株主代表訴訟(代表訴訟)は、株主が会社に代わって取締役等の責任を追及する制度です。提訴請求(会社に「訴えを起こしてほしい」と求める手続)や、対応期限が絡むため、会社側の初動が遅れると不利になりやすいのが特徴です。
この記事では、(A)提訴請求が届いた段階、(B)訴訟提起後、まだ(C)予兆の段階で、会社・取締役側が何を優先して動くべきかを、実務の流れに沿って整理します。
※一般的な解説です。個別事案では事情が大きく異なるため、重要局面では弁護士に個別相談してください。
- 提訴請求〜代表訴訟までの基本手続と、会社が守るべき期限
- 会社側の初動チェックリスト(証拠保全・社内調査・窓口統一)
- 取締役側の防御の考え方(利害対立・弁明資料・交渉)
- 和解・終結で見落としやすい注意点
- 「起こされる前」に効く予防策
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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株主代表訴訟とは:会社・取締役側に何が起きるか
株主代表訴訟は、株主が「会社のために」取締役等の責任(損害賠償等)を追及する訴訟です。株主が勝っても、原則として金銭が直接株主に入るのではなく、会社に帰属します。一方で、会社側は『経営判断の当否』『社内調査の結果』『取締役の説明』などをめぐって、対応コストとレピュテーションリスクを負うことになります。
代表訴訟は、いわゆる企業間紛争の中でも「会社内部紛争」に位置づけられます。全体像は 企業紛争・会社訴訟(企業間トラブル)の解決手段と弁護士相談のポイント、株主・経営権に関する紛争の整理は 会社内部紛争(株主・経営権・役員)の会社側対応 もあわせて確認すると、論点の見落としが減ります。
ポイントは、当事者が「会社」と「取締役(個人)」に分かれることです。会社としての最適解と、取締役個人の防御が必ずしも一致しない場面があります。初動では、この利害関係の整理がとても重要です。
株主代表訴訟の基本の流れ:提訴請求・60日・訴訟提起
代表訴訟は、いきなり訴状が届くとは限らず、通常は「提訴請求」から始まります。会社側は、次の“型”を押さえておくと、期限管理がしやすくなります。
- ステップ1:提訴請求(株主が会社に対し、役員の責任追及訴訟を起こすよう求める)
- ステップ2:会社側の調査・判断(事実確認、責任の有無、提訴するか否か)
- ステップ3:原則60日(会社が提訴しない場合、株主が代表訴訟を提起できる)
- 例外:緊急性が高い場合は、提訴請求を経ずに提起されることもある
- 訴訟提起後:会社は当事者ではないことが多いが、訴訟対応・和解局面で関与が生じる
また、株主側にも要件があります。たとえば公開会社では、原則として「6か月前から継続保有している株主」に提訴請求・提起が認められ、非公開会社では保有期間要件が緩和されます(定款で短縮されている場合もあります)。加えて、訴訟の途中で原告株主が株式を手放すと、手続が大きく動くことがあります。会社側は、相手方の適格・要件も“早期に確認すべき論点”です。
提訴請求は、会社が「提訴する/しない」を判断するための重要イベントです。ここでの対応が、その後の訴訟戦略(立証・和解・社内統治)に直結します。
A:提訴請求が届いたときの会社側・初動チェックリスト
提訴請求が届いた段階で、会社が最初にやるべきことは「証拠保全」と「期限設計」です。ここを外すと、後から挽回が難しくなります。
初動は、次の順で組み立てると安全です。
- 1. 期限を確定:提訴請求の受領日を確定し、60日等の管理表を作る(社内共有)
- 2. 連絡窓口を一本化:株主への返信担当を固定し、担当者の“独断回答”を止める
- 3. 証拠保全:取締役会・株主総会の議事録、稟議、契約書、メール/チャット、会計資料、監査資料等を保全
- 4. 争点の棚卸し:何が「違法/任務懈怠」と主張されているか、損害の算定根拠は何かを整理
- 5. 社内調査の設計:関係者ヒアリング、資料レビュー、事実経過のタイムライン化
- 6. 提訴方針の決定:提訴する/しない(不提訴の場合は理由の整理と文書化)
提訴請求が「少数株主による権利行使(招集請求、帳簿閲覧、議案提案など)」とセットで来ることもあります。周辺の論点整理は 少数株主対策:権利行使への対応とトラブル予防(会社側) も参考になります。
提訴するか否かの判断では、勝敗見込みだけでなく、会社としての目的(ガバナンス回復/損失の回復/早期終結/風評抑制)を明確にします。特に「会社が取締役を訴える」判断をする場合、対象取締役が現職か退任済みか、他の取締役との関係、社外取締役の関与などで手続設計が変わります。
取締役側の初動:会社と利害がずれる場面に備える
代表訴訟は「取締役個人」が被告になることが多い一方、会社は“会社としての立場”で動きます。次の点は、取締役側の初動で特に重要です。
- 会社の方針を確認:会社が提訴するのか、会社は中立なのか、どこまで協力するのか
- 利益相反の整理:会社・取締役・他役員の利害が衝突する場合、同一弁護士での同時代理が難しいことがある
