取引先からの納品物に不具合がある、納期が遅れた、仕様変更でもめた、代金が支払われない――企業間取引では、こうした「契約違反」がすぐにお金の問題に直結します。その場しのぎで値引きや違約金の話を進めると、後で「そもそも請求できない」「こちらの対応が不利になる」という事態も起こりがちです。
本記事では、債務不履行による損害賠償をめぐる基本構造と、企業実務で争点になりやすいポイント(瑕疵・不具合、違約金、代金不払い、納期遅延、検収、中途解約など)を、請求する側/請求された側の双方の視点で整理します。契約トラブル全体の見取り図は、契約トラブル(債務不履行・解除・損害賠償)の企業向け対応もあわせて参照してください。
坂尾陽弁護士
この記事で分かること
- 損害賠償請求が成り立つ要件(3類型・帰責事由・相当因果関係)の全体像
- 立証で重い資料(契約書類、メール、検収、ログ等)と集め方のコツ
- 瑕疵・不具合、違約金、代金不払い、納期遅延が絡むときの典型的な分岐
- 請求する側/請求された側の初動と、交渉から訴訟までの進め方
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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債務不履行による損害賠償とは
債務不履行とは、契約などで負っている義務(債務)を、期限どおり・約束どおりに果たさないことです。企業間取引では、「約束した成果物が届かない/遅れる/品質が足りない」「代金が支払われない」といった形で表面化します。
損害賠償は、相手方の債務不履行によって自社に生じた損害について、一定の要件のもとで金銭で填補してもらう制度です。もっとも、実務では「契約条項(免責・上限・違約金・検収)」「取引類型(売買・請負・準委任など)」「不具合や遅延の原因(どちらの責任か)」によって結論が大きく変わります。
損害賠償が認められる主な要件
企業間の損害賠償では、ざっくり言えば次の点が争点になります。相手の主張に反論する場合も、ここを逆算して材料を集めるのが近道です。
- 契約上の義務が何か:成果物の内容、納期、検収方法、支払条件、仕様変更の扱い、責任範囲など
- 債務不履行があるか:履行遅滞(遅れ)、履行不能(できない)、不完全履行(品質不足)のどれか
- 帰責事由(相手の責任である事情)があるか:不可抗力や自社側の協力義務違反があると争点化しやすい
- 損害が発生しているか・金額はいくらか:代替調達費、追加人件費、遅延による逸失利益などの根拠
- 相当因果関係・特別損害の範囲:契約時に予見できた損害か、損害拡大を防ぐ努力(軽減義務)をしたか
ポイントは、「契約(約束)→事実(何が起きた)→損害(いくら・なぜ)→因果関係」の順に並べ替えることです。ここが整理できると、違約金条項や免責条項がある場合も、どこで結論が変わるかが見えます。
3つの類型別:履行遅滞・履行不能・不完全履行の実務ポイント
履行遅滞(納期に遅れた)
納期がある義務で、期限を過ぎても履行されない場合に問題になります。典型的な損害は、代替手配費用、追加の外注費、スケジュール遅延に伴う機会損失などです。もっとも、遅延の原因が発注側の仕様未確定・検収の引き延ばし・協力義務違反にあると、責任の帰属が争われます。
遅延の立証では「いつまでに何をする約束か」「どこで遅れ始めたか」「遅れの原因は何か」を、議事録・メール・チャット・進捗資料で時系列化するのが基本です。
履行不能(約束した履行ができない)
物理的・法律的に履行が不可能になったケースです。例えば、特定の原材料が入手不能になった、法規制で提供できなくなった、対象物が滅失した等が考えられます。ただし、単に「採算が合わない」「人が足りない」といった事情は、一般に履行不能としては通りにくく、帰責事由があるとして責任追及されやすい点に注意が必要です。
不完全履行(品質が足りない/瑕疵・不具合がある)
成果物が納品されたものの、仕様・品質・性能が契約どおりでない場合です。企業間取引では最も揉めやすく、「不具合は本当に瑕疵か」「どの仕様が合意されていたか」「検収で確定しているか」が争点になりがちです。
