会社法135条は子会社が親会社株式を取得することを禁止しています。もっとも、組織再編行為等により親会社株式を保有することになった場合には親会社株式を取得できる旨の例外も定めています。また、親会社株式を保有する場合、子会社は相当の時期に親会社株式を処分しなければなりません。
この記事では会社法135条及び子会社が親会社株式を取得できる例外的事由を定めた会社法施行規則23条の条文を紹介し、問題となる点について解説します。
(親会社株式の取得の禁止)
第百三十五条 子会社は、その親会社である株式会社の株式(以下この条において「親会社株式」という。)を取得してはならない。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他の会社(外国会社を含む。)の事業の全部を譲り受ける場合において当該他の会社の有する親会社株式を譲り受ける場合
二 合併後消滅する会社から親会社株式を承継する場合
三 吸収分割により他の会社から親会社株式を承継する場合
四 新設分割により他の会社から親会社株式を承継する場合
五 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める場合
3 子会社は、相当の時期にその有する親会社株式を処分しなければならない。
親会社・子会社の意義
親会社・子会社については会社法2条の定義規定において定められており、親会社とは議決権の過半数を有する等、株式会社の経営を支配している法人として法務省令で定める他の会社等とされています(会社法2条4号)。子会社は、ある会社がその経営を支配している他の会社等です(会社法2条3号)。
そして、株式会社の経営を支配しているか否かは、会社法施行規則3条において「株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配している場合」であるとされ、要するに直接的・間接的に議決権の過半数に影響を及ぼせると判断できる類型が定められています。
なお、子会社が株式会社以外であっても、会社法施行規則3条4項により株式会社とみなされることにより親会社株式の取得禁止の規制が及びます。これに対し、親会社が外国会社である場合には規制は及ばないと考えられています。
なお、完全子会社が親会社株式を取得した場合、親会社が自己の計算により親会社株式を取得したとして、自己株式取得の規制が適用されるとするのが判例の立場ですので注意が必要です(最高裁平成5年9月9日判決)。
例外的に親会社株式を取得できる場合(会社法135条2項)
会社法135条2項及び会社法施行規則23条による例外的事由
会社法135条2項及び会社法施行規則23条は、子会社が親会社株式を取得できる例外的事由を定めています。
具体的には会社法135条2項1号から4号において、事業譲受け・合併・吸収分割・新設分割により親会社株式を譲り受ける又は承継する場合が定められています。また、会社法施行規則23条においては、株式交換・株式移転・株式交付に際して親会社株式の割当てを受ける場合や、無償取得・現物配当で親会社株式を取得する場合等が定められています。
(子会社による親会社株式の取得)
第二十三条法第百三十五条第二項第五号に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一吸収分割(法以外の法令(外国の法令を含む。以下この条において同じ。)に基づく吸収分割に相当する行為を含む。)に際して親会社株式の割当てを受ける場合
二株式交換(法以外の法令に基づく株式交換に相当する行為を含む。)に際してその有する自己の株式(持分その他これに準ずるものを含む。以下この条において同じ。)と引換えに親会社株式の割当てを受ける場合
三株式移転(法以外の法令に基づく株式移転に相当する行為を含む。)に際してその有する自己の株式と引換えに親会社株式の割当てを受ける場合
四他の法人等が行う株式交付(法以外の法令に基づく株式交付に相当する行為を含む。)に際して親会社株式の割当てを受ける場合
五親会社株式を無償で取得する場合
六その有する他の法人等の株式につき当該他の法人等が行う剰余金の配当又は残余財産の分配(これらに相当する行為を含む。)により親会社株式の交付を受ける場合
七その有する他の法人等の株式につき当該他の法人等が行う次に掲げる行為に際して当該株式と引換えに当該親会社株式の交付を受ける場合
イ組織の変更
ロ合併
ハ株式交換(法以外の法令に基づく株式交換に相当する行為を含む。)
