M&A紛争の解決手段【訴訟・仲裁・調停】と戦略|全体像と進め方

この記事ではM&A紛争の解決手段についての総合ガイドとして、以下のような悩みにお答えします。

  • M&Aでどんな紛争が起きやすいか(典型パターン)
  • 訴訟・仲裁・調停の違いと、どれを選ぶべきかの考え方
  • 紛争が起きたときの「初動」から手続開始までの現実的な流れ
  • 手続選択で後悔しないために、契約条項で先に決めておくべきこと

坂尾陽弁護士

M&Aの紛争対応は「結論(勝ち負け)」だけでなく、時間・コスト・事業への影響を含めた総合戦になります。最初の整理の質が、その後の選択肢を大きく左右します。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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M&A紛争とは?典型的な原因と「最初に整理すべき争点」

M&Aの紛争(トラブル)は、契約締結前の説明からクロージング後の運用まで、さまざまな場面で起こりえます。よくあるのは「契約で約束したはずの内容が守られていない」「前提としていた事実が違っていた」「想定外の損失が出た」といった類型です。

典型例としては、次のような争点が挙がります。

  • 表明保証違反(開示されていない負債・訴訟・税務リスクが後から発覚した等)
  • 誓約(コベナンツ)違反(競業避止、情報提供義務、承認手続等)
  • 価格調整条項やアーンアウトをめぐる対立(算定方法、会計処理、情報アクセス)
  • 補償(インデムニティ)や損害賠償の範囲(直接損害/間接損害、上限、期間)
  • 解除・解約の可否(重大な違反か、是正期間の扱い、条件成就の有無)

紛争の初動で重要なのは、感情的な対立に入る前に、少なくとも次の3点を整理することです。

1つ目は「どの契約条項に基づく主張か」です。M&Aは契約でルールを作り込む取引なので、主張の土台が条文に乗っているかで見通しが変わります。

2つ目は「立証に必要な事実・証拠は何か」です。資料やメール、会計データ、議事録など、後から集められないものが多く、初動での確保が勝敗に直結しがちです。

3つ目は「ゴール設定(回収・撤退・条件変更など)」です。損害賠償を取りにいくのか、価格調整に落とすのか。ゴールで最適な手続と戦い方が変わります。

注意

M&Aの紛争は、契約上の通知期限・補償期間・手続前提(協議期間など)が定められていることがあります。一般的な時効・期間制限とは別に「契約で短くされている」ケースがあるため、まず契約を精査してください。

訴訟・仲裁・調停の位置づけと、選び方の基本軸

M&A紛争の解決手段としては、主に「訴訟(裁判)」「仲裁」「調停(含むADR)」が候補になります。実務では、いきなり法的手続に入る前に、当事者間交渉や弁護士間交渉で落としどころを探るのが一般的です。その上で、決裂した場合の“本手続”として、どれを選ぶかが問題になります。

選択の基本軸は、ざっくり言うと次のとおりです。

  • スピード:早期決着が必要か(事業継続・資金繰り・信用の問題)
  • コスト:弁護士費用だけでなく、時間コスト・社内工数も含めた総額
  • 秘密性:紛争の存在・争点・資料が外部に出ることを避けたいか
  • 専門性:M&A・会計・企業価値評価など、専門論点の比重が高いか
  • 強制力/執行:判決・仲裁判断を相手方が任意に履行しない場合をどうするか
  • 国際性:相手方や資産が海外にあるか、英語対応が必要か、複数法域か
MEMO

クロスボーダー案件では「相手方資産の所在国で強制執行しやすいか」が重要です。

個別のメリット・デメリットを深掘りしたい場合は、**M&A紛争を裁判・仲裁・調停のどれで解決すべきか【メリット・デメリット】**で整理すると判断しやすくなります。

また、そもそも「どれを選べるか」は、契約の紛争解決条項(専属的合意管轄、仲裁合意、準拠法など)に左右されます。条項の読み方・設計は、M&A契約の紛争解決条項(専属的合意管轄・仲裁合意・準拠法)の押さえどころが重要な論点になります。

M&A紛争が起きたときの進め方:初動から手続開始までの実務フロー

M&A紛争は、手続を始めてから戦い方を考えるのでは遅いことがあります。現実的には、次の順で“段取り”を組むと失敗しにくいです。

まずは事実関係の確定です。社内で関係者ヒアリングを行い、タイムライン(いつ、誰が、何を知り、どう判断したか)を作ります。M&Aでは「デューデリジェンスの範囲」「開示資料の受領状況」「質疑応答の記録」「最終契約の交渉経緯」が争点になりやすいため、点で集めるのではなく、線として整理します。

次に証拠の保全です。メール、チャット、会議資料、会計データ、データルームのダウンロード資料などは散逸しやすいので、早期に確保します。後からの復元が難しい場合もあり、ここで取り返しのつかない差がつきます。

