事業の一部だけを切り出して他社に譲る「事業譲渡」は、中小企業の事業再編や事業承継M&Aでよく使われるスキームです。
しかし、設計や準備を誤ると、事業譲渡トラブルとして高額な損失や長期の紛争につながってしまうことがあります。
この記事では、
- 債権債務・契約・許認可・従業員をめぐる典型的な事業譲渡トラブル
- 「事業 譲渡 トラブル 事例」をイメージしやすい失敗パターン
- どこまで誰が責任を負う可能性があるのかという基本的な考え方
- 事前に押さえておきたいチェックポイントと相談のタイミング
を、できるだけ実務イメージが湧く形で整理します。
より広い全体像(会社分割や事業承継M&Aとの比較)を押さえたい場合は、事業譲渡・会社分割・事業承継M&Aのトラブルと責任もあわせて確認しておくと理解しやすいはずです。
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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事業譲渡トラブルが起こりやすい背景と本記事の位置づけ
事業譲渡は、会社が営む事業の全部または一部を、個々の資産・負債・契約単位で譲渡するスキームです。権利義務は原則として「特定承継」とされ、どの資産・負債・契約を移すかは契約書で個別に定めることになります。
株式譲渡であれば、会社そのものはそのまま存続し、権利義務の主体は変わりません。これに対し、事業譲渡では「この債務はどちらの会社が負うのか」「この契約はどちらの会社の契約なのか」「この従業員はどちらの会社に所属しているのか」を、1つ1つ設計していく必要があります。
そのため、
- 「当然こっちに移るだろう」という現場感覚と契約書の記載がズレていた
- 誰も意識していなかった債務や許認可・契約の承継漏れが後から見つかった
- 従業員や取引先への説明が足りず、反発・離反が起きた
といった形で事業譲渡 失敗が顕在化し、紛争につながることがあります。
本記事では、とくに検索ニーズの高い「事業 譲渡 トラブル」をテーマに、債権債務・契約・許認可・従業員の4つの軸で典型的な失敗パターンを整理します。
債権債務をめぐる事業譲渡トラブル・失敗事例
まず金額インパクトが大きいのが、債権債務の承継をめぐる事業譲渡トラブルです。
事業譲渡では、債務を譲受会社に承継させるには原則として債権者の同意が必要とされ、会社分割のような一般的な債権者保護手続は予定されていません。
一方で、事業譲渡契約書に明示されていない簿外債務や保証債務が後から発覚することもあり、トラブルの温床になりがちです。
代表的なパターンを挙げると、次のようなものがあります。
- 承継範囲の認識違い
→ 「この事業に関する債務はすべて承継した」と買い手は理解していた一方、契約書の書き方上は一部の債務が元の会社に残っていたとして、債権者との関係や当事者間で争いになるケース。 - 簿外債務・保証債務の発覚
→ 取引先との口約束や、代表者個人の保証に近いような支払約束が後から表面化し、「これは事業譲渡の対象に含まれるのか」「表明保証違反なのか」が問題になるケース。 - 商号続用責任を巡る紛争
→ 譲受会社が譲渡会社の商号(屋号)をそのまま使ったため、譲渡前からの債務についても、会社法22条1項に基づく責任を負うかどうかが争われるケース。 - 詐害的事業譲渡と評価されるリスク
→ 債務だけを元の会社に残し、資産・収益力のある事業を他社に移転させたと見られる場合に、債権者から会社法22条や詐害行為取消し、法人格否認の法理などを用いて責任追及を受けるケース。
とくに「商号続用責任」は、譲受会社側が意識していないことも多い論点です。
譲受会社が譲渡会社の商号を続用すると、譲渡前の債務についても、債権者保護の観点から譲受会社に法定の責任を負わせると解されています(会社法22条1項)。
ブランドや知名度を維持するために商号・屋号をそのまま使いたい場面は多い一方、どこまで過去の債務リスクを負うのかという点は、事前に慎重な検討が必要です。
取引基本契約・リース等の契約承継をめぐるトラブル
次に多いのが、各種の契約が原因となる事業譲渡 トラブル 事例です。
事業譲渡では、契約関係も個別に承継することになりますが、契約の相手方の同意が必要な場合や、そもそも譲渡を禁止・制限する条項(譲渡禁止条項)が置かれていることもあります。
典型的には、次のような失敗パターンが見られます。
- サプライヤーとの長期供給契約について、契約書上は「譲渡禁止」「事前の書面同意が必要」とされていたのに、同意取得が不十分なまま事業譲渡を実行し、後から契約の解除を主張される。
- 販売代理店契約やフランチャイズ契約で、実質的には買い手にビジネスを引き継いだにもかかわらず、契約上の承継手続がなされていないとして、ロイヤルティや解約金の支払いを巡る紛争になる。