ニ株式移転(法以外の法令に基づく株式移転に相当する行為を含む。)
ホ取得条項付株式(これに相当する株式を含む。)の取得
ヘ全部取得条項付種類株式(これに相当する株式を含む。)の取得
八その有する他の法人等の新株予約権等を当該他の法人等が当該新株予約権等の定めに基づき取得することと引換えに親会社株式の交付をする場合において、当該親会社株式の交付を受けるとき。
九法第百三十五条第一項の子会社である者(会社を除く。)が行う次に掲げる行為に際して当該者がその対価として親会社株式を交付するために、その対価として交付すべき当該親会社株式の総数を超えない範囲において当該親会社株式を取得する場合
イ組織の変更
ロ合併
ハ法以外の法令に基づく吸収分割に相当する行為による他の法人等がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部の承継
ニ法以外の法令に基づく株式交換に相当する行為による他の法人等が発行している株式の全部の取得
十他の法人等(会社及び外国会社を除く。)の事業の全部を譲り受ける場合において、当該他の法人等の有する親会社株式を譲り受けるとき。
十一合併後消滅する法人等(会社を除く。)から親会社株式を承継する場合
十二吸収分割又は新設分割に相当する行為により他の法人等(会社を除く。)から親会社株式を承継する場合
十三親会社株式を発行している株式会社(連結配当規制適用会社に限る。)の他の子会社から当該親会社株式を譲り受ける場合
十四その権利の実行に当たり目的を達成するために親会社株式を取得することが必要かつ不可欠である場合(前各号に掲げる場合を除く。)
保有された親会社株式に関する権利
子会社が保有する親会社株式には議決権はありません(会社法308条2項括弧書き、会社法施行規則67条、95条5号)。そのため議決権を前提とする権利については認められませんが、それ以外の共益権は認められると考えられています。
また、自益権についても、子会社の少数株主・債権者の利益のために認められるべきと考えられます。
違法に親会社株式を取得した場合の効力
子会社が違法に親会社株式を取得した場合、その取得は無効ではあるものの、子会社は善意の相手方に対しては無効であることを主張できないと考えられています。
また、裁判例において、無効を主張できるのは譲受人である子会社からであり、譲渡人である相手方は無効を主張できないと判断されています(東京高裁令和元年11月2日判決)。譲渡人に違法性の必要性がなかった場合でも、そもそも譲渡人は保護の必要性がないため譲渡人による無効の主張はできません。
有限会社の自己持分の取得禁止規定違反による取得の無効について、判例は譲渡人から主張することはできないとの立場を取っており(最高裁平成5年7月15日判決)、子会社による親会社株式の取得禁止を定める135条についても同様の解釈が当てはまると考えられています。
子会社が保有する親会社株式の処分(会社法135条3項)
親会社株式を保有する子会社は、相当の時期に親会社株式を処分する必要があります。
親会社が子会社から自己株式を取得する場合
処分の相手先は定められていませんが、親会社が子会社の保有する株式を自己株式として引き取ることができるように会社法163条において、子会社から自己株式を取得する場合は取締役会決議によって、157条から160条の適用がなく自己株式取得ができる旨の措置が講じられています。
三角合併の場合
三角合併の場合には、会社法135条3項の規定にもかかわらず効力発生日までの間は親会社株式を保有することが認められています(会社法800条2項、802条2項)。
三角合併は、合併において消滅会社の株主に対し、存続会社の親会社株式を交付するものです。三角合併はクロスボーダーM&Aにおいて外国企業が国内の対象会社を完全子会社化する場合や、非上場企業を存続会社とする上場企業と非上場企業との合併が行われる場面において活用されます。三角合併においては、消滅会社の株主に対して親会社株式を交付するために、子会社による親会社の株式取得が認められているのです。
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- 2009年 京都大学法学部卒業
- 20011年 京都大学法科大学院修了
- 2011年 司法試験合格
- 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
- 2016年 アイシア法律事務所設立