事業譲渡を検討すると、経営者や管理部門が最も気にする論点の一つが、従業員をどう承継するかです。
どの従業員を新しい会社に移すのか、その際の労働条件はどうなるのか――ここを誤ると、事業譲渡後に事業 譲渡 紛争として大きな労務トラブルに発展しかねません。
この記事では、
- 事業譲渡における従業員承継の法的な基本枠組み
- 承継対象者の選び方・労働条件変更を巡る典型的な紛争パターン
- 「PMI 従業員 前工程のトラブル」が示す、PMI前工程からの注意ポイント
- トラブル発生後に検討すべき初動対応と、予防のためのチェックポイント
を、一通り押さえられるように整理します。
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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事業譲渡における従業員承継の基本枠組み
まずは、「事業譲渡で従業員がどう扱われるのか」という法的な土台を整理します。
一般に、事業譲渡(営業譲渡)は、会社の行う事業に関する財産の全部または一部を他社に譲渡する取引をいいますが、各個の権利義務については、個別に移転・引受けの手続をとる必要があると理解されています。
このため、事業譲渡 従業員 承継の場面では、
- 労働契約が当然に新会社へ移るわけではない(自動承継ではない)
- 事業譲渡契約上、どの従業員を承継するかを当事者が決める
- そのうえで、元会社・新会社・従業員本人の三者の合意(少なくとも従業員本人の同意)が必要
というのが、裁判例・通説上の基本的な考え方です。
もっとも、現場では「旧会社を退職し、新会社に入社する」という形式をとることが多く、従業員から見ると「勤務先の看板が変わった」くらいにしか見えないこともあります。
しかし、法的には一度雇用契約が終了し、新たな雇用契約が結び直されていることが多く、
- 退職金の通算・精算をどう扱うか
- 勤続年数の取扱いをどうするか
- 試用期間やポジションをどこまで変えるか
といった点が、後の紛争の火種になり得ます。
なお、会社分割の場合は、労働契約承継法により「分割対象事業に主として従事する労働者の契約が、包括的に承継される」ための手続きが定められていますが、事業譲渡には同法は直接適用されません。
ここを混同すると、「会社分割と同じ感覚で従業員を移そうとして、あとから同意の有無や説明不足が問題になる」という事態になりやすいため、最初に区別しておくことが大切です。
裁判所は、単に「転籍合意書にサインしているから有効」という形式だけでなく、説明の内容や同意の経緯、従業員に与えられた選択肢なども踏まえて、合意の有効性や不当労働行為に当たらないかを判断します。形式的な書類だけ整えても、後から実態面で争われるリスクは残ります。
承継対象者の選定を巡るトラブルパターン
次に、「誰を新会社に承継させるか」という承継対象者の選定に関するトラブルです。
事業譲渡では、譲渡対象事業に従事する従業員のうち、
- 全員を承継させる
- 一部だけを承継させる
- 一旦全員退職させたうえで、新会社が再雇用を判断する
など、さまざまなパターンが考えられます。
しかし、ここでの選定が「労働組合員だけ外されている」「年長者・女性社員だけ意図的に排除されている」といった形をとると、不当労働行為や差別的取り扱いとして違法と評価されるおそれがあります。
裁判例でも、事業譲渡のスキームを利用して、特定の組合員を排除することを主たる目的としていたと認定され、不当労働行為が認められた事案が報告されています(東京高裁判平成14年2月27日判決)。
典型的な紛争の流れとしては、
- 事業譲渡計画の中で、新会社に移す従業員と残す従業員を会社側が一方的に決めてしまう
- 外された側の従業員から、「実質的には解雇だ」「組合活動を理由とする差別だ」として争われる
- 行政(労働委員会)による不当労働行為の認定や、損害賠償請求訴訟などに発展する
といった形です。
承継対象者の選定は、
- 事業の必要性(どの機能を残し、どの機能を外部に移すのか)
- 従業員のスキル・希望・家庭事情
- 労働組合との交渉経緯
などを踏まえて、客観的な基準と透明性のあるプロセスを備えることが求められます。
この点をより俯瞰的に整理したものが、まとめ記事である事業譲渡・会社分割・事業承継M&Aのトラブルと責任です。承継対象者の選び方と、会社分割・事業承継M&Aとの関係も含めて検討したい場合は、あわせて確認するとよいでしょう。
労働条件・退職金・処遇変更を巡る紛争類型
「新会社でも条件は基本的に変わらないので安心してください」――
こう説明して事業譲渡を進めたものの、蓋を開けてみると、
- 基本給や各種手当が目に見えて減っていた
- 退職金制度が変わり、これまでの勤続年数がほとんど評価されていない
- 管理職から一般職相当のポジションに落ちた
といった事態が生じ、従業員から強い不満や紛争が生じるケースも少なくありません。
事業譲渡に伴う従業員承継では、原則として「旧会社との労働契約がいったん終了し、新会社との新たな契約が成立する」ことになるため、労働条件は合意の範囲内で変更し得るとも言えます。
しかし、
- 事前説明と実際の条件に大きなギャップがある
- ほとんど選択肢を与えられないまま、「同意しなければ事実上働けない」という状況でサインさせた
