共同創業者どうしの対立、親族間の利害対立、外部株主(投資家)からの要求――こうした株主紛争は、取引先とのトラブルと違い「会社の中のルール(会社法・定款・株主総会手続)」が絡むため、対応を誤ると意思決定が止まり、事業に直接ダメージが出やすいのが特徴です。
とくに、単なる少数株主ではなく「一定数の株式を保有し、経営にも関与してきた株主(共同創業・親族経営など)」が相手だと、感情面も含めて長期化しやすくなります。会社側としては、感情論に引きずられず、手続の適法性と証拠を軸に、解決までの道筋を設計することが重要です。
この記事で分かること
- 株主との対立が起きる典型パターンと「こじれやすい構造」
- 会社側が最初にやるべき事実整理・資料収集(定款・株主名簿など)
- 株主が取り得る法的手段と、会社側の防御ポイント
- 交渉・裁判手続まで見据えた解決の進め方
- 再発を防ぐための予防策(株主構成・ルール設計)
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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株主紛争とは:会社内部紛争の中で起きる「株の力学」
株主紛争とは、会社の株式を持つ者(株主)と会社(または会社の経営陣)が、経営方針・人事・配当・情報開示・株式の帰属などを巡って対立し、交渉や手続が行き詰まる状態をいいます。
会社内部の対立は「役員間」「株主間」「株主と役員」のように形がさまざまですが、株主紛争が厄介なのは、株主側が会社法上の権利行使(閲覧請求、総会招集、決議の争い、代表訴訟など)を通じて、会社の意思決定やレピュテーションに影響を与え得る点です。
長期化しやすい理由は、大きく次の3つです。
- 目的が複数になりやすい:「経営に戻りたい」「配当を増やしたい」「株を買い取ってほしい」など、表に出る要求と本音がズレることがある
- 手続が争点になる:総会招集・議決権・議事録・通知方法など、実体より先に“手続の適法性”が争われやすい
- 社内外に波及する:従業員・金融機関・取引先が不安になり、事業継続の観点で「早期終結」が必要になりやすい
会社側が最初に把握すべき「当事者・権利・資料」
初動では、議論の前に「誰が、どの権利を、どの根拠で主張しているか」を固めます。株主紛争は、前提(株主かどうか/何株か/議決権はあるか)が揺らぐと、以後の対応がすべて崩れます。
まず確認したい当事者関係(チェックポイント)
- 株主名簿上の株主(名義)と、実質的な保有者が一致しているか
- 議決権の数(種類株式・自己株式・議決権制限の有無)
- 共同創業・親族など、利害関係者(他株主・役員)との関係
- 株式譲渡の経緯(譲渡制限、譲渡承認、相続・贈与の有無)
会社側で早期に集めたい資料
次の資料は、交渉でも裁判手続でも“土台”になります。
- 定款・株主名簿:議決権の前提(種類株式、譲渡制限、基準日等)を確定し、誰が何を主張できるかを整理する
- 株主総会・取締役会の議事録/招集通知:決議の有効性が争点になるため、手続の適法性(通知時期、議案、決議要件)を検証する
- 株主間契約・投資契約:拒否権、情報提供、株式譲渡、買戻し、デッドロック条項など、会社法とは別のルールがある場合が多い
- 株式関連の証憑:株券発行の有無、払込の事実、名義書換請求書、株式譲渡契約書などを時系列で揃える
- 社内の意思決定資料:メール、チャット、稟議、面談メモ等(後から作れない“当時の記録”を優先)
「とりあえず総会を開けばよい」と急ぐのは危険です。招集手続や議案設計が甘いと、決議取消・仮処分のリスクが上がり、かえって紛争が拡大します。
典型パターン:共同創業・親族経営・外部株主で何が起きるか
株主紛争は、株主の属性によって争点が変わります。会社側としては、相手の「ゴール」を読み違えないことが重要です。
共同創業(例:50/50など)で起きやすい対立
共同創業では、株式比率が拮抗しやすく、意思決定が詰まる(デッドロック)ことがあります。典型例は、代表交代・役員人事・新規事業投資・資金調達条件などです。
この類型では、争点が「正しさ」ではなく主導権になりがちです。
会社側の現実的な出口としては、株式の買取(MBO的整理)、役割分担の再設計、第三者を入れた交渉などが候補になります。
経営権の争いが前面に出る場合は、経営権(支配権)紛争の解説もあわせて確認すると整理しやすいです。
親族経営:承継・相続と絡む紛争
親族経営では、事業承継や相続をきっかけに、株式が分散し、配当や役員人事を巡って対立することがあります。とくに、相続で取得した株式を「経営に参加するための権利」と捉える株主と、「資産としての権利」と捉える株主が混在すると、話が噛み合いにくくなります。
会社側は、感情面の火種を増やさないためにも、説明責任(情報提供)と手続の適法性を丁寧に積み上げ、出口(買取・分割・経営関与の範囲)を提案できるよう準備します。
外部株主(投資家):情報開示・ガバナンス要求
