会社法140条は、譲渡制限株式について株式の譲渡を承認しない場合には株式会社又は指定買取人が当該株式を買い取る義務があることを定めています。また、会社法141条・142条は株式会社・指定買取人に譲渡制限株式の買取義務が生じる場合の手続きについて、会社法143条はこの場合に譲渡等承認請求の撤回が制限されることを定めています。

会社法141条は株式会社が買い取る場合の手続き、会社法142条は指定買取人が買い取る場合の手続きについて定めていますが、その内容はほとんど同じです。そのため、会社法141条・142条について相違点を指摘し、共通する問題点はまとめて解説します。

非上場会社の少数株主にとって、会社法140条~143条に規定された譲渡制限株式の譲渡不承認の場合の買取義務・買取手続きは重要な意義を有します。この記事では各条文を紹介し、問題となる点について解説します。

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譲渡制限株式の買取義務(会社法140条)

(株式会社又は指定買取人による買取り)
第百四十条 株式会社は、第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求を受けた場合において、第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をしない旨の決定をしたときは、当該譲渡等承認請求に係る譲渡制限株式(以下この款において「対象株式」という。)を買い取らなければならない。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 対象株式を買い取る旨
二 株式会社が買い取る対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、対象株式の種類及び種類ごとの数)
2 前項各号に掲げる事項の決定は、株主総会の決議によらなければならない。
3 譲渡等承認請求者は、前項の株主総会において議決権を行使することができない。ただし、当該譲渡等承認請求者以外の株主の全部が同項の株主総会において議決権を行使することができない場合は、この限りでない。
4 第一項の規定にかかわらず、同項に規定する場合には、株式会社は、対象株式の全部又は一部を買い取る者(以下この款において「指定買取人」という。)を指定することができる。
5 前項の規定による指定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

会社法140条は譲渡制限株式の譲渡を承認しない場合には、株式会社に当該株式の買取義務が生じることを定めるとともに(会社法1401項)、株式会社は指定買取人を指定して指定買取人に当該株式を買い取らせることもできる旨を定めています(会社法1404項)。

つまり、会社法140条は譲渡不承認の場合における株式会社・指定買取人の株式買取義務を定めた規定となります。なお、実務的には、指定買取人として会社の代表取締役兼主要株主が指定されることが多いようです。

少数株式を売却する方法としての会社法140

非上場会社の株式は株式市場において売却することができません。非上場会社の支配株主・多数株主は、会社や事業のM&Aを行うことにより保有株式を売却することは可能です。

これに対し、非上場会社の少数株主にとって、保有株式を売却することは非常に困難です。株主は、原則として会社や代表者に対して株式を買い取るように請求することはできません。その例外のうち一つは組織再編等が行われる場合の反対株式の株式買取請求権であり、もう一つが会社法140条の譲渡不承認の場合における株式会社・指定買取人の株式買取義務です。

株式会社・指定買取人に株式買取義務を生じさせることにより、通常は非常に困難を伴う非上場会社の少数株式の売却を実現できるという点で、会社法140条は重要な意義を有しています。

株式会社・指定買取人の買取りを決定する機関

譲渡制限株式を株式会社が買い取る場合には、取締役設置会社であろうとも株主総会の特別決議により買い取る株式の種類・数を決定することになります(会社法30921号、1402項)。

これに対し、指定買取人を指定するのは、取締役会設置会社においては取締役役会、取締役会非設置会社においては株主総会の特別決議とされています(会社法30921号、1405項)。なお、定款において予め指定買取人を決めておくこと等は許されます(会社法140条5項但書)。

譲渡制限株式の買取義務と自己株式取得規制

譲渡不承認の場合において株式会社の株式買取義務が生じるときは、特定の者からの自己株式取得の特別な場合です。

自己株式取得の手続規制との相違としては、株式の買取りを決定する株主総会の特別決議において譲渡等承認請求者は同人のみが議決権を有する場合でない限り議決権を行使することができない点は同じですが(会社法1403項、1604項参照)、売主追加請求権は認められていいません(会社法1603項参照)。

また、自己株式取得の規制のうち財源規制も適用されるため、譲渡制限株式の買取りは分配可能額の範囲内に限られ(会社法46111号)、超過した場合又は事業年度末日に欠損が生じた場合には業務執行者は損害賠償義務・支払義務を負うことになります(会社法462条、46511号)。この場合、譲渡等承認請求者は善意であれば業務執行者からの求償を受けずにすみます(会社法4631項)。