その上で、契約の精査に移ります。見るべきは、表明保証・誓約・補償・価格調整だけではありません。特に、次の条項は“手続選択”に直結します。

  • 紛争解決条項(専属管轄・仲裁・段階的手続)
  • 準拠法条項(どの国/地域の法で解釈するか)
  • 通知・是正(キュア)条項(いつまでに通知すべきか、是正期間はあるか)
  • 免責・上限・期間(補償期間、上限額、間接損害除外など)

そして、交渉戦略を立てます。M&A紛争は“法的に勝てるか”だけでなく、“相手の経済合理性を動かせるか”が重要です。たとえば、支払い能力、レピュテーション、将来の取引関係、クロージング後の協力義務の有無など、交渉カードは多層的です。

最後に、訴訟・仲裁・調停のどれに進むかを決めます。ここでは「勝ち筋」だけでなく、「勝っても回収できるか」「時間をかけるほど事業価値が毀損しないか」「社内のリソースが耐えられるか」を、同時に評価します。

訴訟・仲裁・調停を見据えた戦略:期限管理・暫定措置・立証・和解

M&A紛争の戦略は、どの手続に進む場合でも共通する骨格があります。

1つ目は期限管理です。M&A契約では、通知期限や補償期間が短めに設定されることがあり、これを落とすと、実体として正しい主張でも通りにくくなります。また、一般論としても、契約上の請求権には一定の期間制限(例:改正民法下の消滅時効など)があり、紛争が長引くほどリスクが増えます。

2つ目は暫定措置の要否です。たとえば、資産の移転や散逸が懸念される、証拠が消されるおそれがある、事業上の重大な影響が出る、といった場面では、仮差押え等の保全手続や、手続設計上の緊急対応の検討が重要になります。

3つ目は立証設計です。M&A紛争では「損害額」「因果関係」「違反の重大性」「開示の十分性」など、数字と経緯の両方が問われがちです。会計論点が絡むと、資料の粒度や前提条件が勝負になります。誰が何を、どの資料で、どの順に示すのかを早期に組み立てます。

4つ目は和解の設計です。訴訟でも仲裁でも、最終結論まで行く前に和解するケースは少なくありません。調停はもちろん、訴訟・仲裁でも「条件変更」「分割払い」「エスクロー」「追加情報開示」など、多様な着地があり得ます。和解は“妥協”ではなく、事業影響を抑えつつ目的を達成するための手段になり得ます。

坂尾陽弁護士

「相手を論破する」よりも、「こちらの目的を最短距離で達成する」ことを中心に据えると、手続選択と交渉が噛み合いやすくなります。

なお、手続の選択は契約条項に縛られることがあるため、実務的には、紛争が起きてから慌てるのではなく、契約段階で“戦い方の土台”を作ることが重要です。次で、予防策として整理します。

再発防止と予防策:契約・運用で「紛争になっても戦える形」にする

M&A紛争を完全に防ぐことは難しいですが、「紛争が起きても致命傷にならない」状態は作れます。ポイントは、契約と運用の両輪です。

契約面では、紛争解決条項の設計が中核になります。専属的合意管轄や仲裁合意をどうするか、準拠法をどうするか、協議期間など段階的手続を入れるか、などです。条項の設計は、まさに本記事のテーマ(訴訟・仲裁・調停の選択)と直結します。具体的な条項の押さえどころは、M&A契約の紛争解決条項(専属的合意管轄・仲裁合意・準拠法)の押さえどころで整理しておくと実務で迷いにくくなります。

加えて、表明保証・補償・価格調整の“出口”を明確にします。どこまでが補償対象か、上限はいくらか、期間はいつまでか、間接損害は除外するのか、損害算定の前提はどうするか。争点になりやすい箇所ほど、条文・定義・手続を具体化するのが重要です。

運用面では、文書化と証跡管理が効きます。デューデリジェンスで何を確認し、どこまで把握したか、どの説明を受け、どのリスクを織り込んだか。後から検証できる形にしておくと、紛争時の見通しが大きく変わります。

最後に、PMI(統合プロセス)も紛争予防の一部です。クロージング後の権限移管、情報の引継ぎ、キーマン離脱、会計処理の変更など、後から「話が違う」となりやすいポイントを、チェックリスト化して早期に潰すことが有効です。

まとめ

  • M&A紛争は、表明保証違反・誓約違反・価格調整など「条文と証拠」が中心の争いになりやすい
  • 解決手段(訴訟・仲裁・調停)は、スピード/秘密性/専門性/執行可能性などの軸で総合判断する
  • 初動では、事実整理→証拠確保→契約精査→交渉設計→手続選択の順で段取りを組むと失敗しにくい
  • 紛争解決条項や通知期限など、契約で“戦い方”が決まることがあるため、契約段階での備えが重要

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