株式会社は、原則として出資の払戻しを受ける制度が存在しないため、株主が投下資本を回収するために株式の譲渡は非常に重要となります。会社法127条は株式譲渡自由の原則を定めており、会社法128条・129条は株券発行会社において株式を譲渡するために株券を交付することが必要とした規定を設けています。
この記事では会社法の条文を紹介しつつ、株式譲渡に関する会社法上の問題について解説します。
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株式譲渡の意義
(株式の譲渡)
第百二十七条 株主は、その有する株式を譲渡することができる
株式の譲渡とは
株式の譲渡とは、当事者間の契約によって株式が移転することを意味します。株式が移転する場合には、株式の譲渡以外に相続や合併等の包括承継や株式交換・株式移転による場合があります。会社法の規定が適用されるかを考える場合において、株式の譲渡に適用されるのか又は相続・合併等の包括承継にも適用されるのかが問題になることがあるので注意が必要です。
株式に係る権利だけを譲渡することはできない
株式は、株主の地位であるため、株式が譲渡されると自益権・共益権といった株式に係る権利の全てが移転するのが原則です。例えば、抽象的な剰余金配当請求権のみを譲渡したり、差し押さえたりすることはできないと考えられています。但し、剰余金配当請求権が株主総会又は取締役会決議によって具体的に確定した場合には、株式とは別個に譲渡の対象となり得るとされています。
株式の譲渡と包括承継の違い
訴訟継続の取扱いについて、株式の譲渡と相続・合併等の包括承継では異なります。株主総会決議取消訴訟等のように株主の地位に基づき認められている訴訟が継続している場合、訴訟中に株式が譲渡されたときは、譲渡人は原告としての地位を失います。他方で、訴訟中に相続・合併等により株式が包括承継されたときは訴訟手続きが受け継がれることになります(最高裁昭和45年7月15日判決参照)。
株式譲渡の手続き(会社法128条)
株式を譲渡するための手続きは、非上場会社かつ株券不発行会社の場合、株券発行会社の場合、上場会社等の振替株式を発行している場合によって異なります。
なお、株式譲渡後に株主名簿の名義書換えを請求するための手続きについては下記記事を参考にしてください。
非上場会社かつ株券不発行会社における株式譲渡手続き
非上場会社かつ株券不発行会社においては、株式の譲渡は当事者間の意思表示だけで効力が生じます。もっとも、会社と第三者に対して株主であることを対抗するためには株主名簿の名義書換えが必要となります(会社法130条1項)。
株券発行会社における株式譲渡手続き
(株券発行会社の株式の譲渡)
第百二十八条 株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、自己株式の処分による株式の譲渡については、この限りでない。
2 株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。
株券発行会社の場合、株式の譲渡は当事者間の意思表示に加えて株券を交付することが効力発生要件とされています(会社法128条1項)。なお、会社法131条2項により株券が交付された場合は株式が善意取得され得る点にも注意が必要です。
株式が二重譲渡された場合についても、株券が交付されないと株式譲渡の効力が発生しないため、株券の交付を受けた方が株式を取得するという意味で実質的に第三者に対する対抗要件にもなり得ます。他方で、会社に対する関係では、株主名簿の書換えが会社に対する対抗要件となります。
株券の交付を受ける方法は、現実の引渡しのみならず、民法182条から184条に定める簡易の引渡し、占有改定、又は指図による占有移転でも構いません。もっとも、指図による占有移転をするためには、指図をするべき対象となる株券が特定される必要があります。そのため、株券が振替機構で混蔵保管されており、問題となる株券のみを他と区別して指図による占有移転は不可能であると判断した裁判例があるので注意が必要です(東京地裁平成16年8月30日判決)。
株券不所持の申出がされている場合においても、株券の交付が株式譲渡の効力発生要件となります。したがって、株券不所持の申出がされている場合、株式を譲渡するためには、会社から株券の発行・交付を受けた上で株券を交付して株式を譲渡する必要があります。
なお、株券の交付は株式の譲渡における効力発生要件です。株式が移転する場合には、相続・合併等の包括承継、株式交換・株式移転、保険法の残存物代位等の法律上当然に生じる権利移転等がありますが、いずれにおいても株券の交付は必要ないと考えられます(東京高裁平成30年7月11日判決参照)。
