「顧問弁護士は何をしてくれるの?」という疑問に、先に結論を言うと、顧問弁護士は“会社の外にいる法務部”として、日々の法律相談からトラブルの初動対応までを継続的に支える存在です。契約書チェック、労務対応、債権回収、企業紛争(クレーム・取引先トラブル)など、企業活動で起こり得る論点を早い段階で整理して、損失を小さくすることに強みがあります。
ただし、顧問弁護士がどこまで対応するか(顧問料に含まれる範囲/別料金になりやすい範囲)は、顧問契約の内容や会社の状況によって変わります。そこで本記事では、典型的な業務内容を“棚卸し”できるように整理し、社内で相談を回すためのフロー例までまとめます。
企業法務に10年以上携わる経験豊富な弁護士の視点で、実務でつまずきやすいポイント(情報の揃え方、費用が追加になりやすい場面、初動でやってはいけないこと)も含めて解説します。
- 顧問弁護士の役割を「相談・レビュー・初動対応」で整理
- 契約書・労務・債権回収・企業紛争で頼めることを具体例つきで一覧化
- 顧問料内になりやすい業務/別料金になりやすい業務の境界を把握
- 社内の相談フロー(窓口・資料・依頼テンプレ)を作れるようにする
- スポット契約との違いと、顧問契約が向く会社の目安を理解する
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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顧問弁護士がしてくれることは「相談・レビュー・初動対応」の3本柱
顧問弁護士の業務は、細かく言えば多岐にわたりますが、実務上は次の3つに整理すると分かりやすいです。
- 法律相談(判断の軸づくり):現場の事実関係を整理し、リスク(違法・無効・損害賠償・行政対応など)と選択肢を提示します。
- 契約書・文書レビュー(予防):契約書、利用規約、通知書、社内規程などをチェックし、将来の紛争を減らす条項設計・運用提案を行います。
- トラブルの初動対応(被害最小化):クレームや未払い、労務トラブルなどが起きたときに、対応方針・連絡文案・証拠保全・交渉の段取りを整えます。
顧問弁護士の価値が最も出やすいのは、問題が深刻化する前の「早い相談」です。小さな違和感の段階で相談できる体制を作るほど、時間と費用を抑えやすくなります。
顧問弁護士に相談できること・できること一覧
ここでは、企業が顧問弁護士に依頼しやすい代表的な業務を、分野別にまとめます。自社の状況に照らして「どこが弱いか」「どの相談が多いか」を棚卸しするのに使ってください。
契約書・取引(契約リスクの予防)
契約書チェックは、顧問弁護士の“王道”の活用場面です。取引が始まる前(締結前)にレビューすることで、後から揉めやすいポイントを潰せます。
- 業務委託・売買・代理店・制作・システム開発・SaaS等の契約書レビュー(修正案・代替条項の提案を含む)
- NDA(秘密保持契約)、覚書、発注書/注文書の整合チェック
- 取引基本契約と個別契約(注文書等)の優先関係の整理
- 損害賠償・責任制限、解除、検収、再委託、知的財産、反社条項などの“地雷条項”の点検
- 取引先からの修正要求への回答方針(どこまで譲るか)の助言
「契約書のレビュー」と一口に言っても、単に条文を直すだけでなく、運用(現場が守れる手続)まで含めて設計するのが重要です。
労務(雇用・人事・ハラスメント)
労務は、初動を誤ると紛争化しやすい分野です。顧問弁護士がいると、対応方針のブレが減り、社内の意思決定が早くなります。
- 雇用契約書・労働条件通知書、就業規則、賃金規程などの整備・改定
- 問題社員対応(注意指導、配置転換、懲戒、退職勧奨、解雇)における手順整理
- 残業代請求、メンタル不調、休職・復職の判断と書面整備
- ハラスメント(パワハラ・セクハラ等)の相談対応、調査設計、ヒアリングの進め方
- 労基署対応・是正勧告への対応方針(状況により別料金になることがあります)
労務は「感情」ではなく「手順」で進めるほど安全です。事実整理と書面整備を先に行うと、後からの争いを減らせます。
債権回収・未払い対応
未払いは、放置すると回収率が落ちます。顧問弁護士に相談すると、相手の言い分(相殺・瑕疵・契約解除など)も踏まえて、回収手段を整理できます。
- 請求書・納品書・検収・メール等の証拠整理(回収できる状態かの確認)
- 督促の文面作成、内容証明の発送(状況により別料金のことがあります)
- 分割払い・支払猶予等の和解条件の設計
- 支払督促、訴訟、仮差押え等の手続の要否判断(多くは別料金での対応になります)
「どのタイミングで強く出るか」「どこで落とし所を作るか」を誤ると、回収に時間がかかります。顧問弁護士と一緒に“回収の型”を作っておくと、現場の負担が減ります。
企業紛争・クレーム対応(取引先トラブルを含む)
クレームや紛争は、対応窓口が散らばると、発言の不一致や証拠の散逸が起きやすいです。顧問弁護士が入ることで、社内の動きを一本化しやすくなります。
- 取引先からの損害賠償請求・契約解除通知への初動対応(回答書案の作成、交渉方針)
- 品質不良・納期遅延・仕様相違などの争点整理(契約・証拠・技術的論点の分解)
- 顧客クレーム対応の社内ルール整備(謝罪の範囲、返金・交換条件、記録の残し方)
- 不祥事・情報漏えい等が疑われる場合の初期対応(事実確認、対外対応の順番整理)
新規事業・広告・コンプライアンス
新しい施策ほど、事後対応が高くつきます。顧問弁護士には、実施前に「やって良いライン/危ないライン」を確認する使い方が有効です。
