取締役の解任手続き:株主総会決議・損害賠償リスク・登記まで

社内の不祥事、経営方針の対立、業績悪化の責任問題などをきっかけに、「取締役の解任」を検討せざるを得ない場面があります。

もっとも、取締役は従業員ではないため、労働法の解雇ルールとは別の枠組みで判断されます。

手続を誤ると、株主総会決議が無効・取消しになるだけでなく、解任された取締役から損害賠償を請求されるリスクもあります。

本記事では、取締役会設置会社を基本に、取締役の解任手続(株主総会決議)と、正当な理由・賠償リスクの考え方、そして役員変更登記までの流れを整理します。

会社側の実務対応を中心にしつつ、解任される側が確認すべきポイントも簡潔に触れます。社内紛争の全体像は会社内部紛争(株主・経営権・役員)の会社側対応もあわせて参照してください。

坂尾陽弁護士

「誰を辞めさせるか」だけでなく、「代表権を先に外すべきか」「賠償リスクをどう抑えるか」を同時に考えると、解決が早くなりやすいです。

この記事で分かること

  • 取締役の解任(株主総会決議)の基本ルールと、取締役会設置会社での進め方
  • 「正当な理由」と損害賠償リスク(残任期間・報酬相当額など)の判断ポイント
  • 非設置会社(取締役会なし)のときに起きやすい実務上のつまずき
  • 解任後に必要な登記・書類の目安と、紛争化したときの裁判手続の選択肢

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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取締役の解任とは(辞任・任期満了・解職との違い)

取締役が会社から離れる形には、主に「任期満了」「辞任」「解任」があります。任期満了や辞任は、基本的に取締役側の意思や任期の到来によるものです。これに対し、解任は、会社側(最終的には株主総会)が取締役の地位を終わらせる手続です。

また、代表取締役については「取締役としての地位」と「代表権(代表取締役としての地位)」が別物です。取締役会設置会社では、まず代表権だけを外す(代表取締役の解職)ことで、会社の対外的リスクを止められる場合があります。

  • 解任(取締役の地位を失う):原則として株主総会決議で行う。正当な理由がないと賠償請求を受け得る。
  • 解職(代表権を失い平取締役になる):取締役会設置会社では取締役会決議で行うのが典型。
  • 辞任:取締役が自ら辞める意思表示。会社側は賠償リスクを抑えやすい。
  • 任期満了・不再任:任期の終わりで退任。状況によっては紛争化(実質的な中途排除)することがある。

まず確認したい:解任が必要か、代表取締役の解職で足りるか

会社が困っている原因が「代表取締役の暴走」や「勝手な対外行為」である場合、最優先は代表権を止めることです。取締役会設置会社なら、取締役会決議で代表取締役を解職し、銀行・取引先への周知や社内権限の切替を進めます(ただし、事情により対応は変わります)。

一方で、代表権だけ外しても、取締役として社内資料にアクセスできる、株主として議決権を持つ、総会運営を妨害するなど、問題が残ることもあります。その場合は、取締役の地位自体を失わせる解任を検討します。

MEMO:代表取締役の地位が「定款」で固定されているケースに注意

定款で特定の者を代表取締役に定めている場合など、代表取締役の地位と取締役の地位が実質的に一体化しており、代表権だけを外すのが難しい設計があります。この場合は、定款変更(特別決議)を要するなど手続が重くなることがあります。まずは定款と登記事項を確認しましょう。


会社側の初動:事実整理と「賠償リスク」の棚卸し

解任は「決議すれば終わり」ではありません。後から争われたときに備えて、事実と根拠を先に固め、賠償リスクも見積もります。特に共同創業・親族経営など、経営に関与してきた株主兼取締役が相手だと、感情が先行して泥沼化しやすいので注意が必要です。

