(譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等)
第二十二条 事業を譲り受けた会社(以下この章において「譲受会社」という。)が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う。
2 前項の規定は、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社がその本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用しない。事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社及び譲渡会社から第三者に対しその旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者についても、同様とする。
3 譲受会社が第一項の規定により譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡会社の責任は、事業を譲渡した日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。
4 第一項に規定する場合において、譲渡会社の事業によって生じた債権について、譲受会社にした弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは、その効力を有する。
事業譲渡がなされた場合、譲渡会社の債権者・債務者は譲受会社に対して請求や弁済をできないかが問題になります。会社法22条は、譲受会社が商用を続用した場合は事業主体が交代したことが債権者・債務者から分かりづらいことを考慮して、債権者・債務者の保護を図る規定と言えるでしょう。
企業法務・顧問弁護士の無料相談実施中
商号を続用した場合における譲受会社の責任の根拠
会社法22条1項は、譲受会社が商号を続用したときは譲受会社が重畳的債務引受けをしたのと同じ法定の責任を負わせるものです。この根拠については、一般的に商号が続用されると事業主体が交代したことが第三者に分かりづらいため、商号続用により譲受会社が事業主体であるかのような外観を信頼した第三者を保護するためだとされています。
もっとも、判例は債権者が事業譲渡により事業主体が変更されていたことを知っていたような場合においても会社法22条の趣旨が妥当すると考えているようです(最高裁平成16年2月20日判決、最高裁平成20年6月10日判決)。そのため、譲受会社が責任を負うのは、単に外観を保護するというだけでなく、例えば、詐害的事業譲渡等のように譲渡会社に債務のみを残した事業譲渡をすること等により債権者を害することがないようにする趣旨もあるようです。
詐害的事業譲渡から債権者を保護するためには、この他に会社法23条の2や法人格否認の法理等も考えられます。会社法23条の2は商号続用を要件としない代わりに、債務の履行を請求できるのは承継した財産の価額を限度とするとされています。事業譲渡契約があったかどうかが曖昧なケースでは、法人格否認の法理による救済が妥当することになります。
事業譲渡後に屋号や商標が続用された場合
会社法22条は商号が続用された場合の規定ですが、判例は屋号が続用された場合においても「屋号が商号の重要な構成部分を内容としている」ときは会社法22条1項の類推適用を認めています。例えば、商号が有限会社ABCホテルであり、屋号がABCホテルであるような場合には屋号が商号の重要な構成部分を内容としていると考えられます(東京高裁平成元年11月29日判決参照)。
もっとも、商号と屋号の間に関連性がないような場合でも、営業形態や事業場所の同一性、屋号が果たす機能等を考慮して、会社法22条の類推適用がなされることもあります。例えば、譲渡会社の商号がA村株式会社であり、続用した屋号がカラオケハウスB Villageといったケースにおいて、長野地裁平成144年12月27日判決は会社法22条の類推適用を認めました。
また、ゴルフクラブの名称が続用された事案においては、最高裁はゴルフクラブの名称がゴルフ場の営業主体を表示するために用いられている場合、譲受人がゴルフクラブの名称を継続して使用しているときは特段の事情がない限り会員は同一の営業主体による営業が継続していると信じるのはやむを得ないとして会社法22条の類推適用を認める立場であるようです(最高裁平成16年2月20日判決)。ゴルフクラブの利用者は、ゴルフクラブの名称は知っていても運営会社の商号に接することは少なく、また、事業譲渡後も同一のゴルフ場施設が利用できる限りは事業譲渡がなされたことを知る機会もないと思われるので、判例はこのような立場を取っているものと思われます。
事業譲渡以外の場面における会社法22条の類推適用
事業自体を移転する方法は、事業譲渡だけでなく現物出資・事業の賃貸借・会社分割等も考えられます。当事者間において事業を移転する方法がいずれのようなものであっても、譲渡された事業に関する債権者・債務者が置かれた状況は変わりません。
そのため、判例は、事業譲渡以外の場面においても、営業の意味は同一でありいずれも法律行為による営業の移転であるとして、会社法21条の類推適用を認める立場だと考えられます(現物出資について最高裁昭和47年3月2日判決)。
会社分割についても、預託金会員制ゴルフクラブにおいて会社分割で事業が移転し、譲受会社がゴルフクラブの名称を継続使用した事案について、最高裁平成20年6月10日判決は会社法20条1項の類推適用により譲受会社が預託金返還義務を負うことを認めました。もっとも、会社分割においては別途債権者保護手続きが定められていることや、会社法22条2項の免責登記をどのようにするかの問題が生じることから、一律に類推適用が認められるのではなく事案に応じて個別具体的な判断が分かれる可能性もあるように思われます。
譲受会社の広告による債務の引受け(会社法23条)
(譲受会社による債務の引受け)
第二十三条 譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用しない場合においても、譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡会社の債権者は、その譲受会社に対して弁済の請求をすることができる。
2 譲受会社が前項の規定により譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡会社の責任は、同項の広告があった日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。
譲受会社が商号を続用しない場合においても、債務を引き受ける旨の広告をしたときは譲受会社が債務を負うことになります。事業譲渡は合併・会社分割のような包括承継ではないため、債務引受けの手続きを行わない限り、債権者は譲渡会社に対して債権を請求できるのみです。具体的な債務引受けの手続きをせずとも、譲受会社が広告をしただけで債務を負うことになる点が特徴です。
会社法23条1項の広告については具体的な方法が定められているわけではありません。そのため、新聞広告等に限られず、チラシを配布する方法、CMを配信する方法、ウエブサイトで告知する方法、債権者に一斉に手紙やメール等を送る方法等も該当する可能性があります。例えば、那覇地裁昭和54年2月20日判決は、新聞記者への談話が報道されたことも広告に当たるとしており、必ずしも広告媒体の主体が譲受会社である必要もないようです。
もっとも、会社法23条の広告と言えるには債務を引き受ける旨である必要があり、事業譲渡をしたことの単なる挨拶状では足りないと考えられています。裁判例においては、具体的な文言によって判断が異なっていますが、思わぬリスクを負わないためには事業譲渡を行った場合に挨拶状等を出すときは必ず弁護士のチェックを受ける方が良いでしょう。
- 2009年 京都大学法学部卒業
- 20011年 京都大学法科大学院修了
- 2011年 司法試験合格
- 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
- 2016年 アイシア法律事務所設立
企業法務・顧問弁護士の無料相談実施中