売買や請負などでは、損害賠償だけでなく、修補・代替物引渡し、代金減額、解除(契約を終わらせる)など別の選択肢も絡みます。システム開発が絡む場合は、システム開発の契約不適合責任(不具合・仕様不適合)や、システム開発の損害賠償(遅延・瑕疵・追加費用)もあわせて整理すると見通しが立ちやすいです。
取引類型ごとに争点が変わる:売買・請負・準委任など
「契約違反」と一口に言っても、取引類型で見え方が変わります。類型が混ざっている契約(例:開発+保守、制作+運用)の場合、どの部分がどの類型に近いかが争点になることがあります。
- 売買:契約不適合(品質・種類・数量の不一致)をどう評価するか。通知・検査・返品条件が重要
- 請負:仕事の完成、検収・引渡し、瑕疵の扱いが中心。検収条項が強い証拠になる
- 準委任(業務委託):結果保証ではなく善管注意義務が中心。成果未達=直ちに債務不履行とは限らない
- 継続的契約(SaaS・保守・取引基本契約):解除・解約条項、途中解約時の精算、データ返還などが焦点
まずは「相手が約束していたのは結果なのか、プロセス(注意義務)なのか」を切り分けると、請求の立て付け(損害賠償/修補/代金減額など)を誤りにくくなります。
よくある論点を優先度順に整理:瑕疵・不具合→違約金→代金不払い…
瑕疵・不具合が原因の紛争(品質不良・バグ・仕様不適合)
代金不払い・減額・追加費用請求の背景に、瑕疵・不具合が潜んでいることは非常に多いです。ここを飛ばして「支払え」「違約金だ」と進めると、相手は瑕疵を盾に反論し、争点が複雑化します。
請求する側/請求された側のいずれでも、次の点を先に押さえます。
- 合意された仕様・品質基準:提案書、要件定義、仕様書、議事録、見積条件、改定履歴
- 不具合の再現性と影響範囲:テスト結果、スクリーンショット、ログ、再現手順、暫定対応の履歴
- 検収・受領の扱い:検収済みか、検収留保か、検収期限やみなし検収条項の有無
- 是正機会(修補・再履行)の付与:相手に直す機会を与えたか、期限と範囲を明確化したか
不具合が絡む案件では「何が直れば合格か」が曖昧なほど長期化します。是正依頼の文面は、要求水準(合格条件)と期限をできるだけ具体化するのがコツです。
違約金・損害賠償額の予定(条項がある場合)
契約に違約金条項があるときは、まずそれが「損害賠償額の予定」なのか、別の趣旨(解除条件、遅延損害金の定め等)なのかを確認します。条項設計によっては、違約金が上限になったり、逆に追加の損害賠償が可能だったりします。
典型的には、次の点がチェックポイントです。
- 違約金が「予定」なのか(追加請求の可否が変わる)
- 遅延損害金(利息)と混同していないか
- 免責・賠償上限条項(上限○円、間接損害除外等)との関係
- 解除条項(一定期間の遅延で解除可)とセットになっていないか
代金不払い(資金難なのか、瑕疵・遅延の争いなのか)
代金不払いは一見シンプルですが、理由が違うと対応が真逆になります。
①瑕疵・遅延を理由に「払わない」と言われている場合は、実質的に品質・履行の紛争です。
前段の瑕疵・遅延の整理が先で、同時履行の抗弁(相手も約束どおり履行していないからこちらも払わない)や相殺が争点になります。
②資金難で「払えない」場合は、信用リスクの問題です。
交渉だけで時間を使うと回収可能性が落ちるため、支払計画、担保、保証、分割、場合によっては訴訟提起や仮差押えを検討します。
「払わない理由」が瑕疵・遅延なのに、回収手続だけ先行すると、相手の反発を招き、紛争全体が長期化しがちです。逆に、資金難なのに“様子見”を続けると、他社に先に差し押さえられるリスクが高まります。
納期遅延(履行遅滞)と、解除・損害賠償の分岐
納期遅延では、「いつが期限か」「期限が本質的か(その日を過ぎたら意味がないか)」「遅延の原因はどちらか」を押さえます。
契約解除まで視野に入れる場合、一般に催告(相当期間を定めた履行請求)が必要か、例外的に不要かが分岐になります。
遅延損害の立証は、遅延によって追加発生した費用や逸失利益を、見積・発注書・工数記録・代替手配資料などで積み上げるのが基本です。