- 譲渡と同時に実質的なリストラ・賃下げを行うことが主目的だった
と評価される場合には、公序良俗違反や安全配慮義務違反が問題となったり、損害賠償請求の対象となる可能性があります。
「従業員全員から同意書は取れているから大丈夫」と考えがちですが、
説明内容や経緯が不十分で、実質的に選択の余地がなかったと見られる場合には、後からその有効性を争われるリスクがあります。
特に退職金・勤続年数の扱いなどは、事前にきちんと整理したうえで説明し、書面にも反映しておくことが重要です。
このあたりは、統合後の処遇をテーマにしたM&A後の従業員退職・処遇トラブルとPMIの失敗とも密接に関係します。事業譲渡段階での合意内容が、PMIフェーズでどう影響するかという視点も欠かせません。
PMIの前工程から起こり得る従業員トラブルと予防策
近年、クロージング後だけでなく、PMIの前工程(検討〜契約締結前後)の従業員対応も重視されるようになっています。
事業譲渡では、法務・財務の検討が優先されるあまり、従業員への情報提供やコミュニケーションが後回しになりがちです。すると、
- 噂だけが先行し、「会社が売られるらしい」「リストラされるのでは」と不安が広がる
- 一部のキーパーソンが、情報不足のまま転職・退職を決めてしまう
- 労働組合や従業員代表への説明が不十分で、手続面での不信を招く
といったPMI以前の従業員トラブルが起き、事業価値そのものを下げてしまうことがあります。
こうした事態を防ぐには、少なくとも次のようなポイントを押さえることが有効です。
- スキーム・スケジュールの大枠が固まった段階で、従業員向けの説明計画を立てる
- キーパーソンや管理職層には、一般従業員よりも早いタイミングで情報を共有し、不安を和らげる
- 労働組合・従業員代表との協議の場を設け、選定基準や労働条件の考え方をできる範囲で共有する
- 情報漏えいリスクを管理しつつ、「知らされないこと」自体がストレスにならないようバランスを取る
PMIの成功は、契約書の出来だけでなく、「当事者である従業員がどれだけ納得して動いてくれるか」に大きく左右されます。従業員対応をPMIの前工程から組み込んでおくことが、後のトラブル予防につながります。
事業譲渡紛争が生じた場合の対応ステップ
すでに事業譲渡に関して、従業員からクレームや団体交渉の申入れ、訴訟・労働審判などが起きている場合、その後の対応次第で被害の広がり方が大きく変わります。
基本的なステップとしては、次のように整理できます。
- 事実関係と資料の収集・整理
誰にどのような説明をいつ行ったのか、どのような書面にサインしてもらったのか、メール・議事録・説明資料などを含めて時系列で整理します。 - 契約書・合意書・就業規則等の確認
事業譲渡契約書、人事関連の合意書、就業規則・賃金規程などを前提に、「元会社/新会社のどちらがどこまで責任を負う可能性があるのか」を洗い出します。 - 従業員側の主張・要望の把握
法的な主張(不当労働行為、公序良俗違反、賃金請求など)とともに、実務的に何を求めているのか(復職、一定額の補償、処遇見直し等)を整理します。 - 交渉・紛争解決手段の選択
個別の話し合いで解決するのか、労働局のあっせん・労働委員会の手続を利用するのか、訴訟・労働審判に進むのかなど、コスト・時間・レピュテーションを踏まえて検討します。
この段階では、単に1件のクレームとして扱うのではなく、
- 他の従業員にも同様の問題が波及していないか
- 将来的に集団的な請求や他のM&A案件にも影響しないか
といった観点から、全体のリスクを評価することが重要です。
まとめ記事である事業譲渡・会社分割・事業承継M&Aのトラブルと責任や、従業員処遇をテーマにしたM&A後の従業員退職・処遇トラブルとPMIの失敗も参考にしつつ、早期の段階で専門家に相談しておくと、選択肢を広く持ちやすくなります。
まとめ:事業譲渡における従業員承継・労務トラブルのチェックポイント
最後に、本記事のポイントとチェックポイントを整理します。
- 事業譲渡では、労働契約は自動承継されず、元会社・新会社・従業員本人の同意が必要となるのが基本であり、会社分割における労働契約承継法の枠組みとは異なる。
- 承継対象者の選定が、特定の従業員や労働組合を排除する目的で行われたと評価されると、不当労働行為や違法な人員整理として紛争化するリスクがある。
- 労働条件・退職金・勤続年数などの扱いが不明確なまま合意を取ると、後から公序良俗違反や損害賠償の問題として争われる可能性があるため、説明内容と書面の整合性が重要。
- 「pmi 従業 員 前 工程 の トラブル」が示すように、スキーム決定前〜クロージング前の情報提供・コミュニケーションの設計が、離職防止や士気維持の観点から決定的に重要となる。
- すでに事業譲渡 紛争が生じている場合は、事実関係と契約・規程を丁寧に整理したうえで、交渉方針と紛争解決手段を検討し、早期に専門家と連携することで被害の拡大を抑えやすくなる。
事業譲渡は、スキームとしては比較的シンプルに見えますが、従業員承継と労務トラブルの観点では、会社分割以上に繊細な判断が求められる場面も多くあります。
検討の初期段階から、**「どの従業員を、どの条件で、どう説明して承継するか」**という視点を組み込んでおくことが、後の紛争予防につながります。
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