経営権(支配権)紛争とは?原因・典型パターン・回避策を解説

共同創業者どうしの対立、親族経営の利害衝突、外部株主(投資家)からの要求、事業承継やM&A後の主導権争い――企業の内部では、ある日突然経営権(支配権)紛争が表面化することがあります。

経営権紛争は「会社の誰が最終決定をできるのか」という問題なので、放置すると意思決定の停滞取引先・金融機関の不安、従業員の動揺につながりやすいのが特徴です。会社側としては、感情論に引きずられる前に、会社法・定款・株主総会手続といったルールに沿って“会社を止めない”設計を急ぐ必要があります。

この記事で分かること

  • 経営権(支配権)紛争とは何か、何が争点になりやすいか
  • 共同創業・親族経営・外部出資などで起きる典型パターン
  • 会社側が最初にやるべき初動(資料・権限・情報の整理)
  • 相手方が取り得る手段と、裁判所での手続(仮処分等)の全体像
  • 紛争化を避ける予防策(株主構成・ルール設計・運用)

坂尾陽弁護士

経営権紛争は「正しい手続を踏んだ側」が強い局面が多いです。まずは定款・株主名簿・議事録を固め、次に何を決めるべきか(誰が決められるか)を逆算しましょう。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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経営権(支配権)紛争とは:何を巡って争うのか

経営権(支配権)紛争とは、会社の意思決定(経営の舵取り)を誰が主導するかについて、株主や役員の間で対立が生じ、株主総会・取締役会・代表権などのルールが争点化する状態をいいます。

「経営権」という言葉は法律用語として厳密に定義されているわけではありませんが、実務では次のようなテーマが典型的に問題になります。

  • 取締役・代表取締役の人事:誰を取締役にするか/代表権を誰が持つか
  • 株主総会決議の有効性:招集手続、議決権、議事録、決議方法に瑕疵がないか
  • 株式(議決権)の帰属・名義:誰が株主か、株主名簿が実態に合っているか
  • 株式の移転・希薄化:第三者割当、種類株式、自己株式取得などの使い方
  • 情報開示・監督:帳簿閲覧、会計資料、経営の透明性を巡る対立

なお、経営権紛争は、広い意味では会社内部紛争の一類型です。株主・役員間トラブルの全体像は、次の記事でも整理しています。

会社内部紛争(株主・経営権・役員)の会社側対応


典型パターン:なぜ経営権紛争が起きるのか

中小企業(非上場)で経営権紛争が起きる背景は、法制度よりもむしろ「株主構成・人間関係・合意の曖昧さ」にあることが多いです。よくある発端は次のとおりです。

  • 共同創業者が対立し、取締役の入れ替え・代表権の争いに発展する
  • 親族経営で相続・贈与が絡み、株式が分散して多数派が揺らぐ
  • 出資受入れ後に、投資家が経営関与を強め、方針転換を迫る
  • M&A後に旧経営陣と新経営陣の権限分担が崩れ、総会・取締役会が機能不全になる

会社側から見ると「反対派が突然、強硬になった」ように見えても、相手方には相手方の事情(不信感、資金回収、ガバナンス改善の要求など)があります。ここを読み違えると、交渉も手続設計もミスしがちです。

MEMO:上場企業では「委任状争奪戦(プロキシーファイト)」も問題になります

上場企業では、株主が他の株主から議決権の委任状を集め、株主総会で取締役選任・解任などを狙う「委任状争奪戦」が争点になることがあります。中小企業の経営権争いとは環境が異なりますが、結局は“議決権の設計と集め方”が核心になる点は共通です。


「経営権」を左右する基礎:株式・議決権・取締役の関係

経営権紛争を整理するうえで、最初に押さえるべきは「誰が何を決められるのか」です。会社の意思決定は、ざっくり言えば次の階層で動きます。

  • 株主総会:取締役の選任・解任、定款変更、重要な組織再編などを決める
  • 取締役会(設置会社の場合):業務執行の重要事項や代表取締役の選定などを決める
  • 代表取締役:対外的に会社を代表し、契約締結・銀行取引などを実行する

このため、経営権争いは「株主総会の多数派(議決権)」をどう確保するか、そして「取締役会・代表権」をどう安定させるか、という2つの軸で考えると整理しやすくなります。

現場では、株主名簿の整備不足で議決権の帰属が争われたり、総会招集・議事録作成の運用不備から決議の有効性を争われたり、代表権・印章管理が曖昧で取引先対応が混乱したりといった“つまずき”が頻発します。基礎が弱いまま手続を進めると、会社側が正しいゴール(会社の安定)を目指していても、手続面のミスで不利になり得ます。


