システム開発の遅延やバグ、追加費用の請求、検収(受入テスト)の拒否、契約解除などは、当事者が「技術の話」だと思っているうちに紛争が硬直化しやすい領域です。IT紛争で弁護士を探すときは、一般の契約トラブルと同じ基準だけでは足りず、「契約類型」「証拠(ログ)」「プロジェクト運営」の観点で戦い方を組み立てられるかが重要になります。
この記事では、発注側(ユーザー企業)・受託側(ベンダ/開発会社)の双方を前提に、①相談の適切なタイミング、②IT紛争に強い弁護士の見分け方、③弁護士費用(料金体系)の考え方、④相談前に準備したい資料・証拠をチェックリストで整理します。
※個別事情で最適解は変わります。早期に事実関係と証拠を整理できるほど、交渉・訴訟(IT訴訟)の選択肢が広がります。
坂尾陽弁護士
- 相談は「解除通知」「検収拒否」「支払停止」の前後が分岐点
- IT分野は“技術”より「契約・プロセス・証拠」で勝敗が決まりやすい
- 受託側は「責任範囲の線引き」と「追加変更の合意形成」が最重要
- 発注側は「要件の特定」と「不適合の切り分け・立証」を先に設計する
- 費用は着手金・報酬金・タイムチャージ等の体系で比較する
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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IT紛争で弁護士選びが難しい理由(一般の契約紛争と違う点)
システム開発紛争は、一般の取引紛争と同じ「契約違反」の枠組みで整理できる一方、実務では次のような“IT特有のズレ”が争点化しやすいのが特徴です。
- 契約類型が複合しやすい:請負・準委任・保守運用・SaaS等が混在し、責任範囲や検収の位置づけが曖昧になりがち
- 要件定義・仕様変更が多い:最初の合意(仕様)と変更の承認経路が、後から最大の争点になる
- 検収(受入テスト)と支払が連動:検収の合否・条件付き合格・不具合対応の合意がないと、未払い・支払留保が長期化する
- 証拠がデジタルで散らばる:メール、チャット、チケット、議事録、リポジトリ等に分散し、後から集めるほどコストが上がる
- 損害の切り分けが難しい:遅延損害、代替費用、逸失利益など、因果関係・相当因果関係の整理に技術的要素が絡む
全体像(典型的な争点や初動)は、別ページで整理しています。まず全体を掴みたい場合は、システム開発・IT紛争の対応(全体像)も参照してください。
弁護士に相談するタイミング(受託側・発注側)
「訴訟になってから」よりも、強い通知を出す前/出された直後の方が、選択肢(継続・分割納品・減額合意・解除・和解)が残りやすいです。特にIT案件は、証拠が日々増減し、関係者の記憶も薄れるため、早期相談の効果が大きくなります。
受託側(ベンダ/開発会社)が相談すべき典型場面
- 発注側から「瑕疵(バグ)」「仕様未達」「再開発」を強く求められ、責任範囲の線引きが必要になった
- 追加開発・仕様変更が積み上がったのに、追加費用の合意が取れない/稟議が降りない
- 検収が引き延ばされ、支払が止まった(成果物は出しているのに「合格しない」の一点張り)
- 解除・損害賠償を示唆する通知(内容証明等)が届いた/送られそうだ
- プロジェクトが炎上し、体制変更やスコープ再定義(縮小・分割納品)を交渉したい
発注側(ユーザー企業)が相談すべき典型場面
- 納期遅延や品質不良で運用開始できず、業務影響が出ている
- 検収で不適合(バグ・仕様違反)が多数見つかったが、どこまで是正・減額・解除を主張できるか迷う
- 追加費用の請求が相次ぎ、当初見積から大きく膨らんだ(根拠が不明確)
- ベンダ側の体制不足・品質管理不足が疑われるが、証拠の残し方が分からない