また、清算中の会社の場合は自己株式取得ができないため、指定買取人が買い取るか、そうでない場合は譲渡を承認したとみなされることになります。

譲渡制限株式の買取りの対象

譲渡等承認請求がなされた株式の全部を買い取ることができない場合、一部のみを買い取ることができるかが問題となります。しかし、株式の一部の買取りを認めると、残りの株式は元々の株式取得者に対する譲渡を承認することになりますが、このような場合、元々の株式取得者は残りの株式のみを買い取ることは拒否する可能性が高いと考えられます。そのため、譲渡等承認請求がなされた株式の一部についてのみを株式会社・指定買取人が買い取ることはできないと解されています。

また、会社法制定前は指定買取人を複数指定することは、譲渡等承認請求者に手数をかけさえるため許されないと解されていました。これに対し、会社法1404項は指定買取人が対象株式の一部を買い取ることができる旨を明文で認めています。しかし、譲渡等承認請求者に手数をかけさせることを回避する必要があることには変わりがないため、指定買取人が一部を買取り、株式会社が残りを買取ることのみを会社法は認めていると考えられます。つまり、会社法1404項は、指定買取人1名が対象株式を買い取る場合と、対象会社と1名の指定買取人が対象株式を買い取る場合のみを許容していると解されます。

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株式会社・指定買取人による買取りの通知(会社法141条・142条)

(株式会社による買取りの通知)
第百四十一条 株式会社は、前条第一項各号に掲げる事項を決定したときは、譲渡等承認請求者に対し、これらの事項を通知しなければならない。
2 株式会社は、前項の規定による通知をしようとするときは、一株当たり純資産額(一株当たりの純資産額として法務省令で定める方法により算定される額をいう。以下同じ。)に前条第一項第二号の対象株式の数を乗じて得た額をその本店の所在地の供託所に供託し、かつ、当該供託を証する書面を譲渡等承認請求者に交付しなければならない。
3 対象株式が株券発行会社の株式である場合には、前項の書面の交付を受けた譲渡等承認請求者は、当該交付を受けた日から一週間以内に、前条第一項第二号の対象株式に係る株券を当該株券発行会社の本店の所在地の供託所に供託しなければならない。この場合においては、当該譲渡等承認請求者は、当該株券発行会社に対し、遅滞なく、当該供託をした旨を通知しなければならない。
4 前項の譲渡等承認請求者が同項の期間内に同項の規定による供託をしなかったときは、株券発行会社は、前条第一項第二号の対象株式の売買契約を解除することができる。

(指定買取人による買取りの通知)
第百四十二条 指定買取人は、第百四十条第四項の規定による指定を受けたときは、譲渡等承認請求者に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない。
一 指定買取人として指定を受けた旨
二 指定買取人が買い取る対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、対象株式の種類及び種類ごとの数)
2 指定買取人は、前項の規定による通知をしようとするときは、一株当たり純資産額に同項第二号の対象株式の数を乗じて得た額を株式会社の本店の所在地の供託所に供託し、かつ、当該供託を証する書面を譲渡等承認請求者に交付しなければならない。
3 対象株式が株券発行会社の株式である場合には、前項の書面の交付を受けた譲渡等承認請求者は、当該交付を受けた日から一週間以内に、第一項第二号の対象株式に係る株券を当該株券発行会社の本店の所在地の供託所に供託しなければならない。この場合においては、当該譲渡等承認請求者は、指定買取人に対し、遅滞なく、当該供託をした旨を通知しなければならない。
4 前項の譲渡等承認請求者が同項の期間内に同項の規定による供託をしなかったときは、指定買取人は、第一項第二号の対象株式の売買契約を解除することができる。

会社法141条・142条で必要な手続き

譲渡制限株式を株式会社・指定買取人が買い取る場合には、株式会社・指定買取人は買取通知を行うとともに、1株当たり純資産額に株式数を乗じた金額を供託し、供託を証する書面を交付する必要があります。また、株券発行会社の場合には、譲渡等承認請求者は供託を証する書面を交付されてから1週間以内に株券を供託し、その旨を遅滞なく通知するべきとされています。

会社法145条によりみなし承認がなされてしまうことから、譲渡不承認の通知から株式会社が買い取る場合には40日以内、指定買取人が買い取る場合には10日以内に上記手続きを行う必要があるので注意が必要です(当該期間は定款で短縮可能)。

買取り通知の追完について

取締役会決議による譲渡不承認通知及び買取通知をみなし承認の効果が生じる期間経過前に通知したものの、当該決定をした取締役会決議が無効であるときはみなし承認の効果が生じてしまうとも考えられます。

