顧問弁護士(法律顧問)をつけるとき、意外と見落とされやすいのが「顧問契約書(顧問契約)」の中身です。月額だけで決めてしまうと、想定していた相談が“別料金”だった、緊急時の優先対応ができない、解約時に揉めるなど、運用でつまずきます。
このページでは、顧問契約書を読むときに会社が押さえるべき条項を、有利不利ではなく「チェック項目・チェック観点」として整理します。
- 顧問契約書で必ず確認したい条項(業務範囲・報酬・解約など)
- 「顧問弁護士の契約書」と「個人顧問/他士業の契約書」で見るべき点の違い
- 顧問料に含まれる範囲と、別料金(タイムチャージ等)になりやすい領域
- 窓口・レスポンス・秘密保持・利益相反など、運用事故を防ぐ条項の読み方
- 電子契約・印紙など、形式面で迷いやすいポイント(概要)
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
Contents
- まず整理:どの「顧問契約書」を結ぶのか
- 顧問契約書の“全体チェックリスト”|まずはここを押さえる
- チェック項目1:業務範囲(スコープ)|“相談だけ”なのか“作業も含む”のか
- チェック項目2:報酬条項(顧問料・別料金・実費)|“月額以外に何が発生するか”
- チェック項目3:窓口・対応時間・レスポンス|“誰がいつ返すか”を契約書で言語化する
- チェック項目4:秘密保持・情報管理|社外に出る情報をどうコントロールするか
- チェック項目5:利益相反(コンフリクト)|相手方の相談を受けないか
- チェック項目6:契約期間・更新・解約|やめるときに揉めない設計
- チェック項目7:責任範囲・免責|“どこまで責任を負うか”はゼロか100かではない
- チェック項目8:電子契約・印紙(概要)|形式面の見落としを防ぐ
- 契約書チェックの進め方|社内で決める→候補先とすり合わせる
- まとめ
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まず整理:どの「顧問契約書」を結ぶのか
一口に「顧問」といっても、相手と契約形態で見るべき条項が変わります。まずは、あなたの会社が結ぶ契約がどれに当たるかを整理しましょう。
- 顧問弁護士(法律顧問)との契約:法律相談・契約書チェック・交渉支援などを、月額+(必要に応じて)別料金で受ける
- 会社に入ってもらう“個人顧問”の契約:個人が、週◯日や月◯回などで助言(※雇用に近い運用なら労務面も要注意)
- 他士業・専門家の顧問契約:税理士・社労士・行政書士等。守備範囲・成果物・責任範囲が職域で大きく異なる
個人が「週◯日」「毎日◯時間」など会社の指揮命令下で継続的に働く形になると、実態としては雇用に近くなり、契約書の作り方(委任・準委任・雇用)や労務対応も重要になります。迷う場合は事前に専門家へ確認してください。
この記事は、中心を「顧問弁護士の顧問契約書」に置きつつ、個人顧問/他士業の契約で追加確認したい点も併記します。
顧問契約書の“全体チェックリスト”|まずはここを押さえる
条項を1つずつ読む前に、まずは「何を確認すべきか」を俯瞰すると漏れが減ります。以下は、多くの顧問契約書で重要になる項目です。
- 業務範囲(何をやる/やらないか):相談・レビュー・交渉・訴訟対応の線引き
- 報酬(顧問料)と別料金:含まれる作業・含まれない作業、タイムチャージ、実費、割引の有無
- 対応体制(窓口・レスポンス):連絡方法、営業時間、緊急時、担当者変更、複数案件の優先順位
- 秘密保持・情報管理:共有してよい範囲、再委託、データ管理、返却・消去
- 利益相反(コンフリクト):相手方の相談を受ける可能性、チェック方法、例外の扱い
- 契約期間・更新:自動更新の有無、更新時の条件変更の手続
- 解約(解除):解約通知期限、未払金、引継ぎ、成果物の扱い
- 責任範囲・免責:損害賠償の範囲、間接損害、上限設定の有無
- 反社会的勢力排除:一般条項としての有無
- 準拠法・管轄:紛争時の裁判所・手続
