システム開発プロジェクトが炎上すると、代金の支払・追加費用・損害賠償・解除などが絡み合い、最終的に「システム開発 訴訟」に至ることがあります。
訴訟で重要なのは、感覚的な「うまくいかなかった」ではなく、何を合意し、どこで、誰の原因で、どんな損害が生じたのかを、契約書・仕様書・議事録・メール/チャット・ログ等で立証できる形に落とし込むことです。本記事では、訴訟の一般的な流れを示したうえで、勝敗を分けやすい4大争点(要件定義/検収/仕様変更/遅延)を、立証と反論パターンまで整理します。
坂尾陽弁護士
- 訴訟前に整理すべき「契約類型・合意内容・請求の構造」
- 提訴から和解・判決までの流れと、長期化しやすいポイント
- 要件定義/検収/仕様変更/遅延で争点化しやすい典型論点
- 発注者・受託者それぞれの立証(証拠)と反論の組み立て
- 技術資料を「裁判で使える証拠」に変換する整理のコツ
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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訴訟で最初に整理すべき3つの軸(契約類型・合意内容・請求の構造)
システム開発の裁判は、技術の出来不出来だけでなく、契約上の約束と当事者の行動経過がセットで評価されます。まずは次の3点を押さえると、争点整理が一気に進みます。
- 契約類型(請負/準委任など):完成義務か、善管注意義務かで責任の枠組みが変わる
- 合意内容(仕様・成果物・受入基準):要件定義・議事録・承認履歴で「約束した中身」を確定する
- 請求の構造(代金・追加費用・損害賠償・解除):主張は反訴も含めて“セット”で組み立てる
契約類型(請負・準委任)で「義務」と「責任」が変わる
契約書に「請負」「準委任」と書かれていても、実態として工程ごとに性質が異なることがあります。訴訟では、少なくとも次の違いを踏まえて主張を設計します。
- 請負(完成型):成果物を完成させる義務が中心。検収・引渡しと代金支払、完成物の契約不適合(バグ・仕様不一致)との関係が争点になりやすい
- 準委任(プロセス型):成果を保証するというより、業務を適切に遂行する義務が中心。設計判断の妥当性、報告義務、発注者の協力義務(意思決定・情報提供)が争点になりやすい
どちらであっても、最終的には契約書・提案書・仕様書・運用(当事者のやり取り)から、裁判所に「この案件は何を約束したのか」を理解してもらう必要があります。
請求の立て方(代金・追加費用・損害賠償・解除)は「セット」で検討する
開発訴訟は、片方が原告・もう片方が被告になっても、実質的には双方が請求を出し合う形(反訴)になりやすいのが特徴です。典型的には次の組み合わせが多いです。
- 受託者(ベンダ):代金請求/追加費用請求 vs 発注者:支払拒否(未完成・不具合)+損害賠償(反訴)
- 発注者:解除+損害賠償(再開発費・代替費用など) vs 受託者:解除は無効、原因は発注者側(協力義務違反・仕様未確定)
- 双方:過失相殺/帰責割合(どちらの要因が何割か)、責任制限条項の適用の有無
損害賠償の範囲や立証は論点が広いため、別記事で体系的に整理しています(システム開発の損害賠償)。不具合(契約不適合)を軸に争う場合は、契約不適合責任の整理もセットで確認すると見通しが立ちます。
システム開発訴訟の流れ(提訴前~和解・判決)
裁判の大まかな流れは他の民事訴訟と共通ですが、開発訴訟は「技術的争点の説明」に時間がかかるため、長期化しやすい傾向があります。
- 提訴前の整理:契約関係・成果物・変更履歴・損害の棚卸し(交渉が並行することも多い)
- 訴状提出~答弁書:請求の骨格が固まる(代金請求か、損害賠償か、解除か)
- 争点整理(準備書面の応酬):要件定義・検収・仕様変更・遅延など、争う論点を絞り込む
- 証拠の提出・検討:契約書類だけでなく、議事録・メール/チャット・進捗資料・ログが大量に出る
- 技術的争点の補助(専門委員・鑑定等):必要に応じ、裁判所が技術理解のための手当をする
- 和解協議:証拠が出揃った段階で現実的な落とし所を探る(分割払・追加作業・相殺など)
- 判決(必要なら控訴):判断枠組みは「合意内容」「帰責性」「損害」「制限条項」の順に積み上がる
争点1:要件定義(合意した仕様は何か)
要件定義が曖昧なまま進むと、後から「それは仕様に入っている/入っていない」「説明を受けていない/聞いていない」が連鎖し、紛争が解けなくなります。訴訟では、完成物の出来以前に、合意された要件の特定が最大の山場になりがちです。
よくある主張の組み合わせ(発注者/受託者)
