会社法132条から134条は、株主名簿の名義書換えの手続きについて規定しています。株主名簿の記載は会社・第三者に株式譲渡を対抗するための要件とされているため、株式を譲り受けた場合には速やかに株主名簿の名義書換えの手続きを行う必要があります。
株主名簿の名義書換請求は原則として株式の譲渡人と譲受人が共同して行うべきとされています(会社法133条)。また、譲渡制限株式の場合には株主名簿の名義書換請求をするためには譲渡承認が必要です(会社法134条)。会社自身の行為により株主名簿の記載事項に変更が生じた場合には、株式の取得者による株主名簿の名義書換請求を待たずに会社が自ら株主名簿の名義書換えをする必要があります(会社法132条)。
この記事では会社法132条から134条を紹介するとともに、それぞれにおいて問題になる点を解説します。
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会社が株主名簿の名義書換えをするべき場合(会社法132条)
(株主の請求によらない株主名簿記載事項の記載又は記録)
第百三十二条 株式会社は、次の各号に掲げる場合には、当該各号の株式の株主に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。
一 株式を発行した場合
二 当該株式会社の株式を取得した場合
三 自己株式を処分した場合
2 株式会社は、株式の併合をした場合には、併合した株式について、その株式の株主に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。
3 株式会社は、株式の分割をした場合には、分割した株式について、その株式の株主に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。
どのような場合に会社が自ら株主名簿の名義書換えを行うべきか
会社法132条は、以下のように会社自身の行為により株主名簿の記載事項に変更が生じた場合には会社自らが株主名簿の名義書換えをするべきことを定めています。
- 新株発行や自己株式処をする場合
- 自己株式を取得した場合
- 株式併合・株式分割を行う場合
株式取得者による株主名簿の名義書換請求については、株券が発行されているか、又は譲渡株式であるかによって手続きが異なります。これに対し、会社法132条に定める場合については、株券が発行されているか、又は譲渡制限株式であるかを問わず会社が単独で株主名簿の名義書換えを行う必要があります。
原始株主による株主名簿の名義書換請求権
また、裁判所は、会社法132条は原始株主による株主名簿の名義書換請求権を定めたものであるとし、原始株主として株式を取得した者は会社法132条1項に基づき単独で株主名簿の名義書換えを請求できるとしています(東京高裁令和元年11月20日判決)。株式を原始取得した場合は会社法133条が想定する場面ではなく、他方で、会社法132条は会社が株主名簿の名義書換えをするべきと定めるのみであり、原始株主からの名義書換請求が認められるか明確ではないことから、裁判所は会社法132条1項に基づく原始株主による株主名簿の名義書換請求権を認めたものと考えられます。
株主名簿の名義書換請求の手続き(会社法133条)
(株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録)
第百三十三条 株式を当該株式を発行した株式会社以外の者から取得した者(当該株式会社を除く。以下この節において「株式取得者」という。)は、当該株式会社に対し、当該株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。
2 前項の規定による請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。
会社法133条は株式の取得者による株主名簿の名義書換請求の手続きを定めています。株主名簿の名義書換請求は、原則として株主名簿上の株主・その相続人等と株式の取得者が共同して請求する必要があります(会社法133条2項)。株券発行会社である場合や確定判決を得た場合等は株式取得者が単独で名義書換請求を行うことができます(会社法施行規則22条)。なお、振替株式には会社法133条の適用はありません。
株券発行会社における名義書換請求
株券の占有者は会社法131条1項により適法な権利者であることが推定されるため、株式の取得者は株券を提示することにより単独で株主名簿の名義書換えを請求できます(会社法133条2項、会社法施行規則22条2項1号)。他方で、株券発行会社の場合は確定判決を得たような場合であっても、株主名簿の名義書換えを請求するためには株券の提示が必要とされているので注意が必要です。
株券の占有者が一般承継により株式を取得したと主張する場合は、株主名簿の名義書換請求をするためには一般承継の事実を証明する必要があると考えられています。この点は株券の占有者についての権利推定を定めた会社法131条の解説も参考にしてください。
株券不所持の申出がなされている場合