  • トラブルの類型を整理:不祥事(横領・背任等)、忠実義務違反、競業・利益相反、業績悪化、社内統制の崩壊など、何が問題かを言語化する。
  • 証拠・資料を確保:メール・チャット、取締役会議事録、稟議、会計資料、ログなど。後で「言った/言わない」になりやすい。
  • 任期・報酬・委任契約の確認:残任期間、役員報酬の決め方、退任時の取扱い(退職慰労金、精算条項)を確認する。
  • 株主構成と議決権の現実:解任決議が通る票数か、委任状の取りまとめが必要か、反対派の動き(委任状争奪戦等)を想定する。
  • 「正当な理由」の有無を見立てる:後述のとおり、正当な理由が弱いと賠償金が争点化しやすい。

株主総会で解任する手続(取締役会設置会社を基本に)

取締役の解任は、原則として株主総会決議で行います。定時株主総会でも臨時株主総会でも構いませんが、緊急性が高いほど臨時で対応することになります。

手続の全体像(典型的な流れ)

実務では、次の順に準備するのが一般的です。会社の機関設計や定款、株主構成によって必要書類・手順が変わるため、早めに専門家と段取りを確認するのが安全です。

  1. 議題・議案の設計:解任対象者、解任のタイミング、後任(選任の要否)を整理する。
  2. 株主総会の招集手続:取締役会設置会社では取締役会で招集決議→招集通知という流れが典型。
  3. 株主総会の開催・解任決議:原則は普通決議(いわゆる「特殊普通決議」)で可決を目指す。
  4. 議事録等の作成:登記や紛争対応の基礎資料になるため、形式不備を避ける。
  5. 後任選任・代表者変更(必要な場合):同日に決めると空白期間を作りにくい。
  6. 登記申請:役員変更・代表者変更の登記を期限内に行う。

決議要件のポイント(普通決議だが、定足数に特則がある)

取締役の選任・解任は普通決議で足りますが、役員の選任・解任については、通常の普通決議と異なり、定款で定足数をゼロにはできず、一定の出席要件が残る(下げても3分の1まで)という特則があります。実務では「特殊普通決議」「特則普通決議」と呼ばれることがあります。

注意:累積投票で選任された取締役は、解任が重くなることがあります

定款で累積投票を採用し、その方法で選任された取締役を解任する場合、特別決議が必要になるなど、通常より要件が重くなることがあります。定款・過去の選任経緯を必ず確認してください。

取締役会「非設置会社」の場合に起きやすい問題点

取締役会がない会社でも、取締役の解任自体は株主総会で行えます。ただ、機関が簡素な分、次のような実務上のつまずきが起きがちです。

  • 招集権限・実務担当が曖昧:誰が招集通知を出し、議事録を整えるかが決まっていないと、形式ミスが出やすい。
  • 対外代表の切替が遅れやすい:代表権の所在(各取締役が代表する設計等)によっては、実務上の遮断が難しいことがある。
  • 議決権の実力差がそのまま紛争化:共同創業・親族間で「票はあるが運営が回らない」状態になりやすい。

損害賠償リスク:解任の「正当な理由」と金額感の考え方

取締役は株主総会でいつでも解任できますが、正当な理由なく解任すると、解任された取締役から損害賠償を請求され得ます。ここが、手続だけ整えても「紛争が終わらない」最大の理由です。

「正当な理由」になりやすい事情の例

正当な理由は、単なる相性不一致や経営方針の違いだけでは足りず、会社にとって看過できない事情が求められるのが一般的です。典型例としては次のようなものが挙げられます(個別事情で結論は変わります)。

  • 重大な法令違反・不祥事:横領、背任、粉飾、反社対応など、会社の信用を毀損する行為
  • 忠実義務・善管注意義務違反:重大な経営判断の誤り、統制無視、重大な手続違反
  • 競業・利益相反:会社の利益と相反する取引、競合事業への関与など
  • 職務遂行不能:心身の故障などで取締役としての職務を果たせない