- 発注者の主張例:要件定義書・議事録で合意した仕様が実装されていない/品質が基準を満たさない。専門家として注意・提案すべきだった。
- 受託者(ベンダ)の主張例:要件が確定していない、または前提(業務フロー・データ)が提供されていない。発注者の意思決定が遅れ、追加要望が積み重なった結果であり、当初仕様の不履行ではない。
立証で見られる資料(「いつ・何を・誰が承認したか」)
裁判で強いのは、仕様そのものよりも、合意の履歴が分かる資料です。紙の仕様書だけでなく、メールやツールの履歴が重要になります。
- 契約書、業務範囲(スコープ)定義、提案書・見積の前提条件/除外事項
- 要件定義書・基本設計書・画面遷移図・データ定義書(版管理の履歴が分かるもの)
- 定例会議の議事録、課題管理表、承認メール、稟議・ワークフローの記録
- 変更要求のチケット、チャット履歴(決定事項・宿題・未回答の有無が分かる箇所)
受託側(ベンダ)の反論・防御ポイント(比重多め)
受託側は「仕様が定まっていない状態で完成義務を問えない」「発注者側の協力が不可欠だった」ことを、抽象論ではなく事実で示す必要があります。
- 確定していない要件の特定:未決事項リスト、質問への未回答、保留された判断を時系列で示す
- 前提条件のズレ:既存システム・データ品質・運用フローなど、前提が変わった(または提供されなかった)ことを示す
- スコープ外(追加要望):当初見積の前提・除外事項と、後出しの要望を対比し、仕様変更として整理する
- 説明・報告の履歴:リスク説明、代替案提示、確認依頼を行っていたことを、議事録やメールで裏付ける
争点2:検収(受入)の意味と、検収後に争える範囲
検収は、代金支払の前提になるだけでなく、「どこまで出来ていれば合格か」「不具合の指摘はいつまでか」といったルールの起点になります。検収をめぐる争いは、未完成・不具合の主張とセットで出てきます。
検収条項でよく出る論点
- 検収期間・方法:受入テストの期間、指摘方法(一覧提出・チケット登録等)、合否基準
- みなし検収:一定期間内に指摘がなければ合格と扱う条項の有効性・適用場面
- 段階検収:工程ごとに検収する(要件定義/設計/開発/総合テスト等)場合の効果
- 運用開始との関係:本番稼働・利用開始が「受領」「合格」を意味するか
立証のポイント(検収したのか/していないのか)
- 検収書・合格通知・受入結果報告、検収NGの指摘一覧(バグ票)
- 本番環境へのリリース記録、運用開始の社内通知、ユーザーへの展開資料
- 代金支払の有無・支払条件、分割検収の支払管理表
- 検収後の追加改修依頼が「瑕疵対応」か「仕様変更」かを分ける資料
受託側(ベンダ)の反論・防御ポイント(比重多め)
- 検収手続の履践:検収依頼を出した、検収期間が経過した、みなし検収条項が発動したことを示す
- 実運用の開始:本番稼働・利用実績・支払がある場合、事実上の受領として評価され得る
- 指摘の具体性不足:不具合指摘が抽象的で再現性がない、受入基準と結び付いていない
- 指摘の性質:検収後に出た要望が「瑕疵」ではなく「追加機能」であることを整理する
一方で、検収があっても、重大な不具合や契約上の適合性をめぐる争いが完全に封じられるとは限りません。争点化しそうな場合は、検収の位置づけと不具合の性質を早めに切り分けることが重要です。
争点3:仕様変更(追加費用・納期延長は合意されたか)
「仕様変更があった/ない」は、追加費用だけでなく、遅延の帰責や損害の範囲にも直結します。変更管理(Change Control)が弱い案件ほど、訴訟ではここが大きな塊になります。
仕様変更が争点になる典型パターン
- 要望が小出しに増え、当初スコープが曖昧なまま実装が膨らんだ(スコープクリープ)
- バグ修正のはずが、実質的には仕様追加・仕様転換になっていた
- 追加見積は出したが、発注手続(稟議・注文書)が完了しないまま着手した
- 納期延長を口頭で了承したが、契約書・工程表の更新がされていない
立証のポイント(「変更要求→見積→発注→実施」の鎖)
- 変更要求書・チケット、変更点の説明資料(画面・帳票・IF・DB等の差分)
- 追加見積書・見積根拠(工数表)、発注書・注文書、承認メール
- 改訂版の工程表(納期延長の合意が分かるもの)、議事録
- 納品物・コミット履歴・リリースノート(変更内容が客観的に分かるもの)
受託側(ベンダ)の反論・防御ポイント(比重多め)
- 当初スコープの明確化:提案書の前提・除外事項と、追加要望の差分を対比する
- 追加作業の必要性:要望が設計・テストに波及する理由(影響範囲)を説明できる資料を出す
- 合意形成の履歴:見積提示・承認依頼・リスク説明をしていたのに、発注側手続が遅れた事実を示す
- 瑕疵対応との切り分け:不具合修正(契約内)と追加機能(別途)を混同しない