- 他社への切替(リプレイス)や再委託を検討しており、契約解除・データ移行のリスクを整理したい
IT紛争に強い弁護士の見分け方(チェックポイント)
「ITに詳しい=プログラミングができる弁護士」を探す必要は必ずしもありません。重要なのは、IT案件で問題になりやすい論点を理解し、契約・証拠・交渉の設計に落とし込めるかです。
- 契約書・約款の読み替えに強い(請負/準委任、検収条項、仕様変更条項、損害賠償上限、免責、知的財産、再委託)
- 受託側の防御ロジックを持っている(責任範囲の線引き、追加変更の合意形成、検収合格の確保、支払条件の再設計)
- 発注側の立証設計もできる(要件の特定、不適合の切り分け、受入テスト・障害管理の残し方)
- デジタル証拠の扱いに慣れている(メール/チャット/チケット/議事録等を“争点ごと”に整理して主張につなげる)
- 交渉で着地点を作れる(継続・縮小・分割納品・減額・解除・再委託など複数案を比較し、現実的な合意を設計)
- 訴訟・仮処分・ADRの判断ができる(交渉が決裂した場合の見通しを持ち、準備項目を逆算できる)
- 説明が具体的で透明(見通し・リスク・費用体系・資料追加の理由を、分かる言葉で説明できる)
「契約不適合責任(バグ・仕様不適合)」「損害賠償」「訴訟の進め方」など各論は別記事で扱うため、弁護士候補がそれらの論点にどう向き合うかも、面談で確認するとよいでしょう。
相談時に確認したい質問(相性と進め方)
初回相談では、事実関係のヒアリングだけでなく、弁護士側の進め方・強みが自社の状況に合うかを見極めることが重要です。
- 現状の契約類型(請負/準委任等)だと、争点はどこに出やすいですか?
- 今の段階で「やってはいけないこと」は何ですか?
- 証拠は何を優先して集めるべきですか?(不足している場合の集め方は?)
- 交渉で狙える着地点(継続/減額/解除等)はどれですか?
- 交渉が決裂した場合、訴訟・仮処分等の見通しはどう立てますか?
- 社内(現場/経営/情シス)との役割分担はどう設計しますか?
- 費用体系はどれが適合しそうですか?見積はどう出ますか?
弁護士費用の考え方(料金体系の比較ポイント)
IT紛争は、資料量(契約書・議事録・ログ)と争点数で工数が大きく変わります。そのため、金額だけで一律比較するより、料金体系と、どこまでを業務範囲に含めるかで比較するのが実務的です。
よくある料金体系
- 相談料:初回相談(面談・オンライン)での料金。継続相談や資料レビューが含まれるかは事務所により異なります。
- 着手金+報酬金:交渉・訴訟など事件化した場合の典型。成果(回収・減額・請求棄却等)に応じて報酬が発生します。
- タイムチャージ(時間制):作業時間に応じて課金。資料が多い案件、論点が流動的な案件、スポット対応(通知書レビュー等)と相性が良いことがあります。
- 顧問契約:平時の予防(契約レビュー・運用設計)と、有事の初動を早く回す目的で選ばれます。
「別途見積り」になりやすいケースと、見積を安定させるコツ
- 紛争額が大きい/関係者が多い/複数プロジェクトが絡むなど、作業量の見通しが立ちにくい場合
- 専門家意見(技術検証)や大量ログの精査が必要で、分析工程が増える場合
- 仮処分・差止め等の緊急対応で、短期間に集中的な作業が必要な場合
このようなケースでは、一律の定額ではなく、柔軟に対応する弁護士が多いため個別に見積りを取る運用が現実的です。逆に、見積を安定させるには「争点(何を争うか)」と「必要資料(何をどこまで読むか)」を先に絞り込むことが効果的です。
相談前に準備したい資料・証拠(チェックリスト)
資料は「全部そろってから相談」ではなく、優先順位を付けて持ち込むだけでも十分です。まずは共通資料を中心に、時間が許す範囲で追加資料を用意してください。