検収(受領・検査)の有無が、支払期限と責任を左右する
検収条項がある契約では、検収が支払条件になっていたり、瑕疵の主張期間(通知期限)と結びついていたりします。
検収をめぐっては、典型的に①検収基準が曖昧で合否が決められない、②みなし検収条項があるのに実務で放置される、③検収拒否が正当か(引き延ばしではないか)、④検収後に発覚した不具合(潜在的な瑕疵)をどこまで主張できるかといった点が争点になります。
中途解約(途中で契約を終わらせたい/終わらされた)
中途解約は、債務不履行による「解除」とは別に、契約条項で解約権が定められているケースがあります。解約が可能でも、違約金や精算方法(未払分、出来高、返金、データ返還等)がセットになっていることが多く、条項を読み違えると損害が拡大します。
請求する側の実務対応:交渉から訴訟・保全まで
企業間の損害賠償は、いきなり裁判よりも、まずは「争点整理→交渉→必要なら手続」という順で進むのが一般的です。もっとも、相手の資金状況によっては早期に保全を検討する必要があります。
- 事実と証拠の整理:契約書類、発注経緯、履行記録、検収、損害資料を時系列で並べる
- 請求の立て付けを決める:損害賠償/修補・再履行/代金減額/解除など(混ぜすぎない)
- 通知・催告・解除を検討:解除を視野に入れるなら、契約解除の通知と手続き(要件・リスク・文例)も確認
- 書面での請求(内容証明など):交渉の土台を作る。通知手段の選び方は、企業間トラブルの内容証明(送る場面・書き方)も参考に
- 交渉・ADR・訴訟:争点が固まり、証拠が揃った段階で手続に移行
- 回収リスクが高いなら保全:仮差押え等で資産を確保できるか検討(要件・コスト・相手への影響も踏まえる)
請求された側の防御ポイント:典型的な反論と落とし穴
損害賠償を請求された側は、「金額が高い/根拠が薄い」だけでなく、そもそも債務不履行が成立するか、損害の範囲がどこまでかを分解して反論します。
- 合意内容の否定:その仕様・納期・成果は合意されていない(変更管理が争点)
- 不具合の原因:相手方の使用環境、前提条件の欠落、協力義務違反によるものではないか
- 帰責事由の否定:不可抗力、第三者要因、相手の指示遅れ等で責任がない
- 損害・因果関係の否定:その損害は遅延(不具合)と結びつかない、過大、軽減努力がない
- 特別損害の否定:契約時に予見できない(共有されていない事業計画等)
- 契約条項による制限:賠償上限、間接損害除外、違約金条項の優先など
- 相殺・同時履行の抗弁:こちらの支払義務と相手の履行が同時関係にある、反対債権がある
坂尾陽弁護士
裁判所で争点になりやすいポイント(訴訟を見据えた準備)
裁判手続まで進むと、主張の強さよりも「証拠の強さ」で勝敗が決まりやすくなります。企業間の損害賠償で重い資料は、概ね次のとおりです。
- 契約文書一式:契約書、約款、見積条件、発注書、仕様書、変更合意書(改定履歴含む)
- やり取りの記録:メール、チャット、議事録、稟議、提案資料(誰が何を了承したか)
- 履行・検収の記録:納品物、検収書、受領書、進捗資料、チケット、ログ
- 損害の根拠:代替調達の見積・請求、追加人件費の工数、売上逸失の根拠資料
また、瑕疵・不具合が争点の事件では、技術的説明が必要になり、当事者の主張がすれ違いやすい傾向があります。訴訟を見据えるなら、早い段階で「再現手順」「影響範囲」「是正に必要な作業」を整理し、説明できる形にしておくと有利です。
まとめ
- 損害賠償は「契約→事実→損害→因果関係」の順に整理すると判断しやすい
- 履行遅滞・履行不能・不完全履行のどれかで、必要な主張・証拠が変わる
- 代金不払いは、瑕疵・遅延が背景か、資金難かで対応方針が大きく分かれる
- 違約金・免責・賠償上限・検収など、契約条項が結論を左右しやすい
- 裁判まで視野に入れるなら、合意内容と履行記録、損害根拠の“証拠化”が最重要
坂尾陽弁護士
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