以下、条項ごとに「チェック観点」と「確認のコツ」を解説します。
チェック項目1:業務範囲(スコープ)|“相談だけ”なのか“作業も含む”のか
顧問契約で最も重要なのが業務範囲です。顧問契約書では、次のような観点で線引きがされることが多いです。
- 含まれることが多い領域:日常的な法律相談、軽微な契約書のレビュー、取引先への一次回答の方針整理など
- 別料金になりやすい領域:交渉の代理、長文・大量の契約書レビュー、社内規程の全面改定、訴訟・労働審判・行政対応など
- “何をもって完了か”:口頭助言まで/メールでの回答まで/文案作成まで、など成果物の定義
チェックのコツは、業務範囲が抽象的なときに「例外(別料金)」が十分に書かれているか、逆に別料金が広すぎて実質“相談だけ”になっていないかを確認することです。
業務範囲の考え方は、顧問弁護士が対応できる領域の全体像とセットで理解すると判断しやすくなります。
チェック項目2:報酬条項(顧問料・別料金・実費)|“月額以外に何が発生するか”
報酬条項は、会社側の実務負担(稟議・経理処理)にも直結します。次の点を具体的に確認しましょう。
- 月額顧問料の範囲:相談回数、相談時間、対象部署、対象会社(子会社含むか)
- 含まれる作業(スタンダード顧問の例):一定量の契約書レビューや簡易な文案作成を顧問料内に含める運用もある
- 別料金の算定方法:タイムチャージ(1時間あたり◯円)、案件単価、着手金・成功報酬など
- 実費の扱い:郵送費、印紙、交通費、登記費用等の負担者
- 請求・支払のタイミング:月末締め翌月払い、前払い、最低利用期間など
とくに「格安顧問(低価格プラン)」では、顧問料に含まれるのは“無料相談枠+依頼時の割引”が中心で、具体的な作業はタイムチャージになる設計が典型です。条項上も、その前提が明確になっているか確認しましょう。
費用の相場感や料金体系の全体像は、先にこちらで整理しておくと条項の読み違いを減らせます。
(参考)顧問弁護士費用の相場と料金体系
チェック項目3:窓口・対応時間・レスポンス|“誰がいつ返すか”を契約書で言語化する
顧問契約は「困ったときにすぐ聞ける」のが強みですが、運用の前提が曖昧だと期待値がズレます。契約書(または付属の運用ルール)で、次を確認しましょう。
- 窓口:依頼・相談の窓口は誰か(代表者限定/担当部署限定/複数窓口可)
- 連絡手段:メール・電話・チャット等、対応する手段と優先順位
- 対応時間:平日営業時間のみか、夜間・休日の例外があるか
- 回答の目安:原則◯営業日以内、緊急時は◯時間以内など
- 担当者の変更:担当弁護士が不在の場合の代替、チーム対応の可否
条項に数値が入らない場合でも、少なくとも「緊急時の扱い」「回答の順序」「担当不在時」を文章で確認しておくと、社内の混乱が減ります。
チェック項目4:秘密保持・情報管理|社外に出る情報をどうコントロールするか
顧問契約では、未公開の取引情報・人事情報・事故情報などが共有されます。秘密保持条項は“雛形のまま”になりやすいので、会社の運用に合わせて確認します。
弁護士等の専門家には守秘義務がありますが、当然に守秘義務を負わない個人との顧問契約書ではとくに重要な条項となります。
- 秘密情報の範囲:口頭・メール・資料など形式を問わず含むか
- 例外:公知情報、受領前から保有していた情報、法令・行政手続による開示など
- 再委託・共同利用:外部スタッフや共同事務所が関与する可能性があるか
- 保管・返却・消去:契約終了後にデータを返却するか、消去するか、保管期間はどうするか
個人顧問(個人が社内に出入りする形)では、PC・クラウド・紙資料の管理が実務で問題になりやすいため、持ち出し・複製・保管場所も合わせて決めておくのが安全です。
チェック項目5:利益相反(コンフリクト)|相手方の相談を受けないか
多数の会社を支援している顧問については、利益相反の整理が重要です。契約書では次の点を確認します。
なお、顧問弁護士については弁護士法や弁護士職務基本規程に基づく利益相反の規制もあります。