- 利用規約・プライバシーポリシー・同意文言のレビュー(個人情報保護の観点を含む)
- 広告表示・キャンペーン設計の法的チェック(景品表示など、業種により注意点が変わります)
- 取引先審査(反社チェックの運用、契約解除条項の設計)
- 社内のコンプライアンス体制(規程・研修・通報窓口)の整備
「まず相談してから走る」文化を作ると、炎上・行政対応・信用毀損といった大きな損失を回避しやすくなります。
顧問料に含まれやすい業務/別料金になりやすい業務の目安
顧問契約は、一般に「一定の相談対応(チャット・メール・電話など)」をベースに、必要に応じて個別案件(交渉・手続)を追加する設計が多いです。目安として、次のように整理すると誤解が減ります。
顧問料に含まれやすい(ことが多い)業務
- 日常的な法律相談(方針・リスクの整理、簡易な回答)
- 契約書レビュー(軽微な修正・コメント、交渉ポイントの助言)
- 短めの通知文案・メール文案の作成、社内文書のチェック
- 社内規程・ひな形の軽微な整備(簡易なもの)
別料金になりやすい(ことが多い)業務
- 相手方との交渉を代理して行う対応(窓口対応・交渉同席の程度による)
- 訴訟、調停、審判、強制執行などの手続対応
- 難易度の高い契約書の新規ドラフト作成、複雑な英文契約
- M&A、資金調達、知財・ライセンス等の専門性が高い案件
- 大規模な社内調査や第三者調査(ヒアリング多数、資料精査が大量になるケース)
顧問料に含まれると思っていたのに追加費用が発生した」というズレは、顧問契約の“業務範囲”の定義が曖昧なことが原因になりがちです。料金体系の考え方は顧問弁護士費用の相場と料金体系で詳しく整理しています。
顧問弁護士への相談の進め方:社内フローの作り方(テンプレ付き)
顧問弁護士に相談しても「回答が浅い」「往復が増える」と感じるときは、情報の渡し方が原因であることが少なくありません。社内フローを作ると、相談がスムーズになります。
社内フロー例(5ステップ)
- 窓口を一本化:現場→(総務/人事/経営企画など)→顧問弁護士、のように経路を固定します。
- 事実を時系列で整理:誰が、いつ、何を、どこまで、を箇条書きでまとめます。
- 資料を共有:契約書、メール、請求書、就業規則など“判断に必要な一次資料”を揃えます。
- ゴールと期限を明確化:勝ちたい/穏便に終えたい、期限は今日中/今週中など、経営判断に必要な条件を共有します。
- 回答を社内に落とし込む:対応方針・次アクション・担当者を決め、記録を残します。
相談前に揃えると精度が上がる情報
- 相手方(会社名・担当者・関係性)
- 契約関係(契約書の有無、成立時期、履行状況など)
- 現在の状況(相手の主張、こちらの主張、やり取りの履歴)
- こちらの希望(落とし所、譲れない条件、予算感)
- 期限(回答期限・納期・社内決裁の締切)
「事実が変わると結論が変わる」論点(誰が何を言ったか、証拠の有無など)は、最初から隠さず共有した方が安全です。
相談の出し方(無料相談・オンライン相談の注意点、相談料の考え方など)を先に確認したい場合は、顧問弁護士に相談するには?相談料の目安と注意点も参考になります。
スポット契約と比べたとき、顧問弁護士が特に強い場面
スポット(単発)でも弁護士に依頼できますが、顧問契約の強みは「会社理解」と「初動の速さ」です。たとえば、次のような場面では顧問のメリットが出やすいです。
- 契約書レビューを定期的に行い、ひな形や運用を改善していきたい
- 労務・クレームなど“いつ起きてもおかしくない”トラブルの初動を早くしたい
- 法務部がなく、経営判断のたびにリスク整理が必要
- 外部対応(取引先・従業員・顧客)で、発言のブレを減らしたい
スポットと顧問の使い分けは、顧問弁護士とスポット契約の違いで具体的に解説しています。
顧問弁護士の業務範囲で揉めないために、契約前に確認したいこと
「何をしてくれるか」は、裏返すと「どこから先は別料金か」「誰がどこまで動くか」を決める作業でもあります。契約前に次の点を確認しておくと、後からの不満が減ります。
- 業務範囲:相談手段(メール/チャット/電話/面談)、契約書レビューの扱い、稼働の上限(時間・件数)
- レスポンス:緊急時の目安、営業時間外の扱い、担当者不在時の体制
- 担当体制:担当弁護士は固定か、複数名で見るか(属人化リスクの有無)
- 守秘・情報管理:資料共有方法、クラウド利用、社内で共有して良い範囲
- 利益相反:既存クライアントとの関係で受けられないケースの確認
- 追加費用の考え方:交渉・手続に入るときの見積り、着手金・報酬金の有無
- 解約・変更:解約条項、引継ぎ、違約金の有無
比較軸のチェックリストや面談での質問集は、顧問弁護士の選び方・探し方でまとめています。また、契約書の条項面は顧問契約書のチェック項目もあわせて確認すると安心です。
まとめ:業務内容を棚卸しすると、顧問弁護士はもっと使いやすくなる
顧問弁護士は、会社の状況に合わせて「予防」と「初動」を強くできます。最後に要点を整理します。
- 顧問弁護士の支援は、相談・レビュー・初動対応の3本柱で考えると分かりやすい
- 契約書・労務・債権回収・企業紛争は、顧問の効果が出やすい定番領域
- 顧問料内/別料金の境界は「代理交渉・手続・工数の大きさ」で変わりやすい
- 社内フロー(窓口・資料・依頼テンプレ)を作るほど、回答の精度とスピードが上がる
坂尾陽弁護士
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