内では「主力事業だけでも守りたい」という声が強い一方で、外部から見れば、A社全体の財務状況は厳しく、取引先や金融機関の不安も高まりやすい局面でした。
当初の目標:事業の継続と、金融機関の理解を両立させる
A社が望んでいたのは、破産等で事業を止めることではなく、次の2点でした。
- 主力事業を止めずに継続し、雇用・取引を守ること
- 金融機関との関係を壊さず、返済計画を組み直して再建すること
一方で、金融機関側には「優良な資産だけを移して、債務だけを残すのではないか」という警戒感が生まれやすく、ここをどう設計・説明するかが重要でした。
また、主力事業の継続には、主要取引先からの信用維持も不可欠です。分割の話が先行して憶測が広がると、取引停止や回収強化につながるおそれがあるため、情報開示の順番も含めて慎重に進める必要がありました。
検討した選択肢:事業譲渡ではなく会社分割を選んだ理由
当初は「主力事業を別会社に移す」という方向性は固まっていましたが、実現手段としては複数の候補がありました。
- 事業譲渡:個別資産・契約の移転が多く、同意取り付けがボトルネックになりやすい
- 会社分割:包括承継を活かし、移転対象(資産・契約・従業員等)を整理しやすい
- 新会社設立のみ:許認可や契約の移し替えが難しく、実務負担が大きい
本件では、主力事業が多数の継続契約(保守・供給・賃貸借等)と結びついており、事業譲渡での同意取得を積み上げると、再建の時間軸に間に合わないおそれがありました。
そこで、会社分割(主力事業を新会社に承継)を軸に、分割の範囲・債務の残し方・金融機関への説明資料を一体で設計する方針を採りました。
進め方:相談から再建の形が整うまで(期間感)
本件は、初回相談から実行まで概ね約5か月で進みました(実務上の目安です)。
- 現状把握(資金繰り・借入条件・担保・契約関係の棚卸し)
- 会社分割スキーム案の作成(承継対象と残置対象の整理)
- 金融機関との事前協議(疑問点・懸念点を先に潰す)
- 会社分割手続(計画/契約、公告・催告等)
- 分割実行後の運転資金・返済計画の合意
時間を要したのは、分割の書類作成そのものよりも、「何をどこまで新会社に移すか」の線引きと、それを裏付ける資料づくりです。ここが曖昧だと、金融機関の同意が得られず、再建計画全体が止まってしまいます。
相手方(金融機関)の反応:最初は強い警戒、しかし途中で態度が変わった
金融機関は当初、分割の話を聞いた段階で「優良事業だけ抜かれるのでは」という反応でした。特に、担保・保証の位置づけ、分割後の返済原資をどう確保するのかが焦点になりました。
そこで当事務所では、分割後の収支見通し、残置会社の返済計画、担保・保証の整理案をセットで提示し、論点を「感情」ではなく「数字と手続」に落とし込みました。
結果として、面談を重ねる中で金融機関の懸念は「不透明さ」から生じている面が大きいことが分かり、資料提出後は協議が前向きに進むようになりました。
具体的には、当初は「分割自体に反対」という空気だったものが、「担保の扱いをどうするか」「返済条件をどう設計するか」といった建設的な論点に移っていきました。
社内・取引先への影響:説明の順番と“言い方”が重要だった
会社分割は社内にも大きな影響があります。特に、主力事業に属する従業員は新会社へ承継される一方、残置会社に残る従業員も出ます。そこで本件では、労務面の混乱を避けるため、次の点を意識しました。
- 分割の目的を「切り捨て」ではなく「事業を守るための再建」として説明する
- 待遇・勤務地・評価制度など、従業員が不安に感じやすい点を先回りして整理する
- 主要取引先には、情報が拡散する前に個別に説明し、誤解を防ぐ
結果として、取引先からは「むしろ継続性が高まるなら安心だ」という反応も得られ、事業面のダメージを最小限に抑えることができました。
決め手:再建ストーリーを支えた「証拠」と「設計」
本件で大きかったのは、次の点です。
- 主力事業の採算を示す資料(月次推移、主要契約、粗利構造)
- 承継/残置の線引き(「何を新会社に移し、何を残すか」を第三者が見ても説明できる形に)
- 金融機関とのコミュニケーション設計(懸念が出る前に、想定問答と根拠資料を準備)
会社分割は「やり方」次第で、債権者から不信を招くことがあります。財務状況が厳しいほど、手続の適法性と説明の透明性が重要です。
解決結果:主力事業の継続と、再建に向けた合意形成
会社分割の実行により、主力事業は新会社側で継続し、主要取引先との契約も大きな混乱なく引き継ぐことができました。残置会社は金融機関と返済条件の見直しを行い、資金繰りの見通しを立て直したうえで再建フェーズへ移行しました。
分割後は、主力事業側で運転資金の確保を行い、仕入・人材投資を再開できたことで、売上の落ち込みを食い止めることができました。結果として、再建計画の「絵に描いた餅」感が薄れ、金融機関との協議も進みやすくなりました。
「借入金が重い=即座に事業停止」とは限りません。状況に応じて、会社分割を含む複数の手段を組み合わせることで、事業の価値を守りながら再建の道筋を作れるケースがあります。
同様のケースでのポイント
同じように「借入金が重く、しかし守るべき事業がある」場面では、次の観点が重要です。
- 分割の前に、資金繰り表・借入条件・担保を一枚に整理する
- 取引先・従業員への影響を見据え、承継範囲を早期に確定する
- 金融機関に対しては、数字(収支・返済原資)で説明できる状態を作る
- 「分割だけ」で終わらせず、分割後の運用(資金調達・管理体制)まで設計する
売却(M&A)と組み合わせて資金を確保する設計が有効なこともあります。例えば、会社分割+M&Aで非中核事業を売却した事例も参考になります。
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