システム開発トラブルが起きたとき、最初の動き方で、損害の拡大・責任の整理・交渉力が大きく変わります。とくに受託側(ベンダ)は、安易な瑕疵認定や「無償対応の約束」により、後から責任範囲が広がるリスクがあります。
このページでは、発注側・受託側の双方を前提に、①証拠保全(書面+技術ログ)、②事実関係の整理(時系列と最終合意の特定)、③通知・交渉の進め方、④契約条項の確認ポイントを、初動で使える形にまとめます。
坂尾陽弁護士
- まずは資料とログを保全し、上書き・削除・強制更新を止める
- 仕様・要件・変更合意の「最終版」を特定し、時系列を1枚にする
- 相手への連絡は責任を断定せず、事実と提案(次の打ち手)をセットで出す
- 検収・支払・追加費用・解除を見据えて、契約条項を早期に棚卸しする
- 技術と法務が同じ前提を持つように、社内体制と窓口を一本化する
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
Contents
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初動で決めるべき「4つのゴール」
初動は原因究明だけではなく、社内意思決定を前に進める作業です。最低限、次の4点を同時に進めます。
- 証拠を残す:後で「言った/言わない」「仕様が違う」を防ぐ
- 事実を揃える:時系列と成果物の状態(未検収/検収済/運用中)を整理する
- 交渉の軸を作る:修補・追加開発・暫定運用などの選択肢を用意する
- 責任範囲を見立てる:契約条項と実態(変更管理・検収・指示系統)から早期に仮説を持つ
「責任の結論」を急いで断定する必要はありませんが、交渉の前提(仮説)は早めに作っておくと、相手の主張に振り回されにくくなります。
証拠保全:書面・チャット・成果物を「消さない」
トラブル発生後は、メール・チャット・チケットが増え、現場の修正対応で状況が変化します。後から説明可能な状態にするため、まず「現時点の証拠」を固定します。
まず保全するべき資料(両者共通)
- 契約書・基本契約・個別契約(注文書/請書)・約款
- 提案書、見積、要件定義書、仕様書、議事録、メール、チャットログ
- タスク管理(チケット)・障害管理表・変更要求(CR)・承認記録
- 検収資料(受入テスト結果、検収書、指摘一覧、納品物一覧)
- 請求書、支払状況、追加費用の見積・合意の有無
技術証拠(ソース・ログ)の保全
技術的な証拠は「あとで取れる」と思いがちですが、ログが失われることも少なくありません。開発・運用担当と連携し、早期にスナップショットを確保します。
最低限度の保全として「現状のスナップショット→読み取り専用で保管→いつ・誰が・何を保全したかを記録」は早期に行いましょう。
上書き防止のための簡易ルール
- 関係アカウントの権限を見直し、ログ削除・設定変更ができる人数を絞る
- 「暫定対応」の前に、現状のログと成果物を一度アーカイブする
- 保全データは読み取り専用(アクセス制限)で保管し、作業用コピーで分析する
事実関係の整理:時系列と「最終合意」を固める
次にやるべきは、責任論に入る前提としての事実整理です。紛争化する案件は、原因そのもの以上に、仕様変更・指示系統・検収の記録が曖昧なことが多いです。
まずは「時系列表」を1枚で作る
- いつ、誰が、何を依頼/承認し、どの成果物が、どの状態になったか
- 障害・不具合が発生した日時と、暫定対応・恒久対応の履歴
- 検収(受入)と支払のタイミング、留保理由の記載
「仕様の最終版」と「変更合意」を特定する
受託側は特に、仕様変更が口頭・チャットで積み上がっていると、追加費用の根拠を失いやすくなります。発注側も、期待する仕様が曖昧だと検収拒否が通りにくくなります。最終的に合意した仕様(要件)を、資料と記録で特定します。
通知・交渉:責任を認めずに前に進める連絡のコツ
相手方への連絡は、トーンや言い回し次第で「責任を認めた」と評価されるリスクがあります。初動の通知は、事実→暫定対応→提案→必要な確認の順で、断定を避けて組み立てます。
最初の連絡で避けたい表現(受託側は特に注意)
- 「弊社の不手際です」「全て当社の責任です」(過度な責任認定)
- 「無償で対応します」「必ず間に合わせます」(根拠のない約束)
- 「仕様変更は聞いていません」(記録のない否認だけで押し切る)
相手に示すべき「提案セット」
- 現状の整理(再現条件、影響範囲、暫定回避策の有無)
- 一次対応案(修補の方針、暫定運用、優先度付け)
- スケジュール案(いつまでに何を出すか)
- 費用の論点(追加対応の有償/無償の切り分け、見積提示のタイミング)
「問題は起きているが、結論はまだ断定できない」局面でも、提案セットがあると交渉が前に進みます。
契約条項チェック:初動で見るべきポイント
初動で契約を読み直すときは、全文を精読する前に、争点になりやすい条項から当たりを付けます。特に受託側は、責任の上限や検収条項を見落とすと、交渉が不利になります。
- 契約類型(請負/準委任):完成義務・善管注意義務の整理
- 検収:検収方法、検収期間、みなし検収、指摘の手続
- 仕様変更(変更管理):見積・承認、納期/費用の調整ルール
- 契約不適合/瑕疵:修補、代金減額、解除、損害賠償の条件
- 責任制限:賠償上限、間接損害・逸失利益の除外、免責
- 解除:解除事由、催告要否、中途解約の精算、成果物の帰属
- 紛争解決:管轄、準拠法、協議条項、ADR条項
初動チェックリスト(論点別):発注側・受託側
同じ事象でも、発注側と受託側で「守るべきポイント」が違います。自社の立場に合わせて、抜け漏れなく確認します。
発注側(ユーザー企業)
- 検収条件(受入基準)と、指摘事項の整理(再現手順・優先度)を固める
- 支払留保をする場合は、契約上の根拠(検収未了、相殺、留保条項)を確認する
- 暫定運用・代替手段(手作業、別システム)と、そのコストを把握する
- 社内の指示系統(誰が仕様変更を承認したか)を整理し、記録を確保する
受託側(ベンダ)
- 「合意された仕様」と「未合意の要望」を分け、追加対応の範囲を線引きする
- 変更管理の手続(見積→承認→着手)が回っていたかを検証し、根拠資料を揃える
- 無権限者との合意(現場同士の口約束)を避け、窓口を一本化する
- 責任制限条項・間接損害除外・賠償上限がある場合、早期に交渉の前提に組み込む
- 技術検証は「作業ログ」と「再現条件」を残し、後から説明できる形で進める
次の一手:訴訟を見据えた整え方
交渉が難航する見込みがある場合は、早い段階で「争点の棚卸し」と「立証(証拠)の整理」を進めると、訴訟化しても対応がぶれません。契約不適合や損害賠償の考え方は、論点ごとに整理しておくと有用です。
関連する論点は、次の記事でも整理しています。
まとめ
- 初動は「証拠保全→事実整理→提案セット→契約チェック」を同時並行で進める
- 受託側は、安易な責任認定・無償約束を避け、変更管理と責任制限の根拠を揃える
- 技術証拠(ソース・ログ)は早期にスナップショットを確保し、改ざん防止も意識する
- 発注側は、検収条件と指摘事項を具体化し、支払留保の根拠を契約で確認する
坂尾陽弁護士
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