賠償の範囲(残任期間の報酬相当が争点になりやすい)

損害賠償の考え方は、ざっくり言うと「解任がなければ得られたはずの利益(役員報酬等)」をベースに、具体的に算定されます。残任期間が長いほど金額が大きくなりやすく、紛争の火種になります。

会社側としては、(1)正当な理由の根拠を固める、(2)辞任や合意退任(清算条項付き)に寄せる、(3)報酬体系や任期設計を見直しておく、といった複線でリスクを下げることが重要です。

  • 「解任=違法」ではありません。問題は、解任が適法でも、正当な理由が弱いと賠償が争点化しやすい点です。
  • 会社側が感情で動くほど不利になりがちです。手続と証拠、交渉の落としどころを同時に準備します。

登記(役員変更)まで:期限と必要書類の目安

解任が成立したら、役員変更の登記が必要です。役員変更登記は、原則として変更が生じた日から2週間以内に申請します。登記の遅れは過料リスクにもつながるため、決議日から逆算して準備します。後任選任や代表者変更がある場合は、登記項目が増えます。

期間の数え方は原則として「解任決議日の翌日」から起算します。実務では、総会当日に必要書類の下準備まで済ませておくと安全です。

よくある必要書類(目安)

具体的な必要書類は会社の設計・同時に行う決議内容で変わりますが、典型的には次のような資料を用意します。

  • 株主総会議事録:解任決議、(必要なら)後任選任、代表者選定等を記載
  • 株主リスト:会社所定の形式で作成する
  • 就任承諾書(新任がある場合):新任取締役・代表取締役等
  • 印鑑届書(代表者変更がある場合):法務局提出用
  • 本人確認資料:住所等が登記事項と整合しているか確認する

解任される取締役側が確認すべきポイント(最低限)

取締役としては、解任が成立した場合でも、直ちに「すべて終わり」ではありません。会社側の手続や正当な理由の有無によっては、損害賠償請求の余地が生じます。ただし、感情的に対立を深めると、名誉毀損・営業妨害・競業など別のリスクを招くこともあります。

  • 総会手続の適法性:招集通知・議案・決議要件・議事録に重大な瑕疵がないか。
  • 正当な理由の有無:会社が挙げる理由が客観的に成立するか、反証資料があるか。
  • 損害の算定:残任期間・報酬の根拠、他の収入との関係などを整理する。
  • 資料の持ち出しは慎重に:会社資料の無断持出しは別紛争化しやすい。適法な範囲で証拠化する。

裁判手続(仮処分・訴訟)を視野に入れる場面

社内対立が強いケースでは、株主総会の開催自体が妨害されたり、決議の有効性が争われたりします。典型的には、株主総会決議の取消し・無効確認、職務執行停止の仮処分などが問題になります。また、株主側が一定の要件を満たすと、裁判所に役員解任の訴えを提起して、取締役の地位を失わせようとすることもあります。支配権の争いが強い場合は経営権(支配権)紛争の整理も重要です。

裁判手続は時間とコストがかかりやすいため、まずは「決議を通すための準備」と「賠償リスクの落としどころ(辞任・合意退任・和解)」を並行して設計し、必要なときだけ裁判に踏み込むのが現実的です。


まとめ

  • 取締役の解任は原則として株主総会決議で行い、代表取締役の解職とは区別して考える
  • 手続だけでなく「正当な理由」の見立てが重要で、弱いと損害賠償が争点になりやすい
  • 取締役会非設置会社は、招集・議事録などの形式ミスが出やすく、実務担当の明確化が重要
  • 解任後は役員変更登記が必要で、同日決議(後任・代表者変更)まで含めて逆算で準備する

坂尾陽弁護士

社内紛争は「手続の穴」と「感情の対立」が同時に起きやすい領域です。解任を決めたら、証拠・議決権・賠償リスクをセットで整理してから動くのが安全です。

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