(発行可能株式総数)
第百十三条 株式会社は、定款を変更して発行可能株式総数についての定めを廃止することができない。
2 定款を変更して発行可能株式総数を減少するときは、変更後の発行可能株式総数は、当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数を下ることができない。
3 次に掲げる場合には、当該定款の変更後の発行可能株式総数は、当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数の四倍を超えることができない。
一 公開会社が定款を変更して発行可能株式総数を増加する場合
二 公開会社でない株式会社が定款を変更して公開会社となる場合
4 新株予約権(第二百三十六条第一項第四号の期間の初日が到来していないものを除く。)の新株予約権者が第二百八十二条第一項の規定により取得することとなる株式の数は、発行可能株式総数から発行済株式(自己株式(株式会社が有する自己の株式をいう。以下同じ。)を除く。)の総数を控除して得た数を超えてはならない。
発行済株式総数と発行可能株式総数
会社法113条3項は発行可能株式総数について、発行済株式総数の4倍を超えることはできないと定めています。この4倍ルールは、単に会社が発行できる株式数の上限というだけでなく、既存株主の持株比率の低下は最大4分の1までであるという限界を定めるものと考えられています。
実務的には、資金調達時に発行可能株式総数を超える株式の発行を行うニーズがあります。このような場合、株式の発行を停止条件とし、停止条件が成就した時の発行済株式数の4倍まで発行可能株式総数を増やすことで対応できると解されています。この点を明確にするために会社法113条3項は、発行可能株式総数を増加させる定款変更の株主総会決議時点ではなく、定款変更の効力が生じた時点での発行済株式総数を4倍ルールの基準としています。
最高裁昭和37年3月18日判決は、会社法制定前において発行可能株式総数について上記と同様の判断をしています。また、最高裁は、株主総会決議の効力発生に条件・期限を付すことは、法律の規定、趣旨又は条理に反しない限り、原則として許されるとし、株式発行を停止条件とする発行可能株式総数の定款変更決議は適法であると判示しています。
発行可能株式総数を超える株式の発行
発行可能株式総数を超えて発行した株式については、超過部分だけでなくその全てについて無効事由があると考えられています(東京地裁昭和31年6月13日判決、福岡地裁平成12年7月14日判決参照)。なお、発行可能株式総数を超えて株式が発行されたとして争いになる事案は、発行可能株式総数を増加させる定款変更とともに株式を発行したものの、当該定款変更に関する株主総会決議が無効や不存在だと判断されたケースが少なくありません。
株式発行に無効事由がある場合、直ちに株式発行が無かったことになるわけではありません。新株発行の無効は訴えによってのみ主張することができ(会社法828条1項2号)、無効の訴えを認める判決が確定するまでは新株発行は有効と取り扱われるからです。
なお、発行可能株式総数を超えて新株を発行した場合について、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金という罰則が定められているので注意が必要です(会社法966条)。
発行済株式総数が減少した場合
自己株式の消却や株式の併合が行われた場合は発行済株式総数が減少します。発行済株式総数が減少した場合に発行可能株式総数がどのような影響を受けるかについて、平成26年会社法改正により、株式の併合に関する株主総会の決議に従って発行可能株式総数について定款変更をしたものとみなされる旨が規定されました(182条2項)。
これに対し株式の消却については、明文の規定が設けられておらず発行可能株式総数は減少しないと考えられています。
新株予約権の行使と発行可能株式総数
会社法113条4項は、行使期間が到来している新株予約権の行使によって取得される株式数は、発行可能株式総数から発行済株式総数を控除した数を超えてはならないとし、新株予約権の行使に備えて発行可能株式総数を留保することを定めています。
しかし、株式の発行が予定されるのは新株予約権の行使だけでなく、取得請求権付株式や取得条項付株式の対価として株式が交付される場合もあります。しかし、これらの株式の取得の対価として株式が発行されることに備えて発行可能株式総数の留保は求められていないと考えられています。ただし、これらの株式の取得の対価として交付される種類株式については、発行可能種類株式総数を留保するべきとされています(会社法114条2項)。
発行可能種類株式総数(会社法114条)
(発行可能種類株式総数)
第百十四条 定款を変更してある種類の株式の発行可能種類株式総数を減少するときは、変更後の当該種類の株式の発行可能種類株式総数は、当該定款の変更が効力を生じた時における当該種類の発行済株式の総数を下ることができない。
2 ある種類の株式についての次に掲げる数の合計数は、当該種類の株式の発行可能種類株式総数から当該種類の発行済株式(自己株式を除く。)の総数を控除して得た数を超えてはならない。
一 取得請求権付株式(第百七条第二項第二号ヘの期間の初日が到来していないものを除く。)の株主(当該株式会社を除く。)が第百六十七条第二項の規定により取得することとなる同項第四号に規定する他の株式の数
二 取得条項付株式の株主(当該株式会社を除く。)が第百七十条第二項の規定により取得することとなる同項第四号に規定する他の株式の数
三 新株予約権(第二百三十六条第一項第四号の期間の初日が到来していないものを除く。)の新株予約権者が第二百八十二条第一項の規定により取得することとなる株式の数
会社法114条は、種類株式発行会社において、発行可能種類株式総数についてのルールを定めています。会社法114条は発行可能種類株式総数について4倍ルールは定めておらず、発行可能種類株式総数は当該種類の発行済株式総数を下回って減少させることはできないこと、取得請求権付株式・取得条項付株式・新株予約権の行使による種類株式の発行に備えて発行可能種類株式総数の留保をするべきことを定めているのみです。
発行可能株式総数と発行可能種類株式総数の関係について会社法は特段の規定を設けておりません。そのため、発行可能種類株式総数の合計数と発行可能株式総数は必ずしも一致する必要はありません。
議決権制限株式の発行数(会社法115条)
(議決権制限株式の発行数)
第百十五条 種類株式発行会社が公開会社である場合において、株主総会において議決権を行使することができる事項について制限のある種類の株式(以下この条において「議決権制限株式」という。)の数が発行済株式の総数の二分の一を超えるに至ったときは、株式会社は、直ちに、議決権制限株式の数を発行済株式の総数の二分の一以下にするための必要な措置をとらなければならない。
公開会社については、議決権制限株式は発行済株式総数の2分の1を超えてはならないとされています。もっとも、会社法115条は、発行済株式総数の2分の1を超えた議決権制限株式も有効であることを前提として、そのような状態を解消する措置を義務付けるにとどまっています。また、会社法115条違反について罰則等は定められていません。
したがって、会社が会社法115条に定める措置を取らず、議決権制限株式が発行済株式総数の2分の1を超える状態を放置していた場合には議決権制限は無効となるのではないかが問題となります。しかし、この点については必要な措置を長期間怠ったとしても議決権制限条項が無効となるようなことはないと考えられているようです。
- 2009年 京都大学法学部卒業
- 20011年 京都大学法科大学院修了
- 2011年 司法試験合格
- 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
- 2016年 アイシア法律事務所設立
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