- 利益相反チェックの方法:新規相談の都度チェックするのか、契約時に想定先を列挙するのか
- 例外の扱い:双方同意があれば対応するのか、原則として相手方は断るのか
- グループ会社:あなたの会社の子会社・関連会社も「依頼者」に含むか
- 相手方の範囲:競合他社だけでなく、取引先・元従業員なども含むか
利益相反が起きうる業界(取引先が限られる業界など)では、契約書だけでなく、運用として“どこまでを相手方と見るか”もすり合わせておくと安心です。
チェック項目6:契約期間・更新・解約|やめるときに揉めない設計
顧問契約は継続関係なので、終了時の取り扱いを事前に決めておくほどトラブルを避けられます。
- 契約期間:初回◯か月/1年など。短すぎると運用が固まらないこともある
- 自動更新:更新する場合の通知期限、条件変更の手続
- 中途解約:何日前通知か(例:1か月前)、解約月の顧問料の日割り有無
- 未払金・精算:別料金が発生している場合の精算方法
- 引継ぎ:進行中案件の資料返却、次の弁護士への引継ぎの可否
例文を入れるなら、通知期限は「解約希望日の1か月前までに書面(またはメール)で通知」など、運用可能な形になっているか確認します。
チェック項目7:責任範囲・免責|“どこまで責任を負うか”はゼロか100かではない
法律サービスは性質上、結果を保証できない場面があります。そのため、顧問契約書には免責・責任制限条項が置かれることが一般的です。
- 免責の範囲:故意・重過失まで免責になっていないか
- 上限設定:賠償上限がある場合、顧問料の何か月分か等の根拠が妥当か
- 間接損害:逸失利益・特別損害を除外するか
- 第三者対応:第三者からの請求への関与範囲(代理するのか、助言のみか)
条項が難しい場合は、まず「助言の範囲」と「実際に行う業務」が一致しているかを見ると整理しやすいです。
チェック項目8:電子契約・印紙(概要)|形式面の見落としを防ぐ
顧問契約書は、紙で締結することもあれば電子契約で締結することもあります。形式面では次の点を押さえます。
- 締結方法:電子契約か紙か(社内の稟議・保管ルールと合うか)
- 記名押印/電子署名:誰が署名するか、権限者は誰か
- 印紙:契約内容によって扱いが変わり得るため、迷う場合は個別確認する
- 保管:契約書の保管年限、アクセス権、監査対応
印紙・電子契約の扱いを含め、テンプレートで整えたい場合は、次の記事も合わせて確認してください。
(参考)顧問契約書テンプレート|必須条項と印紙・電子契約の扱い
契約書チェックの進め方|社内で決める→候補先とすり合わせる
顧問契約書は「相手の雛形をそのまま受ける」だけでは、運用に合わないことがあります。次の順番で整理するとスムーズです。
- 社内の運用を言語化:誰が窓口か、相談頻度はどれくらいか、急ぎ案件はあるか
- 優先順位を決める:レスポンス重視か、業務範囲の広さ重視か、コスト重視か
- 契約書に落とし込む:業務範囲・別料金・窓口・解約を中心に、合意した内容を条項化する
- 開始後に見直す:3か月〜半年で運用のズレを洗い出し、更新時に微調整する
顧問契約の設計や相談導線の作り方は、サービス案内ページでも全体像を整理しています。
(参考)顧問弁護士(法律顧問)のご案内
まとめ
顧問契約書は「月額いくらか」だけでなく、運用を決める条項の集合です。最後に要点を整理します。
- 最初に「顧問弁護士/個人顧問/他士業」のどれかを整理し、見るべき条項の前提をそろえる
- 最重要は業務範囲と報酬条項(顧問料に含む範囲・別料金)。ズレると運用が破綻しやすい
- 窓口・レスポンス・担当変更など、“誰がいつ返すか”を言語化して社内混乱を防ぐ
- 秘密保持・情報管理・利益相反は、取引情報や紛争時のリスクを左右するため具体化する
- 契約期間・更新・解約は、やめるときの精算・引継ぎまで含めて揉めない設計にする
坂尾陽弁護士
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