しかし、裁判例においては、当該期間経過後に譲渡不承認通知及び買取通知について、有効な取締役会決議で追完したときは、当該期間内に139条2項の通知をしたとしてみなし承認の効果は生じないとされています(大阪地裁昭和54530日判決)。

法定の供託額に不足する供託について

供託額が法定された1株当たり純資産額に株式数を乗じた金額に満たない場合、原則として当該供託は無効であり、受理されません。しかし、会計上の勘定科目の評価の解釈により、供託額にわずかな不足額が生じた場合には供託は有効と判断される可能性があります。

裁判例においては、供託による不足額の割合が約8.3%とごくわずかであり、かつその理由が会計上の解釈によるものであることから、供託額の不足を知っていた特段の事情がない限り、当該供託は有効であると判断したものがあります(大阪地裁昭和531122日判決、大阪地裁昭和54530日判決)。

株券発行会社における株券供託についての問題点

株券発行会社の場合には、譲渡等承認請求者は株券を供託する必要があります。そのため、会社法2154項により株券が発行されていない場合は事前に株券の発行を請求しておく必要があることになります。

他方で、株券未発行が会社側の事情によるような場合には、株券を供託しないことを理由として売買契約の解除が制限される可能性があります。例えば、名古屋高裁平成10821日決定は、会社が株券発行を不当に遅滞している場合には株券の交付なしに株式を譲渡できるとする最高裁昭和47118日判決に照らして、会社が株券発行に応じるとは考えられないことからすると指定買取人は株券の交付がなくても株式の取得を主張できるため、指定買取人の株式取得を確保するために株券供託を求めた法の趣旨を損なわないとして、売買契約の解除の主張を認めませんでした。

供託金の還付請求について

還付とは被供託者への払渡しのことを言いますが、譲渡等承認請求者が供託金の還付請求を行う場合には還付を受ける権利を有することを証する書面が必要となります(供託法8条、供託規則2411号)。

還付を受ける権利を有することを証する書面とは、以下の通りとなります。

  • 売買価格についての当事者間の協議書
  • 売買価格に関する裁判の決定謄本・確定証明書
  • 売買価格の決定がなかったことを証する書面

このうち、当事者間の協議が成立せず、かつ売買価格の決定がない場合には会社法1445項により、1株当たり純資産額に株式数を乗じた金額が売買価格となります。そして、売買価格の決定がなかったことを証する書面は、当事者間の協議が調っていないこと及び期間内に売買価格決定の申立てがなされていないことを証する書面が必要とされています(東京高裁平成20410日判決)。還付請求について相手方から協力を得られない場合、当事者間の協議が調っていないことを証明する書面を取得することは困難であるため、相手方を被告として供託金還付請求権の訴えを提起して解決することになります。

供託金の取戻請求について

取戻とは供託者への払渡しのことを言いますが、供託者が取戻請求をするためには取戻しをする権利を有することを証する書面が必要とされています(供託法82項、供託規則251項)。

取戻しができる場合は以下の通りです。

  • 株券が供託されなかったことによる売買契約の解除(会社法1414項・1424項)
  • 供託額を超過する売買代金の不払いによる債務不履行解除(民法541条)
  • 合意解除(会社法143条)

 

譲渡等承認請求の撤回(会社法143条)

(譲渡等承認請求の撤回)
第百四十三条 第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求をした譲渡等承認請求者は、第百四十一条第一項の規定による通知を受けた後は、株式会社の承諾を得た場合に限り、その請求を撤回することができる。
2 第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求をした譲渡等承認請求者は、前条第一項の規定による通知を受けた後は、指定買取人の承諾を得た場合に限り、その請求を撤回することができる。

株式会社・指定買取人が1株当たり純資産額に株式数を乗じた金額の供託を行って、買取通知を行った後は、譲渡等承認請求の撤回には株式会社・指定買取人の承諾が必要となります。株式を買い取るための資金準備等を行って供託をした株式会社・指定買取人に不測の損害を与えないことが会社法143条趣旨となります。

また、会社法143条の反対解釈として、買取通知がなされるまでは譲渡等承認請求は自由に撤回できると考えられます。

なお、指定買取人の買取通知により売買契約が成立するため、指定買取人からも一方的に買取通知を撤回することはできないとされています(仙台高裁昭和6328日決定)。

 

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執筆者:坂尾陽弁護士

  • 2009年 京都大学法学部卒業
  • 20011年 京都大学法科大学院修了
  • 2011年 司法試験合格
  • 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
  • 2016年 アイシア法律事務所設立

 

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