仕様変更が多い案件ほど、裁判所は「変更があったこと」よりも、その都度、追加費用・納期・責任分界をどう合意したかに注目します。合意の粒度(文書化の程度)が、そのまま勝敗に影響します。
争点4:遅延(納期遅れ)の原因と帰責性
遅延は最も分かりやすいトラブルに見えますが、実務では「仕様変更」「発注者の協力義務」「テスト・検収の遅れ」などと絡み、原因の切り分けが難しくなります。訴訟では、遅れた事実よりも、なぜ遅れたのかを工程と資料で説明できるかが焦点です。
遅延損害が争点になるときの見取り図
- 納期・マイルストーン:いつまでに何を完成させる約束だったか
- 遅延の原因:設計遅れ/仕様未確定/レビュー滞留/外部要因など、原因の特定
- 帰責性(どちらの責任か):受託者の体制・管理の問題か、発注者の意思決定・情報提供の問題か
- 損害の範囲:遅延によって何が追加で発生したか(追加人件費、代替調達費、逸失利益等)
立証のポイント(工程表・進捗資料・やり取りの一致)
- 当初の工程表(WBS)、改訂履歴、週次/月次の進捗報告、課題管理表
- 遅延の発生点(いつ、何が止まったか)が分かる議事録・チケット・メール/チャット
- 追加要員投入・外注・再作業の記録(遅延が損害に結び付く説明の材料)
- 仕様変更や検収遅れとの因果関係を示す資料(同時並行の論点整理が重要)
受託側(ベンダ)の反論・防御ポイント(比重多め)
- 発注者の協力義務違反:意思決定の遅れ、資料未提供、レビュー滞留など「止まった原因」を特定して示す
- 仕様変更による延長:変更管理の資料で、延長が合理的だったこと(または延長合意があったこと)を裏付ける
- 同時原因(コンカレント):受託側要因だけで遅れたわけではないことを工程で示し、損害の全額負担を争う
- 損害の立証の弱点:発注者が主張する損害が抽象的/拡大しすぎ(相当因果関係・予見可能性)である点を突く
遅延損害は金額が大きくなりやすい一方で、立証が難しい論点です。損害額の考え方は別記事で詳しく整理しています(システム開発の損害賠償)。
勝敗を分ける「技術資料の整え方」:裁判で使える形に変換する
裁判所が見たいのは、膨大なログそのものではなく、争点ごとに「どの資料が、どの事実を示すか」が整理された状態です。社内で次の形に落とすと、主張が通りやすくなります。
- タイムライン:日付/イベント(会議・承認・リリース・障害)/根拠資料を1行で対応付ける
- 争点別フォルダ:要件定義・検収・仕様変更・遅延ごとに、決定資料→実装資料→結果資料の順に並べる
- 「仕様→実装→テスト結果」セット:仕様書の該当箇所、実装を示す資料、テスト・不具合の結果を同じ束にする
- 変更履歴の見える化:改訂前後の差分、誰が承認したか、追加費用・納期への影響を一体で示す
特にチャットやチケットは、単体では読みづらいため、決定事項が書かれた箇所だけを抜粋し、前後関係が分かる形で提出できるように整えるのが実務的です。
訴訟を見据えた実務対応(争点を増やさず、証拠を固める)
訴訟に入ってから慌てて資料を集めると、「出せない」「説明できない」が増え、主張全体が弱くなります。まずは次の順で整理すると、争点の膨張を抑えつつ防御(または請求)ができます。
- 証拠の保全:議事録・メール/チャット・チケット・ログを散逸させない(権限停止や保存設定の見直しを含む)
- 争点の優先順位付け:要件定義→検収→仕様変更→遅延の順に、勝敗へ効く論点から固める
- 損害の棚卸し:損害項目を「事実で裏付けできるもの」から積み上げる(推測を先に置かない)
- 和解の現実解:金銭だけでなく、追加作業・成果物引渡し・権利帰属等を含めて落とし所を検討する
初動の証拠保全や交渉の進め方は、別記事で詳しく整理しています(システム開発トラブルの初動対応)。
- 訴訟では「契約類型・合意内容・請求の構造」を最初に固める
- 要件定義は合意履歴、検収は手続と運用開始、仕様変更は見積・発注の鎖、遅延は工程と原因の切り分けが要
- 受託側は協力義務違反やスコープ外を“事実”で示し、発注側は合意と損害を“資料”で積み上げる
- タイムラインと争点別の資料整理が、裁判所への説明力を大きく左右する
- 損害賠償・契約不適合は別テーマとして体系的に整理しておくと主張がブレない
システム開発の裁判は、資料の量が多く、争点も広がりやすい分野です。だからこそ「争点を増やさない設計」と「証拠の見せ方」が重要になります。
まずは、要件定義→検収→仕様変更→遅延の順に、勝敗へ直結しやすい論点から整理し、主張と証拠を1対1で対応付けていきましょう。
坂尾陽弁護士
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