株券不所持の申出がなされている場合、株券発行会社において株式を譲渡するためには株券を交付することが効力発生要件とされているため(会社法128条)、譲渡人は会社法217条6項に基づき会社に株券を発行して貰い、譲受人に対して株券を交付することにより株式を譲渡しなければなりません。譲受人は交付された株券を提示して株主名簿の名義書換えを請求することになります。
(参考)株式譲渡に関する会社法上の諸問題(会社法127条~129条)
これに対し、株券不所持の申出をしていた株主から一般承継により株式を取得した相続人は、一般承継の事実を証明すれば、株券の提示なく株主名簿の名義書換えを請求できると考えられています。
無権利者による株主名簿の名義書換請求がなされた場合
株券発行会社・振替株式の場合
株券発行会社において株券を提示して株主名簿の名義書換請求がなされた場合や、振替株式について総株主通知に基づいて株主名簿の記載・記録を変更した場合は、株券の占有者や振替株式の加入者は適法に権利を有すると推定されることから、株主名簿の名義書換えを行った会社は悪意・重過失がなければ責任を負うことはありません。
悪意・重過失とは、名義書換えを請求した者が無権利者であることを立証できるにもかかわらず、故意・重過失により怠ることをいうと考えられています。例えば、東京地裁昭和32年5月27日判決は、株主総会の招集当時において株券に係る権利は真の株主に帰属する旨の勝訴判決が言い渡されていたことから、会社に悪意があるとして真の株主に対する招集通知をなさなかった株主総会決議の取消しを認めました。
非上場会社かつ株券不発行会社の場合
非上場会社かつ株券不発行会社の場合は、原則として株主名簿上の株主・一般承継人と株式の取得者による共同申請で株主名簿の名義書換請求がなされます。しかし、非上場会社かつ株券不発行会社の場合は株主名簿上の株主が適法な権利者であると推定されるわけではないため、仮に株主名簿上の株主が無権利者であるときは会社は免責されないと考える見解も有力です。
譲渡制限株式における株主名簿の名義書換請求(会社法134条)
第百三十四条 前条の規定は、株式取得者が取得した株式が譲渡制限株式である場合には、適用しない。ただし、次のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
一 当該株式取得者が当該譲渡制限株式を取得することについて第百三十六条の承認を受けていること。
二 当該株式取得者が当該譲渡制限株式を取得したことについて第百三十七条第一項の承認を受けていること。
三 当該株式取得者が第百四十条第四項に規定する指定買取人であること。
四 当該株式取得者が相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者であること。
譲渡制限株式については、株式譲渡について会社の承認を得た場合、株式取得者が会社法140条4項の指定買取人である場合、又は相続その他の一般承継により株式を取得した場合に株主名簿の名義書換えを請求できます(会社法134条)。
定款変更により株式に譲渡制限が付された場合
判例によれば、会社が定款変更により株式に譲渡制限を付した場合、譲渡制限前に株式を譲り受けたものの、株主名簿の名義書換えをせず、会社法219条1項の株券提出期間内に株券を提出しなかった株主であっても、会社に対し旧株券を提示して株券の交付により株式を取得したことを証明して株主名簿の名義書換えを請求できるとしています(最高裁昭和60年3月7日判決)。
なお、株券提出期間の経過後は株券を無効となるため(会社法219条3項)、その後に株券を交付しても会社法128条1項の要件を満たさず当事者間においても株式譲渡の効力は生じないとされています(東京地裁昭和56年9月8日判決)。裁判所は、株券提出制度は既発行株券を回収して流通を止めるために設けられたものであり、既発行株券の回収を集団的・画一的に行う必要があることから、未提出株券は絶対的に無効となるため善意の譲受人であっても保護されないと判断しています。
譲渡制限株式を一般承継により取得した場合
相続その他の一般承継により譲渡制限株式が取得された場合、会社としては相続その他の一般承継による権利取得の証明を求め、株式取得者が立証をする必要があると考えられます。
相続その他の一般承継は株式の「譲渡」に当たらないため、譲渡制限株式を一般承継した場合には会社の承認は不要となります。しかし、相続その他の一般承継によって株式を取得したことを証明しなければ、会社法133条による譲渡制限株式についての名義書換禁止を解除することができません。そのため、株主名簿の名義書換えを請求するために、株式の取得者としては相続その他の一般承継により株式を取得したことを証明する必要があるのです。
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- 2009年 京都大学法学部卒業
- 20011年 京都大学法科大学院修了
- 2011年 司法試験合格
- 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
- 2016年 アイシア法律事務所設立