共通(まずはここ)
- 契約書・約款・発注書/注文書・見積書・請求書(契約関係が分かる一式)
- 要件定義書・仕様書(最新版と、変更履歴が分かるもの)
- 議事録、メール、チャット等のやり取り(重要部分が分かる範囲で可)
- プロジェクト計画(WBS等)、体制図、納期・マイルストーンが分かる資料
- 検収(受入テスト)に関する資料(検収書、テスト結果、不具合一覧、対応状況)
- 現時点の争点メモ(何を求めたいか/何を避けたいかを箇条書きで可)
発注側(ユーザー企業)の追加
- 業務要件(業務フロー、目的、必要機能)と、現場で困っている具体的な支障
- 不適合(バグ・仕様違反)の再現手順やスクリーンショット等(可能なら再現条件も)
- 代替対応(他社切替、手作業運用、追加外注)を検討している場合は、その見積・スケジュール感
受託側(ベンダ/開発会社)の追加
- 提案書・見積根拠(工数表)・前提条件(顧客側作業、提供資料、承認プロセス等)
- 仕様変更・追加開発の指示と承認の記録(変更要求票、メール承認、議事録の合意等)
- 納品物一覧(成果物、ソースコード提供範囲、環境情報)と、引渡・検収に関する合意資料
- 発注側の協力義務に関する資料(資料未提出、承認遅延、要件未確定などを示す記録)
- 再委託(下請)がある場合は、契約関係と作業分担が分かる資料
※情報セキュリティ上の制約でデータを持ち出せない場合でも、資料の目録(タイトル一覧)だけ用意すると、弁護士側が不足資料を判断しやすくなります。
相談から解決までの一般的な流れ
弁護士に依頼した場合の流れは案件により異なりますが、典型的には次の順で進みます。
- 事実関係・契約関係の整理(いつ、何を、どこまで合意したか)
- 証拠の確保と争点の設定(検収、仕様変更、責任範囲、損害の切り分け)
- 通知書の作成・交渉(継続/縮小/分割納品/減額/解除など着地点の提示)
- 必要に応じてADR(調停等)や訴訟へ移行(準備項目は早期に逆算)
- 和解または判決等で終結(再発防止の契約・運用見直しまで含める)
初動対応(証拠保全・交渉の組み立て)を詳しく知りたい場合は、システム開発トラブルの初動対応も参照してください。
よくある失敗と回避策
IT紛争では、次の失敗が“後から取り返しがつかない”ことがあります。早めに潰しておくと、交渉でも訴訟でも有利に進めやすくなります。
- 仕様変更を口頭で回し続ける:変更要求・影響(納期/費用/品質)・承認を、最低限メール等で残す
- 検収基準が曖昧:テスト項目・合否基準・未解決不具合の扱い(条件付き合格等)を合意する
- 支払停止/作業停止を先に決めてしまう:法的リスク(債務不履行、解除の可否)を確認してから段階的に対応する
- ログやチケットを整理せず放置:争点ごとに“証拠束”を作るだけで、主張の説得力が大きく変わる
- 相手の責任だけを追及し続ける:落としどころ(継続・縮小・減額・解除)を複数用意し、交渉を詰まらせない
まとめ
- IT紛争は契約・プロセス(変更管理/検収)・証拠が結論を左右しやすい
- 強い通知を出す前後が相談のベストタイミングになりやすい
- 弁護士は「IT案件の争点理解」と「証拠整理の設計力」で選ぶ
- 費用は料金体系(着手金/報酬/時間制)と業務範囲で比較する
- 準備資料は共通+発注側/受託側の追加で優先順位を付けて用意する
IT紛争は、早い段階で「何を合意していたか」「何が起きたか」「それを裏付ける証拠は何か」を整理できるほど、無用な対立を避けながら実利のある解決に近づきます。社内だけで抱え込まず、契約書とログを中心に一度棚卸しするところから始めてください。
坂尾陽弁護士
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