なお、自己株式の処分については、会社から譲受人への株式の譲渡ではありますが株券交付を効力発生要件としない旨の特則が会社法129条に設けられています。自己株式の処分には、取得請求権付株式や取得条項付株式の対価として自己株式が交付される場合や、株式無償割当てに自己株式を用いる場合、新株予約権の行使に対して自己株式を交付する場合等も含まれるので注意が必要です。
(自己株式の処分に関する特則)
第百二十九条 株券発行会社は、自己株式を処分した日以後遅滞なく、当該自己株式を取得した者に対し、株券を交付しなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、公開会社でない株券発行会社は、同項の者から請求がある時までは、同項の株券を交付しないことができる。
振替株式の譲渡手続き
振替株式については、振替の申請により、譲受人が自己の口座における保有欄に当該譲渡に係る数の増加の記載・記録を受けることが効力発生要件とされています(社債株式振替法140条)。
口座への記載・記録は第三者に対する対抗要件にもなるため、株主名簿の名義書換えは会社に対する関係でのみ対抗要件とされています(社債株式振替法161条3項)。
株式譲渡義務を定める条項の有効性
株式の譲渡は当事者間の契約に基づいて自由に行われることが原則ですが、事前に株式譲渡義務を定める条項は有効なのでしょうか。
株式を譲渡する義務は、株式譲渡自由の原則を制約するものと思えるため問題となります。この点について、株式譲渡自由の原則は投下資本を回収する機会を株主に確保することが趣旨であるため、一定の合理性があり、投下資本の回収を不当に害しない範囲であれば株式譲渡義務を定める条項も有効と考えられます。
とくに裁判例で問題となりやすいのが、従業員持株会において退職時等において取得価額と同額で株式を譲渡する義務を負う旨の条項です。しかし、判例は、従業員持株会における退職時等に株式譲渡義務を定める条項は有効であるとしています(最高裁平成21年2月17日判決)。
もっとも、株式会社が多額の利益を計上しているにもかかわらず、一切配当等を行っておらず株主が当該利益の恩恵を享受することができず、さらに最終的には留保利益による株式価値の上昇を反映せずに取得価額で株式を譲渡する義務を認めるとすると、実質的に株主から投下資本を回収する機会を奪っていることになります。そのため、事案によっては株式譲渡義務を定める条項が無効と裁判所によって判断される可能性はあると考えられます。実際に、当該条項の有効性を認めた最高裁平成21年2月17日判決においても、「多額の利益を計上しながら特段の事情もないのに一切配当を行うことなくこれをすべて会社内部に留保していたというような事情も見当たらない。」ことが判断の前提と指摘されています。株式会社が長年配当等を行わず、株式価値が大幅に上昇している場合において、株式譲渡義務の内容が不当だと感じたときは弁護士に相談することをおすすめします。
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株券の発行が不当に遅滞している場合
株券発行会社においては、株式の譲渡には株券の交付が必要とされており、株券の発行前にした譲渡は株式会社に対して効力を生じないとされています(会社法128条2項)。また、株券発行会社は遅滞なく株券を発行するべきとしています(会社法215条1項)。
しかし、会社が不当に発行を遅滞している場合にまで株式を譲渡できないとするのは問題です。そのため、判例は、株式会社への組織変更後に4年間も株券を発行していなかった事案において、会社が株券発行を不当に遅滞する場合、株主は意思表示のみで有効に株式を譲渡することができ、会社は株券発行前であることを理由にその効力を否定できないとしています(最高裁昭和47年11月18日判決)。
株券の発行が不当に遅滞していたり、株券の発行を拒絶されたりするリスクを考えると、会社に対する株券発行請求や株主名簿の名義書換請求等は確定日付のある形で会社に行うことが望ましいとの指摘もあるところです。
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- 2009年 京都大学法学部卒業
- 20011年 京都大学法科大学院修了
- 2011年 司法試験合格
- 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
- 2016年 アイシア法律事務所設立