- オフィス・店舗・工場などの賃貸借契約について、貸主の承諾や名義変更が取れておらず、譲受会社がそのまま使用し続ける法的根拠が曖昧になる。
契約承継のトラブルは、「とりあえず事業譲渡契約書さえ結べば事業は回るだろう」という発想で進めた結果、個々の契約ごとのルールを見落としていたところから生じるケースが少なくありません。
この点は、まとめ記事である事業譲渡・会社分割・事業承継M&Aのトラブルと責任でも、「スキーム選択と契約実務」の観点から改めて整理する予定です。
許認可・登録・知的財産に関する承継ミスと事業停止リスク
事業譲渡では、「目の前の売上と人」だけに目が行きがちですが、許認可・登録・知的財産の扱いを誤ると、事業の継続そのものが困難になることがあります。
代表的な論点としては、次のようなものがあります。
- 業種によっては、行っている事業に行政上の許認可が必要であり、許認可自体は会社に紐づいていて、事業譲渡でそのまま承継できないケースがある
- 許認可の名義変更・再取得に時間がかかり、その間、実質的に営業ができない期間が生じる
- 商標権・ドメイン・ソフトウェアライセンス・各種登録などの名義変更・移転登記が漏れており、後から第三者に権利を主張されるおそれがある
許認可の扱いは、業法ごとにルールが異なります。
たとえば、建設業許可や医療関連事業など、法人単位での許可が前提となっている場合、事業譲渡ではなく会社分割や株式譲渡を選択すべきこともあります。
事業譲渡の直後に、行政からの指導や許認可の不備が発覚し、一旦営業停止に追い込まれてしまうと、売上だけでなく従業員・取引先との関係にも大きなダメージが生じます。
業法のチェックは、デューデリジェンスやスキーム設計の段階から専門家を交えて行うことが重要です。
従業員・労務対応が原因となる事業譲渡トラブル
従業員の取り扱いは、「事業譲渡トラブル」の中でも感情的対立を生みやすいテーマです。
事業譲渡では、労働契約の承継も他の権利義務と同様に特定承継とされ、会社間の合意だけでなく、労働者本人の同意が必要と解されています。
労働契約が当然に新しい会社へ移る会社分割等とは異なり、「本人の合意を得ない限り承継されない」という点が大きな違いです。
事業譲渡は、個々の権利義務を合意に基づき移転させる「特定承継」とされ、労働契約も一身専属的な性質を持つため、本人の意思に反して一方的に譲渡することはできないと考えられています。
典型的なトラブルパターンとしては、
- 十分な説明・交渉を経ないまま転籍同意を求めた結果、従業員が大量に退職し、事業価値が大きく毀損する
- 事業譲渡前の未払い残業代・退職金・賞与の扱いが曖昧で、譲渡後に従業員から一斉に請求を受ける
- 譲渡後に労働条件を事実上引き下げた結果、不当労働行為や安全配慮義務違反が問題となる
などが挙げられます。
従業員対応については、別記事である事業譲渡における従業員承継と労務トラブルで、より具体的な事例や対応ステップを詳しく解説していきます。
事業譲渡トラブルを防ぐチェックポイントと相談タイミング
最後に、ここまでの内容を踏まえ、事前にチェックしておきたいポイントと、弁護士に相談すべきタイミングを整理します。
- スキーム選択と許認可・業法の整合性
→ 業種・許認可の性質によっては、事業譲渡より会社分割・株式譲渡が適している場合もあるため、早期段階で「事業譲渡・会社分割・事業承継M&Aのトラブルと責任」のような全体像解説も踏まえつつ検討する。 - 債権債務・保証・商号の整理
→ 債権債務の一覧化、簿外債務・保証債務の洗い出し、商号・屋号の続用有無と会社法22条責任の検討を、デューデリジェンスの段階から行う。 - 重要契約・リース・知財・登録の個別確認
→ 譲渡制限条項・解除条項・名義変更手続・ライセンス条件などを契約書ベースで確認し、相手方との事前調整計画を立てる。 - 従業員・労務対応の計画とコミュニケーション
→ 誰をどの条件で承継するのか、転籍同意の取得プロセス、未払い残業代・退職金・各種手当の整理を、労務・人事と連携して早期に設計する。 - 紛争化した場合の解決手段の確認
→ 事業譲渡契約書に定められた専属的合意管轄・仲裁合意・準拠法条項を確認し、紛争が深刻化する前に、訴訟・仲裁・調停の選択肢を検討する(詳しくは**M&A紛争を裁判・仲裁・調停のどれで解決すべきか【メリット・デメリット】**で解説予定)。
事業譲渡トラブルでは、一見小さな請求への対応が、他の債権者・従業員・取引先への波及要因となることがあります。
個別対応だけでなく、全体のリスク構造を俯瞰したうえでの戦略立案が重要なため、争いが顕在化した段階で一度弁護士へ相談することをおすすめします。
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