自己株式を取得できる事由(会社法155条)

会社法155条は自己株式の取得が認められる事由について定めています。この記事では会社法155条の条文を紹介し、自己株式の取得が認められる事由について問題となる点を解説します。

第百五十五条 株式会社は、次に掲げる場合に限り、当該株式会社の株式を取得することができる。
一 第百七条第二項第三号イの事由が生じた場合
二 第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求があった場合
三 次条第一項の決議があった場合
四 第百六十六条第一項の規定による請求があった場合
五 第百七十一条第一項の決議があった場合
六 第百七十六条第一項の規定による請求をした場合
七 第百九十二条第一項の規定による請求があった場合
八 第百九十七条第三項各号に掲げる事項を定めた場合
九 第二百三十四条第四項各号(第二百三十五条第二項において準用する場合を含む。)に掲げる事項を定めた場合
十 他の会社(外国会社を含む。)の事業の全部を譲り受ける場合において当該他の会社が有する当該株式会社の株式を取得する場合
十一 合併後消滅する会社から当該株式会社の株式を承継する場合
十二 吸収分割をする会社から当該株式会社の株式を承継する場合
十三 前各号に掲げる場合のほか、法務省令で定める場合

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どのような場合に自己株式を取得できるか

原則:株主との合意による取得(会社法1553号)

会社法155条は自己株式の取得が認められる事由を定めていますが、限られた場合にのみ自己株式を取得できるのではなく、平成136月の商法改正から自己株式の取得は原則として容認される立場へ転換されています。つまり、会社法1553号は株主との合意により自己株式を取得できることとしています。

もっとも、株主との合意による取得については、会社法156条から165条に手続規制が設けられているほか、分配可能額による財源規制も儲けられているので注意が必要です。

種類株式の内容に従った取得

会社法1551号、4号、及び5号は、種類株式の内容に従った自己株式の取得が認められる場合です。具体的には以下の種類株式について、以下の手続によって取得がなされることになります。

  • 取得条項付株式:会社法168条~170
  • 取得請求権付株式:会社法166条・167
  • 全部取得条項付株式:会社法171条~173

非公開会社における株主構成維持のための取得

非公開会社においては株主同士の関係が密接であり、株主の構成を維持するために好ましくない者が株式を取得しそうな場合には会社が株式を買い取ることができるように自己株式の取得が認められています。

具体的には譲渡制限株式について譲渡等承認請求者から自己株式を取得する場合(会社法1552号)、相続人等に対する売渡請求により自己株式を取得する場合(会社法1556号)があります。それぞれの制度については詳しくは別記事で解説していますので、参考にしてください。

(参考)株式の譲渡を承認しない場合の買取義務(会社法140条~143条)

株主を整理する必要がある場合の取得

単元未満株式を保有する株主から株式買取請求権が行使された場合(会社法1557号)、会社が所在不明株主の株式を買い取る場合(会社法1558号)、一株に満たない端数が生じたため会社がこれを買い取る場合(会社法1559号)には自己株式の取得が認められています。

組織再編に伴う取得

事業の全部を譲り受ける場合(会社法15510号)、合併消滅会社から承継取得する場合(会社法15511号)、吸収分割会社から承継取得する場合(会社法15512号)には自己株式の取得が認められています。

組織再編に伴う自己株式の取得については、組織再編に必要な手続以外に自己株式に特有の手続規制や財源規制が設けられていません。組織再編を行うために必要な株主総会決議や債権者保護手続が定められており一定程度は株主や債権者の保護に手当てがなされていることや、組織再編を認める必要性があること等を考慮して別個に規制を設けていないものと考えられます。

法務省令に定められた事由による取得

会社法15513号により、会社法施行規則27条に定められた以下のような場合にも自己株式の取得が認められています。

  • 自己株式を無償で取得する場合
  • 他の会社・法人の株式・持分の権利に基づき自己株式を交付される場合
  • 株式買取請求権の行使に応じて自己株式を取得する場合
  • 外国会社・会社以外の法人の関わる組織再編に伴い自己株式を取得する場合
  • 権利実行に当たり目的達成に必要かつ不可欠である場合

 

企業において自己株式の取得がなされる背景

財務政策を背景とする自己株式の取得

上場企業においては、財務政策上の理由から証券市場を通じて自己株式を取得することがあります。例えば、株主還元を行うためや、自己資本の額を減少させてROEを改善するために自己株式の取得が行われることがあります。また、自己株式の取得を発表することにより、市場に対して現在の株価が割安であるとメッセージを送ることができるとも言われています(シグナリング効果)。

株主構成を維持するための自己株式の取得

従業員や経営陣に対して交付した自己株式を退職・退任に伴って会社が引き取る必要がある場合に自己株式の取得がなされることがあります。また、譲渡等承認請求がなされた場合や、相続が生じた場合等に株主構成を維持するために自己株式の取得がなされることもあります。

なお、株主構成を維持するための手段として、平成26年会社法改正により株式等売渡請求の制度も設けられました。

 

第三者名義による自己株式の取得

会社法155条は、株式会社自身が自己株式を取得できる場合を規制していますが、第三者の名義であっても会社の計算により自己株式を取得できるのでは本条を容易に潜脱できてしまいます。そのため、会社の計算による第三者名義の自己株式取得は、会社法155条の自己株式の取得として規制の対象となると解されており、通常の場合は会社法1553号に定められた株主との合意による取得として手続規制や財源規制の対象となると考えられます。

どのような場合に会社の計算による自己株式の取得となるかは、会社の出費と株式取得に因果関係があることを含めた具体的な事情を踏まえて個別的に判断されることになるものと思われます。

例えば、東京地裁平成2761日判決は、分配可能額違反の自己株式取得であるか否かが争点となった事案において、株式の譲渡代金は株式会社が振り出した手形・小切手が決済・書換等されることで支払われたため株式会社の自己株式取得であるか、仮に第三者による取得であるとしても第三者の借入金が株式の譲渡代金に充てられたと認めることはでかいないことから株式会社の計算による自己株式取得であると判断しています。

 

自己株式の取扱い

自己株式の保有・処分

会社法においては自己株式の保有期間について制限はありません。

もっとも、自己株式には通常株主に認められる権利の一部が認められていません。例えば、株主総会の議決権、配当請求権・残余財産の分配請求権、株式の割当てを受ける権利は自己株式には認められません。また、組織再編において存続会社等が自己に対して株式を割り当てることもできないこととされています。

自己株式を処分するためには、自己株式を消却することや、募集新株発行と同様の手続きで処分することもできます。また、新株予約権の行使や種類株式の取得の対価や、令和元年会社法改正による株式交付等において、株式を交付する必要があるときに自己株式が利用されることもあります。

自己株式についての会計処理

従前、自己株式は資産として扱われていましたが、平成13年商法改正により自己株式は純資産の部の控除項目として処理されることになりました。つまり、自己株式を取得した時点において、会社へ払い込まれた資本金・資本準備金が流出したと理解されることになります。

自己株式を処分した場合、処分差益はその他資本剰余金に計上されることになり、配当可能財源となります。他方で、処分差損はその他資本剰余金で足りない場合には、まずその他利益剰余金を減らす処理がなされます。

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執筆者:坂尾陽弁護士

  • 2009年 京都大学法学部卒業
  • 20011年 京都大学法科大学院修了
  • 2011年 司法試験合格
  • 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
  • 2016年 アイシア法律事務所設立

 

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