当事者間の契約に基づき株式を譲渡したとしても、会社その他の第三者に対して株式の譲渡がなされたことを主張するためには手続きが必要です。対抗要件とは株式の譲渡を会社その他の第三者に対して主張するための要件のことです。会社法130条は、株式の譲渡についての対抗要件として、株主名簿の名義書換えが必要であることを定めています。
この記事では会社法130条を紹介し、株式譲渡の対抗要件に関する問題について解説します。
(株式の譲渡の対抗要件)
第百三十条 株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。
2 株券発行会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社その他の第三者」とあるのは、「株式会社」とする。
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対抗要件の具備が必要な株式の譲渡とは
会社法130条1項は、株式の譲渡を会社・第三者に対抗するためには株主名簿の名義書換えが必要としています。しかし、株式が移転する場合は、当事者間の契約に基づく「譲渡」だけではなく、相続・合併等の包括承継や競売による買受け等も考えられます。そのため、株式の「譲渡」以外について対抗要件の具備は必要かが問題となります。
この点について、会社法制定前の商法では株式の「移転」について株主名簿の名義書換えが対抗要件とされており、会社法130条は「譲渡」の文言を使っているものの従前と同様に株式の移転についても同じく対抗要件の具備が必要と解されていますそのため、相続・合併等の包括承継や競売による買受け等により株式を取得した場合であっても、株式を取得したことを会社その他の第三者に主張するためには株主名簿の名義書換えを行って対抗要件を具備する必要があると考えられます。
他方で、裁判例においては株式会社の設立・新株の発行に伴って株式を原始取得した場合には株主名簿上の記載がなくても会社に株主であることを対抗できるとしているので注意が必要です(東京高裁平成4年11月16日判決)。
株式譲渡を会社に対して対抗できないとは
株式譲渡を会社に対して対抗できないとは、要するに株式会社は、株主名簿の名義書換えがなされるまでは株式の譲受人を株主として扱わなくて良いという意味です。つまり、会社にとっては、真実の株主が誰であるかを調査することがなく、株主名簿上の株主について株主に必要な手続き等を行えば足りるということです。株主が多数存在するような場合に株主名簿に沿って一律に処理ができるという点で、会社に対する対抗要件の趣旨は集団的法律関係の画一的処理の要請に基づくものであり、会社の便宜のための制度と言えます。
会社に対する対抗要件は上記のように会社の便宜のための制度であることから、判例は、会社側から株式の譲渡がなされたことを認めて、名義書換未了の譲受人を株主として取り扱うことを認めています(最高裁昭和30年10月20日判決)。
さらに、会社が名義書換未了の株主を株主と認め、従前権利行使を容認してきた等の特段の事情がある場合、会社が株主の地位を争うことは信義則違反として許されないとする裁判例も存在します(名古屋地裁一宮支部平成20年3月26日判決)。
株券発行会社や振替株式における株式譲渡の対抗要件
会社法130条1項においては株主名簿の名義書換えが会社その他の第三者に対する対抗要件とされていますが、株券発行会社である場合や振替株式が発行されている場合には特則が設けられています。
株券発行会社においては、株券の交付が株式譲渡の効力発生要件であるとともに第三者に対する対抗要件であり(会社法128条1項)、株主名簿の名義書換えは会社に対する関係でのみ対抗要件とされています(会社法130条2項)。
振替株式が発行されている場合、口座への記載・記録が第三者に対する対抗要件であり、株主名簿の名義書換えは会社に対する関係でのみ対抗要件とされています(社債株式振替違法161条3項)。
詳しくは株式譲渡に必要な手続きをまとめた下記記事を参考にしてください。
(参考)株式譲渡の手続き(会社法128条)v
失念株の問題
失念株とは当事者間で株式を譲渡したものの、株主名簿の名義書換えが忘れられた株式です。失念株については、基準日までに株主名簿の名義書換えがなされなかったため、株式を譲渡したはずの株主名簿上の株主に対して剰余金の配当がなされたり、株式の分割・無償割当てによる株式が交付されたりする問題が生じます。
このような場合、判例は、剰余金の配当がなされたり、株式が無償で交付されたりした場合には、失念株主から譲渡人に対して不当利得返還請求権を認めています(最高裁昭和37年4月20日判決、最高裁平成19年3月8日判決)。例えば、最高裁平成19年3月8日は、譲渡人が株主名簿上は株主のままであっため、株式分割がなされて新株式の株券を交付され、当該株券を第三者に売却した場合において、失念株主である譲受人から名簿上の株主である譲渡人に対して売却代金相当額の不当利得返還義務を負うとしています。
他方で、判例は株主割当てによる新株発行の場合、譲渡人が申込み・払込みを行って取得した株式については、失念株主から譲渡人に対して不当利得返還請求権を認めていません(最高裁昭和35年9月15日判決)。最高裁判所はその理由について株式が移転したからといって、新株引受権が随伴して移転したものと解すべきではないとしていますが、この理由だと剰余金の配当や株式が無償で交付された場合に不当利得返還請求権を認めることと整合するのか疑問のように思われます。実質的には、譲渡人が無償で取得したものは返還すべきであるのに対し、株式の申込み・払込みをしたため取得した株式を返還させるのは相当ではないという判断、新株引受権の価値を算定することは困難であること等が考慮されているように個人的には思われます。
株主名簿の名義書換えが不当に拒絶された場合
株主名簿名義書換請求(会社法133条)がなされたにもかかわらず、会社が正当な理由なく名義書換えを拒絶した場合、名義書換未了の譲受人は会社に対して株主としての地位を対抗できると考えられます。また、会社としても名義書換未了の譲受人を株主として取り扱う必要があり、株主名簿上の株主である譲渡人を株主として取り扱うことはできません。例えば、最高裁昭和41年7月28日判決は、会社が過失によって株主名簿の名義書換えをしなかった事案において、会社は譲受人を株主として取り扱うことを要し、譲渡人を株主として取り扱うことはできないと判断しています。
名義書換えの拒絶に正当な理由がある場合とは、譲渡制限株式について譲渡承認を得ていない場合や、株式取得者が無権利者であることを会社が立証する場合などが考えられます。他方で、裁判例においては、会社荒らしの目的で株式が取得されたとしても、株主名簿の名義書換えを拒絶することはできないとされているので注意が必要です(東京地裁昭和37年5月31日判決)。
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- 2009年 京都大学法学部卒業
- 20011年 京都大学法科大学院修了
- 2011年 司法試験合格
- 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
- 2016年 アイシア法律事務所設立