(支配人)
第十条 会社(外国会社を含む。以下この編において同じ。)は、支配人を選任し、その本店又は支店において、その事業を行わせることができる。
(支配人の代理権)
第十一条 支配人は、会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
2 支配人は、他の使用人を選任し、又は解任することができる。
3 支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
支配人の意義と効力
支配人の選任手続き
会社の使用人のうち、会社に代わって事業に関する裁判上・裁判外の行為を行うことができるのが支配人です。支配人は大きな権限を持っているため、その選任については会社法において厳格な手続きが定められています。具体的には以下のいずれかの方法により選任されることになります。
- 取締役の過半数による決定(会社法348条2項、3項1号)
- 取締役会設置会社では取締役会決議(会社法362条4項3号)
- 指名委員会等設置会社において取締役会決議によって委任された執行役の決定(会社法416条4項)
- 持分会社の場合は社員の過半数の決定(会社法591条2項)
支配人の選任手続きに瑕疵があった場合
会社法は支配人に広範な代理権を認める前提として、支配人の選任・解任について厳格な手続きを定めています。そのため、支配人の選任手続きに瑕疵があった場合には、そのような支配人の選任・解任は向こうと考えられます。
雇用関係を前提とすること
支配人は会社の使用人ですが、基本的には会社の使用人と言えるためには会社との間で雇用関係があることが前提となります。例えば、株式会社の営業所長から包括的な権限の委託を受けて「所長代理」の肩書で業務を行っていた者について、判例は雇用関係がないことなどから使用人ではないと判断しています(最高裁昭和59年3月29日判決)。
支配人と事業に関する行為
支配人は事業に関する行為に関して権限を有していますが(会社法11条1項)、事業に関する行為とは事業の目的である行為だけでなく、事業のために必要な行為も含まれます。
判例は、この点について行為の性質・種類等を勘案し客観的・抽象的に観察して決するべきであるとしています(最高裁昭和54年5月1日判決)。
例えば、新聞社において東京支社長心得という肩書を許していた者が行った骨董品の売買あっせん行為について、地方新聞・業界新聞の発行会社が人脈等を利用して取引等の仲介・あっせんをすることは付随業務として広く行われているため、骨董品・動産の売買仲介あっせんは当該会社の業務に含まれると判断されています(東京地裁平成4年12月17日判決)。
訴訟対応のための形式的な支配人の選任について
会社法11条1項の支配人と言えるためには、形式的に支配人として登記されているだけでなく、実質的に営業上の包括的な権限を与えられることが必要であると考えられています。そのため、訴訟対応を行わせるために形式的に支配人として選任・登記を行い、その支配人に訴訟行為を行わせた場合、その訴訟行為は無効と判断される場合があります。
例えば、名古屋高裁金沢支部平成21年6月15日判決は、貸金業者が過払金返還請求訴訟を対応させるために支配人として登記されている従業員に訴訟行為をさせた事案において、その従業員の住所が京都府であるのに貸金業者の東京都の営業所の支配人になっている等の支配人としての実質的権限に疑義があったため、裁判所は当該従業員は実質的に取引に関する営業上の包括的権限は与えられていないため会社法11条1項の支配人とは認められず、その訴訟行為は無効であると判断しました。
表見支配人に関する問題
(表見支配人)
第十三条 会社の本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、当該本店又は支店の事業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
会社は、使用人に本店・支店の事業の主任者であることを示す名称を付した場合にはその使用人がした裁判外の行為について責任を負うことになります。
どのような名称が表見支配人と判断されるか
表見支配人に関する規定が適用されるためには、事業の主任者であることを示す名称が付されていることが必要です。そのため、どのような名称であれば「事業の主任者であることを示す」と判断されるのかがポイントになります。
この点、裁判例においては以下のような名称では事業の主任者ではないと判断されています。
- 支店長代理
- 支店次長
- 所長代理
- 営業本部長
- 工事長
他方で、裁判例においては以下のような名称は事業の主任者を示すものと判断されています。
- 支社長
- 支店長
- 取締役店長
- 東京支社長心得
- 本店店長
営業所の実質がない場合
表見支配人の規定が適用されるためには、当該使用人の配置されていた本店・支店に営業所としての実質があることが必要だというのが判例の立場です(最高裁昭和37年5月1日判決)。
例えば、工場・倉庫等は営業上の活動がされるというよりは、基本的には商品を生産・保管するという事実行為のみが行われる場所です。そのため、工場・倉庫等があるだけでは営業所と認められることは難しいと考えられます。
この点、生命保険相互会社の支社は、新規保険契約の募集・第1回保険料徴収の取次ぎの業務を行うものの、基本的事業行為である保険業務を独立して行う権限を有していないことがあります。そのため、過去の判例においては独自の事業活動を行う組織を有する従たる事務所としての実質を備えていないと判断されています(最高裁昭和37年5月1日判決)。もっとも、東京高裁平成20年7月31日判決は、表見支配人を巡って争われた事案ではないものの支社長名義で締結された覚書の効力を認めています。つまり、裁判所は営業所の実質を備えているか否かの判断は必ずしも一律に定まっているわけではなく、事案に応じて判断が異なる可能性があるので注意が必要です。
- 2009年 京都大学法学部卒業
- 20011年 京都大学法科大学院修了
- 2011年 司法試験合格
- 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
- 2016年 アイシア法律事務所設立
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