会社側の初動:まず「止血」して、次に“手続設計”をする

経営権紛争で会社側が最初にやるべきことは、相手を論破することではなく、会社を止めないための止血次の意思決定の土台づくりです。

初動で意識したいポイントを、優先順位の高い順に整理します。

  • 当事者と議決権の確定:株主名簿、株券・株式関連書類、名義株の有無、議決権制限の有無を確認する
  • 定款・機関設計の確認:取締役会設置の有無、招集権者、決議要件、代表取締役の選定方法を把握する
  • 議事録・通知の整備:総会・取締役会の開催実績、議事録の記載、招集通知の方法を点検する
  • 対外対応の一本化:取引先・金融機関・従業員に対し、発信者・窓口を統一し混乱を抑える
  • 資金・重要資産の管理:銀行取引、印章、重要契約の権限フローを再確認し、内部統制を強化する
注意:手続を急ぐほど「瑕疵」が増えやすい

経営権争いの局面では、急いで株主総会や取締役会を開きたくなります。しかし、招集・議決権・議事録などに瑕疵があると、後で決議の取消し・無効主張の火種になり得ます。急ぐほど、手続チェックと証拠化を丁寧に行うことが重要です。

「相手方が会社の実務を押さえに来ている」「代表権の扱いが危ない」といった緊急度が高い局面は、論点が一段深くなります。具体的な緊急対応の考え方は、次の記事でチェックリスト形式で整理しています。

会社乗っ取り(経営権の奪取)の手口と防衛策:緊急対応チェックリスト


相手方(対立株主・元役員等)の狙いと、会社側が想定すべきリスク

経営権紛争では、相手方の狙いは必ずしも「会社を潰すこと」ではありません。たとえば、人事(取締役・代表者)の交代による方針転換、配当や株式買取を通じた資金回収、ガバナンス改善(不透明な取引の是正)などが混在します。会社側として重要なのは、相手の「言い分の正しさ」を別として、相手が取り得る手段を前提に被害を最小化することです。

たとえば、次のようなリスクは想定しておきたいところです。

  • 総会運営への介入:招集請求、議案提案、議決権の争い、決議の効力争い
  • 情報開示の要求:帳簿閲覧、資料請求、説明義務を巡る対立
  • 役員責任追及:代表訴訟(取締役の責任追及)などを含む圧力
  • 対外的な信用不安:取引先・金融機関への接触、社内外への情報拡散

代表訴訟のように、役員個人にも影響が及ぶテーマは、会社側として早めの備えが必要です。関連する整理は次の記事で解説しています。

株主代表訴訟とは?会社・取締役側の初動と防御ポイント


裁判所での手続も視野に:仮処分・訴訟の全体像

経営権紛争は、交渉だけで収束することもありますが、争点が「人事」「決議の有効性」「議決権」などに及ぶと、裁判所での手続が現実的な選択肢になります。

とくに、総会の開催が迫っている場合などは、時間との勝負になりがちです。

実務でよく問題になるのは、次のような局面です。

  • 株主総会決議の効力を争う(取消し・無効・不存在など)
  • 決議の効力を一時的に止める(総会後すぐの保全)
  • 取締役・代表者の地位や職務執行を巡り、暫定的な地位を確保する

どの手続が適切かは、会社の機関設計、争点(議決権か手続か実体か)、スケジュールによって変わります。裁判所手続を視野に入れる場合は、資料の揃え方(株主名簿、招集通知、議事録、メール等の交渉経過)から逆算して準備するのが安全です。

また、経営権紛争の帰結として、取締役の選任・解任が争点になることも多いです。取締役解任の手続とリスクは、次の記事で詳しく解説しています。

取締役の解任手続き:株主総会決議・損害賠償リスク・登記まで


回避・予防策:経営権紛争を「起きにくくする」設計

経営権紛争は、一度こじれるとコストも時間もかかります。そこで会社側としては、紛争が顕在化する前に「起きにくくする設計」を進めることが重要です。

予防策は、法律論というよりルールの明確化と運用にあります。代表例は次のとおりです。

  • 株主構成の見える化:誰がどれだけ持っているか、名義株がないかを定期点検する
  • 総会・取締役会運用の標準化:招集、議案、議事録、決議要件を“いつも同じ品質”で回す
  • 株式の移転ルール:譲渡制限や承認手続の運用を徹底し、想定外の移転を防ぐ
  • 出口設計:対立が生じた場合の株式買取・整理の道筋(合意形成の型)を用意する
  • 少数株主対応:権利行使が起きたときの実務フローを整え、火種を大きくしない

少数株主の権利行使が紛争の入口になることも多いので、会社側の実務対応は別記事で整理しておくと安全です。

少数株主対策:権利行使への対応とトラブル予防(会社側)


まとめ

  • 経営権(支配権)紛争は「誰が会社の意思決定をできるか」を巡る会社内部紛争
  • 共同創業・親族経営・外部出資・事業承継などで起きやすく、放置すると会社が止まりやすい
  • 会社側は株主名簿・定款・議事録を固め、手続ミスを避けながら次の一手を設計する
  • 相手方の狙いと手段(総会・情報開示・責任追及等)を前提に、リスクを最小化する
  • 予防は「株主構成の見える化」と「総会・取締役会運用の標準化」が要

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