- 弁明資料の準備:当時の情報収集状況、検討過程、リスク評価、反対意見の扱い(議事録・メモ・メール)
- 不用意な発信を避ける:社内外の説明が後に“認定材料”になることがある
なお、費用負担(会社補償、保険等)や監査役対応なども論点になり得ますが、まずは「責任の有無」と「事実経過の説明可能性」を固めることが優先です。
B:訴状が届いた後の対応(訴訟戦略・会社の関与・和解)
訴状が届いた後は、初動で作った“事実の土台”を前提に、争点を絞って防御を組み立てます。代表訴訟は、会社が形式的に当事者でない場合でも、訴訟の帰結が会社に及ぶため、会社側の対応が不可欠です。
実務で多い争点は、次のとおりです。
- 任務懈怠の有無:法令・定款違反、善管注意義務/忠実義務違反があったか
- 経営判断の合理性:判断過程(情報収集・検討・利益相反排除)が相当だったか
- 損害・因果関係:会社の損害額、当該行為との因果関係、損害拡大防止義務
- 相手方(株主)の要件:提訴適格・継続保有、提訴請求の履践、緊急提起の適法性
会社としては、訴訟対応の体制(社内窓口、関係部署、弁護士との連携)を固定し、提出資料の整合性を保ちます。取締役側と会社側で主張が食い違うと、双方に不利に働くことがあります。
和解で終結を図る場合もありますが、代表訴訟の和解は通常訴訟と違い、会社に通知・関与が生じる類型があります。和解条件(支払者、金額、再発防止、役員の処遇など)を、会社の意思決定手続に沿って整理することが重要です。
C:起こされる前の予防策(「手続の整備」で防げる火種が多い)
代表訴訟の引き金は、必ずしも“巨額の不祥事”だけではありません。中小企業では、親族間・少数株主との対立が先鋭化し、取締役の責任追及に発展することがあります。入口整理は 株主紛争とは?原因・典型パターン・解決手段を解説(会社側) も参考になります。
予防策は、難しい制度を増やすよりも「利益相反を潰す」「意思決定の記録を残す」「株主対応の手順を決める」という基本動作が効きます。
- 利益相反取引の統制:関連当事者取引は、事前承認・条件の相当性・議事録を徹底
- 重要判断の記録:取締役会資料、リスク評価、代替案検討、反対意見の扱いを残す
- 社内通報・コンプラ:小さな違法リスクを早期に吸い上げ、放置しない
- 株主対応ルール:招集請求・議案提案・閲覧請求等の窓口と期限を明文化
株主対立が深刻な場合、事業と支配権を整理することで紛争を終息できることもあります。たとえば 会社分割で飲食事業と不動産事業を分け株主対立を解消した解決事例 や、種類株式と自己株取得で支配権を整理し2/3超の議決権を確保した解決事例 のように、スキームで着地点を作る発想もあります(会社の状況により適否は大きく異なります)。
また、経営権(支配権)争いが背景にあると、代表訴訟と並行して仮処分・総会対応が問題になることがあります。関連テーマは 経営権(支配権)紛争とは?原因・典型パターン・回避策を解説、会社乗っ取り(経営権の奪取)の手口と防衛策:緊急対応チェックリスト も参照してください。
会社側の防御ポイント:結論ではなく「判断過程」を説明できるか
代表訴訟は、結果が悪かったこと自体ではなく、「その時点での判断が合理的だったか」「取締役として必要な注意を尽くしたか」が中心になります。したがって、防御では次の2つをセットで準備します。
- 当時入手していた情報:どの資料・報告を基に、何を前提に判断したか
- 判断のプロセス:代替案、リスク、反対意見、利益相反排除、専門家利用の有無
加えて、損害額の算定や因果関係は争点化しやすいポイントです。「仮に義務違反があったとしても損害が発生していない/拡大していない」といった反論が成り立つ局面もあるため、会計・取引実態の整理が欠かせません。
弁護士に相談する前に、社内で揃えておきたい資料
初回相談を有効にするため、最低限、次の資料・情報を揃えると方針決定が早くなります。
- 提訴請求書(届いた原本)/関連する株主からの通知一式
- 対象となっている取締役会・株主総会の議事録、取締役会資料、稟議書
- 問題となっている取引の契約書・見積・請求・入出金記録
- 社内調査で作ったタイムライン、関係者一覧、主要メール/チャット
- 定款、株主名簿の状況(公開会社か非公開会社か、単元株の有無等)
費用感の目安を先に把握したい場合は 弁護士費用 も参考になります(案件の難易度・緊急性で大きく変動します)。
まとめ:株主代表訴訟は「初動の型」でリスクを下げられる
- 代表訴訟は、提訴請求と期限管理(原則60日)が重要な“手続型”の紛争
- 会社側は、証拠保全→窓口一本化→社内調査→提訴方針決定、の順で初動を組む
- 取締役側は、会社との利害対立を見据えつつ、判断過程を説明できる資料を固める
- 和解局面は会社の関与・意思決定が必要になりやすく、拙速な合意は禁物
- 予防の核心は、利益相反の統制と「判断プロセスの記録」
提訴請求や訴状が届いたときは、社内で抱え込まず、早期に論点整理と期限設計を行うことが安全です。
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