投資家が株主の場合、「情報提供」「拒否権(同意事項)」「希薄化」「役員派遣」などが争点になりやすいです。会社法上の権利行使だけでなく、投資契約の条項(情報提供・協議事項など)が実務上の武器になります。
会社側は、契約で合意した範囲を超える要求に引きずられないよう、契約条項と会社法上の権限の線引きを先に整理しておくと、交渉が安定します。
株主が取り得る主な「法的手段」と、会社側の防御ポイント
会社側の視点では、「株主が次に何をしてくる可能性があるか」を想定し、それに耐える記録と手続を準備することが重要です。ここでは代表例を挙げ、深掘りが必要なテーマは関連記事へつなぎます。
① 情報・資料の閲覧請求(議事録、会計帳簿、株主名簿など)
株主は、一定の要件のもとで議事録や会計帳簿などの閲覧・謄写を請求できます。会社側は「どこまで応じるべきか」「拒否できるか」が悩みどころですが、拒否の可否は場面で異なり、安易な全面拒否は紛争を激化させることがあります。
まずは、請求の趣旨(何を疑っているのか)を把握し、機密情報の扱い(閲覧場所、写しの範囲、第三者提供の制限)を含めた条件設計を検討します。
② 株主総会の招集・議題提案、決議の争い
株主側が総会の開催を求めたり、特定の議題(役員選任・解任など)を求めたりすることがあります。会社側は、招集手続や議案設計を誤ると、決議取消などのリスクが生じるため、形式を軽視しないことが重要です。
役員人事が争点になる場合は、取締役の解任手続きもあわせて確認してください。
③ 仮処分(議決権行使の差止め、決議の効力停止など)
紛争が加熱すると、株主側が「急いで止めたい」局面(総会の決議前後など)で仮処分を検討することがあります。会社側は、スケジュール(招集通知〜総会)と証拠(議案の必要性、手続の適法性)を揃えておくと、不要な混乱を減らせます。
④ 株主代表訴訟(取締役の責任追及)
対立が「経営陣の責任追及」に移ると、株主代表訴訟が問題になります。会社側・取締役側は、初動の説明や記録が後から重く効くため、早めに方針を固めることが重要です。
代表訴訟に特化した対応は、株主代表訴訟の初動と防御ポイントで詳しく解説しています。
⑤ 少数株主の権利行使(全体像)
少数株主の権利行使は、情報取得・総会・訴訟など複数の手段があり、会社側としては「どこが本丸か」を見誤らないことが重要です。全体像は、少数株主対策(会社側)にまとめています。
上場企業では、委任状争奪戦(プロキシーファイト)など、株主対応がより公開性・スピードを求められます。本記事は非上場・中小企業を主対象としつつ、必要箇所で上場企業の話題にも軽く触れます。
解決の道筋:交渉→手続→裁判所での手続をどう組み立てるか
株主紛争の解決は、最初から訴訟を前提にする必要はありません。ただし、裁判所での手続(仮処分・訴訟)も視野に入れる場合、交渉で何を言うかも設計が必要です。安易な発言が「債務の承認」「不利益な認定」につながると、後戻りが難しくなります。
ゴールを3つに分ける(会社側の実務)
- 会社を続ける:役割分担やガバナンスを調整し、対立を管理する
- 分かれる:株式の買取・譲渡で関係を切り、再発リスクを下げる
- 止める:清算・事業譲渡など、会社の形を変えて損失を抑える
「分かれる」出口を取りに行く場合でも、株式譲渡制限や、相手が応じない場合の対抗策(議決権構造、資本政策、買い取りスキームなど)を検討する必要があります。経営権争いが強い場合や、第三者が介入している疑いがある場合は、会社乗っ取り(経営権の奪取)の手口と防衛策も参考になります。
予防策:株主構成とルールの「設計」で紛争を小さくする
株主紛争は、起きてからの解決よりも「起きたときに致命傷にならない設計」が重要です。特に共同創業・親族経営では、平時の合意形成が将来の保険になります。
- 株式譲渡・買取のルールを明確にする:譲渡制限の運用、買取の評価方法(算定方法・分割払い等)、第三者への売却可否を決めておくと、出口交渉が現実的になる
- デッドロック条項を用意する:50/50などで意思決定が止まる場合に備え、第三者決定、仲裁、買い取り(buy-sell)など“詰み”を避ける仕組みを設ける
- 情報提供の範囲を設計する:投資家や経営関与株主には、何を・いつ・どの形式で共有するかを決め、紛争時の「隠していた」主張を減らす
- 役員人事と議決権の連動を整理する:役員選任・解任の条件、指名権、拒否権がある場合の範囲を明確にし、手続ミスでの争いを避ける
- 紛争解決条項(協議→調停等)を入れる:いきなり訴訟に飛ぶのではなく、第三者を介した協議の導線を作ると、感情的対立の沈静化に役立つ
まとめ
- 株主との対立は「手続」と「証拠」が重要で、初動の雑さが長期化を招きやすい
- 会社側はまず、定款・株主名簿・議事録など“前提”を固めてから動く
- 閲覧請求・総会・仮処分・代表訴訟など、株主の手段を想定して準備する
- ゴール(続ける/分かれる/止める)を決め、交渉と裁判手続を逆算する
- 平時からルール設計(買取・デッドロック・情報提供)でリスクを下げられる
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